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その① 祝!イナイセ4巻 紙でも発売決定!〜大逆転の舞台裏ドキュメント〜
こんにちは、半農半漫画原作者のクマガエです。
いきなりですが!!!
僕が原作を担当している『漫画編集者が会社を辞めて田舎暮らしをしたら異世界だった件』(略してイナイセ)のコミックス最終4巻が「紙の単行本」で発売されることが決まりました!!
やったぞー!!! イェーーーイ!!
「ちょ…ちょっとタンマ!(死語)」
「確かにめでたいかもしれないけど、そんなに騒ぐこと? コミックスが紙で出るって普通でしょ?」
よろしい。ご説明しましょう。
実はこの4巻、当初は「電子版のみ」で発売の予定でした。3巻までは普通に紙でも出ていたのに…。最終巻だけ本棚に並べられないという、なんとも悲しい運命を辿ることになっていたのです。
それを!!
・著者自身がコミックスを仕入れ、特典付きで自主販売
・読者を巻き込んだSNSキャンペーン「#イナイセ一粒万倍祭り」
という2大作戦を展開することで、見事ひっくり返すことに成功したのです!!
何かと世知辛い昨今の漫画業界にあって、この一連の流れには編集者仲間から「こんなに頑張ってる著者は見たことがない」「こういう決定が覆ること本当にあるんだ…」という声が届いたほど、なかなかにレアな事件となりました。
そこで…
業界の常識を覆した奇跡の大逆転劇、その舞台裏を公開することにしました!
#イナイセ一粒万倍祭り でワッショイしてくれたみなさんは「へ~、あの時こんな感じだったんだ~」と副音声的に楽しんでもらえたら。
そして、自分と同じような状況で困っている漫画家さんにとって、何かしらヒントになれば良いなと思います。著者にもできることがある!と知ってもらいたいです。あと、クラウドファンディングなど人の応援を募ってプロジェクトを始める方にとっても、参考になる部分があるんじゃないかと思います。
それでは、いってみましょう!
「神輿に担がれる覚悟」を決めろ!
遡ること約2ヶ月前の2022年2月11日。僕と妻は、東京・下北沢で発酵デザイナーの小倉ヒラクさんと一緒に「味噌づくり配信」をしていました。これは、イナイセ3巻の発売を記念して、ヒラクさんが店主を務める発酵デパートメントさんが企画してくださったイベントでした。
この配信のなかで「4巻が電子版のみになるかもしれない」という話に。その時、ヒラクさんがある言葉を授けて(?)くれました。
「神輿に担がれる覚悟を決めましょう!」
いうまでもなく、今回の「電子版のみ」という既定路線をひっくり返すことは、僕一人の力ではどうがんばっても不可能です。全世界に散らばるイナイセ読者のみなさんの力を借りるしかない。みなさんに応援されるしかない。お祭りワッショイされる腹を決めよう!…ということですね。
スイッチが入った僕は鼻息も荒く、さっそくSNSで宣言しました。
イナイセ3巻は有機農業や発酵などハードコアに振り切った結果(!?)反響が大きく、かつてない手応えを感じています! …が、現状では次の4巻は電子版のみ発売が既定路線です。こいつをひっくり返すワッショイ作戦を近々始めると決めたので、よろしくお願いします! みんな、紙で読みてぇよなーーー!? pic.twitter.com/1v06kOEsyR
— クマガエ@4巻6月発売!!『漫画編集者が会社を辞めて田舎暮らしをしたら異世界だった件』(イナイセ) (@kumagaeagamuk) February 13, 2022
実は…「紙で出したいなんて、ただの著者のワガママに過ぎないんじゃないか」と内心ビクビクしていたんです。でも、この投稿にたくさんの方が「応援します!」「紙で読みたい!」と賛同してくれたおかげで「これはみんなの願いなんだ!」と盲信することができました。ガギン!と最初のギアが入った瞬間でした。
想像以上にハードボイルドだった
やる気満々ファイヤー・モードに突入した僕は、さっそくイブニング編集部の担当さんに「4巻を紙で出すための作戦やりたいんですけど!」と相談を持ちかけました。ところが、いつもなら打てば響く担当さんの反応が妙に鈍い。「大変申し上げにくいのですが…」という前置きの後に語られたのは、電子版のみが想像以上にゴリッゴリのガッチガチの既定路線であるという事実でした。「◯部売ればOK」というレベルの話ではなかった…!
正直、数字的な話を色々と聞かされて感じたファースト・インプレッションは「絶望」の二文字でした(笑)
それでも。著者にとって作品というのは、自分の分身みたいなものです。いくら絶望的な状況でも、そう簡単に諦めることはできません。しかもこれは今や僕だけの願いではなく、みんなの願い。担当さんも「逆転の可能性は0ではありません」と言ってくれました。可能性が1%でもあるのなら、ただ座して待つのではなくできることをやろう!と心に決めた瞬間でした。
4巻の発売予定は6月なので、印刷所への紙の手配などを考えると逆転のリミットはおそらく3月末。
残された1か月半で、何ができるだろうか?
「らしくない」を止めた担当さんの一言
さっそく、担当さん&宮澤先生とミーティングを開催することに。この時の僕は「コミックスを自腹で仕入れて、大量の在庫をバックに土下座動画を作ってでも拡散してやる!」という、“刺し違えてでも”モードに突入しておりました。そんな僕に対し、担当さんは言いました。
「読者にとって、著者さんはヒーローなんです。どんな状況でもカッコよくあってほしいと自分は思っています」
頭をハリセンで思いっきりしばかれたような衝撃でした。
イナイセが描くのは“がんばらない田舎暮らし漫画”。窮屈な都会に暮らし、会社であくせく働くだけが人生じゃない。世の中にはもっとたくさんの選択肢があるーーそんなメッセージを込めて書いた作品です。その著者が、会社の数字の論理に飲み込まれて取り乱してしまって良いのか? そんな奴が乗った神輿を担ぎたいか? ワッショイしたいか?
もちろん、先に挙げた拡散方法を卑下しているわけではありません。とても勇気のいることだし、その必死さこそが共感を呼ぶ鍵だと思います。それでも、担当さんの一言で気付かされたんです。それはイナイセ“らしくない”ことだと。
「イナイセ“らしくない”ことで拡散されて4巻が紙で出ても、意味がない。それはきっと作品を殺すことになる」
このプロジェクトの発想方法がガラリと変わりました。そこからは「参加した人に楽しんでもらおう」「イナイセらしいことをやろう」という視点で、作戦を考えるようになったのです。視界が一気に開けて「神輿に担がれる準備は整った!」…そう思っていました。
しかし…この後、僕はまさかの“闇落ち”するのであった…!
《その②へつづく》
その②👇