[ゼミログ] 演劇とアートマネジメント

11/10のゼミのログです。

今回のゼミは、学部生にテーマ決めと議論のファシリテーションを担当してもらう第2回としました。担当者は、ほしのくんです。

今週のテーマ:演劇とアートマネジメント

アートマネジメントとは、芸術と社会をつなぐための業務、もしくは方法論やシステムのことです。
どこまでをこの活動に含めるかというと諸説ありますが、ここでは公演を成り立たせるようないわゆる「制作」「舞台監督」の仕事から、組織や劇場の運営、国の文化支援やまちづくりまで、大小問わない共同体のマネジメントを含めたいと思います。
それぞれが別の制作団体を組織している演劇業界では、制作部や営業部の能力によって、公演の実現が大きく左右されます。一方で、演劇制作のブラックさが少し前に文章投稿サイトで話題になりました。
公共劇場や文化支援についてもゼミで度々話題に上がりましたが、それらもまさにアートマネジメントの実例と言えるでしょう。また、アートマネジメントの本元である英米との比較も議論の余地があります。
今回は、規模の大小を問わず、興味分野に合わせて演劇や舞台芸術のアートマネジメントの事例などを、一人当たり5~10分間発表していただければと思っています。それを土台に、「演劇と社会の関わり」や「演劇をつくる組織」について議論してみたいです。
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参考
アート・マネジメント|美術手帖
https://bijutsutecho.com/artwiki/14
アートマネジメントとは|宮崎 刀史紀|ネットTAM
https://www.nettam.jp/course/management/1/

ゼミでは、アートマネジメントの基礎知識として宮崎刀史紀氏の「アートマネジメントとは(ネットTAM)※1」をもとに、その歴史やそもそもの定義を知ることから始まりました。
宮崎氏は記事の中で、慶應義塾大学教授(2006年当時) 美山良夫氏による以下のようなアートマネジメントの定義を引用しています。

「芸術・文化と現代社会との最も好ましいかかわりを探求し、アートのなかにある力を社会にひろく解放することによって、成熟した社会を実現するための知識、方法、活動の総体」

この定義からも分かる通り「アートマネジメント」を議論するには、「現代社会」の状態・在り方を考え、「そこにアートがどう関わるか」を考える必要があるようです。
過去のゼミでも何度か取り上げた、「町おこしとしての演劇やアート」や、「公共ホールがアートとともにどうあるべきか」という議論はまさにアートマネジメントの話であったのだなと感じます。

自治体におけるアートマネジメントの実例をもとに
実際のアートマネジメントの例として、野田邦弘氏による「自治体によるアートマネジメント※2」をもとに議論を行いました。
本論文は、野田氏が実際に横浜文化事業部で、職員として文化行政を行った体験をもとに、アートマネジメントと行政について考察されたものです。
野田氏は、文化行政の担当者としてアートアドミニストレーター(文化行政専門スタッフ)の必要性を指摘しています。

アートアドミニストレーター(文化行政専門スタッフ)とは、この両方を兼ね備え、芸術家と自治体の通訳の働きをする人のことである。芸術家に対しては自治体を代弁し、自治体には芸術家を代弁しながら、プロジェクトを成功へと導くのである
(中略)
文化行政の発展には、自治体内部でアートアドミニストレーターを育成、登用、活用するシステムの確立が急務である。

この「通訳」という表現はとても分かりやすく納得させられるものでした。
自治体と芸術家が異なる言語(それぞれの都合)を持っているため、それをうまく擦り合わせていく必要があります。これは自治体に限らず、芸術家と非芸術家の間でも同様のことが言えるのではないでしょうか。

アートと通訳
通訳という話が出てきたこともあり、ゼミではアート専門の通訳・翻訳団体である ArtTranslatorsCollective の話になりました。
ArtTranslatorsCollective のサイト※3には以下のようなコンセプトが掲げられています。

私たちは、翻訳者・通訳者として言語を介する対話の部分にのみ関わるのではなく、作品や企画の本質を捉え、何を、誰に、どのように伝えたいかについて制作者と共に考え、その実現に向けた方法を提案していくことこそ、アートの分野に必要な「翻訳」作業であると考える。 そして、翻訳・通訳を一つの表現として扱うことで、より豊かなつながりを作りだしていけると確信している。同時代を生きる当事者として表現者に寄り添いながら、人と人、人と思想をつなぐ媒介者として創造活動を行い、主体的に提案・発信していくことで、芸術の新たな展開に寄与することを目指す。

このコンセプトは、野田氏のいう所の「芸術家と自治体の通訳の働き」と大いに共通する部分があると言えるでしょう。

おわりに
今回は、アートマネジメントの歴史や実例を参照し、その実現のために何が必要かを議論しました。その1つとして上記で紹介したような広義での「通訳・翻訳」としての役割を持つ人材が必要があるのではないでしょうか。


※1 アートマネジメント、再び|宮崎 刀史紀|ネットTAM

※2 野田 邦弘, 自治体におけるアートマネジメント, 文化経済学会〈日本〉論文集, 1996, 1996 巻, 2 号, p. 29-33,

※3 Art Translators Collective webサイト


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