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北朝鮮はウクライナに朝鮮人民軍を派兵しているのか? ― 朝露包括的戦略パートナーシップ協定から読み解く情報戦

ゼレンスキーによる突然の発表

 ウクライナのゼレンスキー大統領は、10月17日、「北朝鮮がロシアが占領しているウクライナ領土内にいる」、と表明した。

 また、「北朝鮮がウクライナと戦うために1万人規模の兵士を派遣する準備をしている」との表明も行った。

ウクライナのプロパガンダ工作

 この情報は世界に衝撃を与え、報道においてもネット空間においても、「既に北朝鮮が参戦している」、あるいは「北朝鮮はこれから派兵する」など様々な憶測が流れている。しかし、それらを議論する前に一度立ち止まって、この情報群が流された「意図」を考察する必要がある。

 後述するように、ゼレンスキーの発表を追いかけるように韓国国家情報院(NIS)が、北朝鮮の派兵に関連したかなりの量の情報を公開した。このタイミングでNISが情報公開を行ったいうことは、ゼレンスキーの発表を始まりとして、NISの情報公開に至る流れは一つのセットとして計画された作戦であると推測することが自然だ。有り体に言ってしまえば、これらは宇韓合作のプロパガンダであるといえる。

 通常、NISを含む諜報機関は自らがつかんだ軍事情報を率先して公開することは無い。なぜならば、情報を公開すれば自らの情報収集能力を逆分析されてしまうからだ。敢えて行われた今回のイレギュラーなNISによる情報公開には、必ず何らかの「プロパガンダ的意図」があると考えるべきであり、その情報の精度の分析以前に発表された意図を分析する必要が有る。

 ウクライナ、そして韓国の「意図」を分析せずに、「本当に北朝鮮が派兵されているのか」「規模はどのくらいか」「北朝鮮とロシアの意図は何なのか」などの議論を始めてしまっては、既にプロパガンダの術中に嵌っているのと同じこととなる。なぜなら、こうした議論はウクライナと韓国が用意したテーマの俎上で議論をしているにすぎないからだ。

ウクライナとNATOの駆け引き

 ウクライナの意図を分析するため、現時点のウクライナが置かれている環境を考えてみる必要がある。これまでウクライナのプロパガンダは、主として「ロシアを悪であると印象付ける目的」と、もう一つは「西側から何らかの援助を引き出す目的」で行われてきている。そして、後者の西側諸国に対する援助要求は、ウクライナが存亡の危機に至るほどの劣勢である今日、きわめて重要性を増している。

 今回の「ウクライナ戦線への北朝鮮軍の参戦情報」は、ウクライナが西側諸国に対して兵器だけでなく兵士の援助も行うように要請している最中にゼレンスキーによって突然発表された。

 時期的なものと内容から推測すると、ウクライナが北朝鮮の参戦を発表した「意図」とは、NATOに対する「兵器だけでなく兵士を送って欲しい。」という要求と、それに対するNATOの反発「25歳未満の動員というカードが残っている。」という駆け引きのなかから出てきたものと考えると合理的だ。国内的な事情からこれ以上の動員を避けたいウクライナと、直接的に兵士を送り込むことは避けたいNATOが激しい駆け引きを続けている。
 
 つまり今回の北朝鮮参戦情報は、ウクライナ側が「ロシア側も第三国である北朝鮮が参戦してくるんだから、NATOもウチに直接参戦して欲しい。」という交渉カードを切るため、ウクライナ情報部によって起草されNISがそれに協力して作り出されたプロパガンダ作戦であると考えると非常につじつまがあう。

 そして、ゼレンスキーが「北朝鮮が派兵している」旨の情報を発表した翌日、NATOのルッテ事務総長が「現時点では確認できていない」とウクライナの情報を即座に否定している。これは、前述の駆け引きの文脈の中で、ウクライナの情報を認めてしまうとNATOが折れざるを得なくなるため、即座にけん制として発言したものと考えれば非常につじつまが合う。

 「ウクライナはこう言ってる」「NATOはこう言ってる」と言った発表された内容に振り回されてはいけない。それよりもNATOとウクライナの交渉を俯瞰し、ウクライナが突然北朝鮮を持ち出してきた理由を考え、そのピースがどこに嵌るかを考えれば全体のストーリーの流れが見えてくる。

※ 以下 2024/10/23 に追記

 もう一つ、重要なポイントはこの発表がなされた直後の11/5にはアメリカ大統領選挙の投票日が控えていることである。この選挙の結果によっては、ウクライナの支援に否定的なトランプ元大統領が再び大統領の座に就く可能性がある。トランプ氏の独特なレトリックであるが「当選すれば24時間以内にウクライナ出の戦争を終わらせる。」と常々言ってきている。

 ウクライナとしてはハリス候補、トランプ候補のいずれが大統領に選ばれようとも支援を継続してもらえるよう、「ウクライナが危機に瀕しているレート」を吊り上げておく必要がある。ウクライナ指導部は仮にトランプが大統領に当選したとしても何とか戦争支援を継続してもらえるようにするため、第三国である北朝鮮が参戦してきているというプロパガンダを強力に流布し、これを既成事実化させておくべきと考えた可能性がある。

※追記終わり

韓国側の意図

 以上の説明だけでは、韓国がなぜ、ウクライナがNATOに直接参戦を要求するために行ったプロパガンダ作戦の手伝いをしたのかが理解できない。韓国側が置かれた状況から、その意図を探ってみると、背景にあるのは、ロシア・北朝鮮間で締結された「包括的戦略パートナーシップ協定」である。

 本協定は経済・安全保障・技術開発や文化交流を含む広範なパートナーシップ協定であるが、安全保障面でかなり相互に踏み込んだ内容であることが特徴的だ。

 「武力攻撃に対する国家の個別的もしくは集団的自衛権を規定する国連憲章第51条に従い、どちらか一方が戦争状態に陥った場合、利用可能なあらゆる手段を用いて直ちに軍事援助やその他の援助を提供する

 上記に代表される相互防衛項目が含まれており、この協定は韓国側の立場に立ってみると非常に危険な協定である。昨今の北朝鮮は「南北統一」路線を破棄し、韓国を憲法上も「最大の敵」と位置付けるといった大胆な政策転換を行った。これらの変化により、現在南北関係は朝鮮戦争後では朴正煕時代に匹敵するほどの最悪に近い状態になっていると言える。そのような緊張した状況において、南北が再び開戦する状況になったとした場合にロシアが北朝鮮に対して最大限の援助をすると確約していることは、韓国の安全保障担当者にとっては悪夢であると言える。

 当然、韓国としてはこの協定がいかに国際関係に悪影響を与えるかをアピールし、可能であれば協定を破棄させていきたいと考えているはずだ。

 韓国側には、「国際法を破ってウクライナに一方的に侵攻し、様々な制裁を受けている交戦国であるロシアに対して、兵器のみならず兵士まで供給している北朝鮮は極悪国家であり更なる制裁が必要だ。」というメッセージを国際社会に投げかける意図がある。安全保障面で苦境に立たされている韓国は、対ロシアなど一方向的ではあるが国際社会に復帰しつつある北朝鮮を再び孤立させたいという意図を持っている。

 ウクライナは北朝鮮が参戦しているという情報を流す事によってNATOから譲歩を引き出し、韓国は北朝鮮が参戦しているという情報を流す事によって「朝露包括的戦略パートナーシップ協定」の危険性を世界にアピールすることができる。

※ 以下 2024/10/23 に追記

 また、ウクライナと同様に韓国も「トランプ・リスク」を抱えている。トランプ氏は大統領だった時代に米軍が駐留する国々の負担が軽すぎると常々主張し、在韓米軍も相応の負担をしなければ撤退させると主張してきた。

 北朝鮮との関係が過去最悪水準となり、かつ、北朝鮮がロシアとかつてない相互防衛協定を結んだ現在、ユン政権としてはなんとしても米軍に駐留してもらう理由を作る必要が有る。そのためには北朝鮮の危険性を強くアピールしておくことが必要となる。

※ 追記以上

 そういった国際関係の中で、今回はウクライナと韓国の利害が一致し、共同してプロパガンダ作戦を実行したのだろうと推測する。

国家情報院(NIS)情報の確度

 ここからは、韓国国情院(NIS)がホームページで発表した情報をもとに、その確度や意図を探っていく。

輸送艦による兵力移動

 NISはホームページにおいて以下のように主張している。

 「国情院は北朝鮮軍の動向を密着監視していた中、北朝鮮が去る8日から13日までロシア海軍揚陸艦が北朝鮮特殊部隊をロシア地域に輸送しているのを捉え、北朝鮮軍の参戦開始を確認した。ロシア太平洋艦隊所属の揚陸艦4隻および護衛艦3隻が同期間、北朝鮮の清津・艦興・無手段近隣地域で北朝鮮特殊部隊1,500人余りを搭載し、ロシア・ウラジオストクに輸送する第1次輸送作戦を完了した。近いうちに2次輸送作戦が行われる予定だ。」

 去る8日から13日までとは、2024年の10月8日から13日の間を示す。この間、ロシアの太平洋艦隊に所属する揚陸艦と護衛艦艇、計7隻のそれなりの規模の艦隊が日本海を往復したことを示している。

 さて、この期間の防衛省・自衛隊のプレスリリースを見ると、NISの主張する輸送作戦に相当するようなロシア艦艇の行動は記録されていない。防衛省・自衛隊はロシアおよび中国の航空機や艦艇の行動に注意を払っており、その動向をホームページで詳しく情報公開している。

 単独行動の艦艇すらもきちんと自衛隊により補足されている中、なぜNISの主張する行動に該当するようなロシア艦艇の行動が確認されていないのか。まことに不自然であると言わざるを得ない。もちろん、防衛省・自衛隊も収集した情報の全てを発表しているわけではない。しかし、重要度の高いものについてはホームページできちんと公開している。今回、NISが主張するロシア艦艇の行動は、もしその行動が本当に実在したのであれば、防衛省・自衛隊が発表するには十分な規模の行動であったと言える。

統合幕僚監部 報道発表資料 令和6年10月15日付より引用

 NISは10月12日に新津で撮影されたとするロシア輸送艦の衛星写真を公開している。

NISが公開した新津におけるロシア輸送艦とされる衛星写真

 果たして、この「光ノイズのようなもの」からNISはどのようにしてこれを「ロシア輸送艦」だと判別したのかが非常に疑問だ。全長から割り出したと言っても、同じような長さの船は世の中に山ほど存在する。むしろ、証拠として発表するために適当な写真が無いため、わざとノイズの多い写真を用意して「これがロシア輸送艦の動かぬ証拠です」と強弁しているのであろうと推測する。

 衛星写真情報は有効であるが、一般の市民はその真贋を判別することが難しい。2003年、当時のアメリカの国務長官であったコリン・パウエルは国連で演説し、衛星写真を含む幾つかの証拠とされるものを例示しながら「イラクが大量破壊兵器を保有している」と主張し、これがイラク戦争の開戦へとつながった。しかし、これが完全な虚偽報告であり、パウエル長官自身も自身の最大の汚点と位置付けていることはよく知られている。

 衛星写真は政府や軍隊が自分たちの中で相手の行動を探るために利用するるツールであり、国際世論に何かをアピールするための情報としてはまったく信用できない。衛星写真を提示されて、「これが原爆です。」「これが化学兵器です。」「これが北朝鮮兵士です。」と言われれば、一般市民は「はぁ左様ですか。」と流すしかない。「なんでそう判断できるんですか?」と質問しても、軍事上の秘密だから答えられないと言われるか、無視されるのが関の山だ。

 そして、もう一つ「なぜ北朝鮮は兵士の移動に鉄道を利用しなかったのか」という疑問が残る。北朝鮮北東部からロシアへは直通の鉄道路線があり、人員の輸送に関して言えば、わざわざ揚陸艦を使うよりも鉄道を利用する方が輸送力も高く時間的にも早く到着する。なぜ鉄道をつかわず、探知されやすい艦艇による移動を選択したのか、そこに合理的な理由は見つからない。

 以上の衛星写真がきわめて不鮮明であること、防衛省・自衛隊がロシア揚陸艦の行動について発表していないこと、鉄道を利用してないこと、これら3点から輸送艦の行動とそれによる北朝鮮軍の輸送に関するNISの情報は、信用度が極めて低いと判断する。

ロシア国内に存在する訓練施設

 NISによれば、北朝鮮から揚陸艦で輸送された北朝鮮兵士は、「ウラジオストク・ウスリースク・ハバロフスク・ブラゴベシェンスクの各基地に分散して駐屯し、訓練を終えたのちに実戦に投入される」とされている。このうち、ウスリースクとハバロフスクの基地については衛星写真が公開されている。

ウスリースクの軍事施設 (NIS Webサイトより引用)
ハバロフスクの軍事施設 (NIS Webサイトより引用)

 これらの写真に写っている点々とした人影が「北朝鮮の兵士である」という根拠はどこにあるのだろうか。この写真からNISはロシア人ではなく北朝鮮人であると判別できるのだろうか?根拠があるならぜひ聞いてみたい。「OSINT、SIGINT、HUMINTなど様々な情報をもとに総合的に判断した」などと主張するのかもしれない。しかし、確たる根拠がない以上はそれらの主張は信用するに値しない。

 もちろん、彼らは専門家による検証に耐えるような証拠を用意する必要は無いのだ。プロパガンダとは目的を達成してしまえば後で嘘がバレたとしても特に困ることは無いからだ。イラク戦争の例でいえば、開戦さえしてしまえば後で大量破壊兵器の嘘がバレても問題ないのだ。諜報関係者のもつ倫理観はそのようなものだし、目的のためであれば上司(例えばパウエル国務長官)ですら平気で騙すのが彼ら諜報関係者である。まして、一般市民を騙すことについてなど、何の良心の呵責も無いだろう。

 写真以外の点についての疑問もある。「なぜ、北朝鮮軍兵士の訓練は極東で行われているのか」という事である。現在、ロシアはクルスク州やベルゴロド州、あるいは占領したウクライナ国内などに複数の訓練施設を持っている。これは動員した兵士(予備役兵)にこれまでの特別軍事作戦のノウハウを教育し、今起きている戦場の特性に対処するためのものだ。なぜ戦場に近い場所にあるのかと言えば、特別軍事作戦の経験がある教官がそろっているからであり、最新の戦場の動向を素早くアップデートできるからだ。

 そのような点から考えると、「戦場から遠く離れた極東で訓練を行い、戦場に投入する」というシナリオはいかにも出来が悪い。この出来の悪いシナリオに対して「ロシアは北朝鮮軍兵士を使い捨てにするつもりだから適当な訓練でいい」と言った悪意のあるプロパガンダが加味されてしまえば、もはや合理的な分析は不可能となる。普通に考えれば、極東で訓練する必要は無く、その訓練も不十分なものとなるはずだ。極東で訓練するよりも早く戦場に近い地域に送り、現地の環境に慣れさせ、最新の教育を施す必要があるはずだ。

ロシア軍への偽装?

 NISは自身のWebサイトにおいて「北朝鮮軍はロシア軍の制服とロシア製武器を支給され、北朝鮮人と類似した容貌のブリヤート人の偽造身分証も発行された。戦場に投入された事実を隠すためにロシア軍に偽装したようだ。」と主張している。特別軍事作戦においてブリヤート人部隊は様々な箇所で活動しており、ロシア系のTelegramチャンネルで検索すれば彼らの活躍について多くの情報を得ることが出来る。そのため、ブリヤート人を偽装すれば違和感が少ないとNISは主張したいのだろう。

 しかし、仮に北朝鮮軍兵士が捕虜になった状況下で、ロシア語もブリヤート語も十分に話せなければ、捕虜となった兵士の扱いはどうなるのか。身分を偽っていれば国際法で規定されている保護も受けることが出来ない。何よりも、北朝鮮軍兵士だと自白すれば北朝鮮政府にとって大きな外交的打撃となる。

 ただし、この「北朝鮮兵士がロシアの正規品の制服やIDを所持している」という情報にはウクライナ側にとって一つメリットがある。服から持ち物まで全てがロシア製であれば、仮に東アジア人の兵士の死体が見つかったとしても、それがブリヤート人か北朝鮮人かはDNA鑑定でもしない限り判別は困難と言う事になる。そうであれば、北朝鮮兵士が本当はウクライナと交戦していなかったとしても、ブリヤート人兵士の死体を北朝鮮兵士の死体だと主張することが可能になる。

 そもそも、「包括的戦略パートナーシップ協定」を内外にアピールするためであれば、ロシアも北朝鮮もお互いの友好関係によって実戦兵力による援助を行ったとアピールすればよいはずだ。ロシアに取っても北朝鮮にとっても、身分を偽ってまで総計1万人程度の兵士を補充する意味はそれほど大きくない。むしろ、嘘をついてそれが露見した場合のリスクの方が大きいと言える。ここにもNISの描いたストーリーの合理性の欠如があらわれている。

コンテナによる海上輸送

 NISは自身のWebサイトにおいて以下のように発表している。

「国情院は北朝鮮が昨年8月以降現在までに合計70回余りにわたって1万3,000TEU(コンテナ個数)以上の砲弾・ミサイル・対戦車ロケットなど人命殺傷兵器をロシアに支援したと評価した。」

「ウクライナ国防情報総局が戦場で回収した北朝鮮製武器を確認した結果、北朝鮮がロシアに支援した武器は122mm・152mm砲弾、ブルセ-4対戦車ミサイル、KN-23など短距離弾道ミサイル、RPG対戦車ロケットなどだった。」

ウクライナが収集したKN-23短距離弾道弾の残骸とされるもの (NIS Webサイトより引用)
ウクライナ軍が鹵獲したとされる北朝鮮ロケット弾(左)と
対戦車ミサイル(右 ブルセ-3/9M113/スパンドレル)
(NIS Webサイトより引用)

「これまで北朝鮮から貨物船 ANGARA によって出荷されたコンテナ規模を考慮すると、これまで122mm・152mm砲弾など合計800万発以上がロシアに支援されたものと見られる。」

 以上がNISによる北朝鮮からロシアへの砲弾輸出に関する評価となる。しかし、この評価はNIS独自によるものでは無い。より高度な分析内容記事が北朝鮮情報分析サイトである 38 NORTH に発表されている。

https://www.38north.org/2024/06/north-korean-munitions-factories-the-other-side-of-arms-transfers-to-russia/

38 NORTHは以下のように述べている。

 「第二に、供給ルートの見込みを把握し、それを阻止する方法を見極めることが重要だ。北朝鮮の軍需工場は、以下の地図が示すように、慈江道の江渓、平安南道の南浦、平壌など、北朝鮮と中国の国境に近い西部に集中している。このことから、ロシアへの北朝鮮輸出の潜在的な輸送ルートを大まかに推定する作業はすでに行われている。工場はロシアと北朝鮮の国境に近い羅津港(羅先市)までローカルな輸送手段を使用する可能性があり、一方、北朝鮮と中国の国境に近い工場は、中国につながる道路や鉄道網を利用してロシアに向かう可能性がある。西部の工場にとっては、南浦などの港が重要な役割を果たすだろう。北朝鮮の製品は黄海を渡って中国の港に輸送され、そこから北上してロシアに輸送されているという証拠がある。」

地図作成者:Kyung-joo Jeon、出典:https://ontheworldmap.com/north-korea/
38
 NORTH が独自に番号を付与
(38NORTH Webサイトより引用)

 ここでいう「証拠」とは、NISの記事にも記載されているロシア船籍の貨物船 ANGARA の動向だろう。この貨物船はその他の約60余隻のロシア船籍貨物船と共に米国財務省外国資産管理室(OFAC)の経済制裁リストに指定されている。Ruiterの記事ではこの船は中国の造船所に恐らく修理のため入港していることが確認されている。

ANGARA (Marinetraffic より引用)

 ANGARA や類似船型の LADY R が北朝鮮とロシアの間の貿易を行っていることは事実である。しかし、衛星写真ではコンテナの中身を知ることはできない。武器の入ったコンテナもあれば、そうでないコンテナもあるであろうことは容易に想像がつく。

 NISの記事のこの部分から推測されることは、NISは独自には北朝鮮とロシアの間の物流を分析できておらず、王立統合安全保障研究所(RUSI)などの分析に依存しているという事だ。なぜならばNISの主張は 38 NORTH や Ruiter の記事よりも情報量が少なく、独自の分析と思われるものは殆ど無かったためである。そもそも武器輸出のトピックと北朝鮮の直接参戦あるいは兵員の派遣というトピックは直接の関係が無い。NISが兵器輸出の情報も混ぜて発表しているために本稿でもとりあつかったが、このトピックから言えることは、NISの北朝鮮の物流を独自に分析する能力はそれほど高くないという程度のことである。

まとめ

 今回はゼレンスキーによる発表と、NISがWebサイトに発表した内容をもとに北朝鮮の特別軍事作戦への参戦について考えてみた。

 ストーリーを俯瞰して考えると、今回の北朝鮮参戦報道はNATOに人員の拠出を迫るウクライナが主導となり、北朝鮮との関係が悪化しているためロシア・北朝鮮間の蜜月をけん制したい韓国が手伝って計画・実行したプロパガンダ作戦であると推定できる。

 ウクライナ側の情報は殆ど証拠を伴わないゼレンスキーによる独自の主張であり、韓国による情報は周辺国の監視網の情報との不一致や雑な衛星写真によるプロパガンダなど信用度の低いものであった。

 今後とも北朝鮮がロシアに兵士を送る可能性は当然あるので注視していきたいが、同様に諜報機関による衛星写真情報などのプロパガンダについては注意して検証していきたい。

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