【8/11の日記】伊藤えん魔様の演劇を観に行ったよ
伊藤えん魔さんという演劇人がいる。俳優業だけでなく脚本・演出等も手掛け、劇団を主宰してもおられるのでこう書く。
自分がえん魔様を知ったのは怪談がきっかけであった。彼は怪談を語ったりもするのであるが、その演技力たるやすさまじかった。格が違う、とはこのような事を云うのかと思い知ったものである。何しろ演技力が凄いものだから臨場感が凄い。まるで自分がその場にいるかのような気分である。これはとんでもない人が現れたと思い、以来追いかけている。
そのえん魔様が怪談演劇をやると云う。怪談師として活動している方々の持ちネタを演劇化し、更にその当人を呼んで劇の後にフリートークを行うという、怪談好きにとっては夢のような公演である。無論のこと、新幹線をかっ飛ばして観に行った。
実はこの公演は毎年行われており、自分は去年から見に行っているのだがとにかく安定感がすごい。生の舞台であるというのに、失敗しそうな気配が微塵もない。映画のように安心して観ていられるのである。自分は生の舞台を見ていると「失敗したら可哀想だな」と勝手に役者さん達を心配してしまってハラハラしてしまうのだが、えん魔様の舞台は安定感が凄いので安穏と観ていられる。これは自分のような小心者には非常に有難い事である。
そしてとにかく脚本が凄い。手短にまとめつつ話の良い部分・怖い部分をしっかりと残し、更に独自のアレンジを加えてえん魔流に仕上げている。元の話を知っていても、新幹線をかっ飛ばしてまで観に行く所以である。今回は怪談師の夜馬裕氏の持ちネタ、「コッペパン」の話が特に秀逸であった。夜馬裕氏と言えば長尺の怪談ばかり語る事で有名であるが、それがコンパクトにまとめられている上に、コメディとしてしっかり面白いのである。大いに笑わせてもらった。
夜馬裕氏の相方であるインディ氏の怪談も演劇化されていた。女装した中年男性がママを務めるぼったくりバーの話なのであるが、その女装ママさんが原作と演劇とで全く違う。元の話では「ギャグ漫画に出て来そうな、絵に描いたようなオカマ」だそうなのだが、それが美しい女優さんになっている。だが声が低めでハスキーなので、男性と思えばそんな気もしてくる。そんな女優さんがママを演じる事で、話全体が妖しく神秘的な雰囲気になっているのである。元の話とはまた違う魅力が出ていて、これまた大成功な改変であった。
最後はやはり一番怖い話で締められた。ある女性の、子供時代の可愛らしい思い出……かと思いきや、という話なのだが、主役というかメインの演者が天野美帆さんという、私が大好きな役者さんであった。本来の楽しみ方とは少々離れているが、勿論、ファンとしては彼女がメインの劇を観られて大満足である。
他にも一話ずつ感想を書きたいところであるが、数が多いので省略する。結論としては、えん魔様の演劇は面白い、ということである。だが惜しむらくは日帰りだったせいで、演劇の後のトークショーが聴けなかった。新幹線でとんぼ帰りしなければならなかったのである。翌日に別の予定を入れてしまったが為の自業自得なのであるが、地団駄を踏みたい程悔しかった。もう関西に引っ越そうか……などと考えながら、新幹線の座席で私は目を閉じた。