Vol.21 大河内 彩子|障がいがあってもいつの間にか幸せになっている社会を創造したい博士
1.どのような研究をしていますか?
私は、発達障害のある子どもと保護者への支援に関する研究を行っています。発達障害には程度の差があり、乳幼児健診で指摘されない場合もあります。そのまま成長してしまうと、二次障害が出ることが懸念されます。
乳幼児健診で見逃される発達障害児を減らすため、新しいスクリーニング手法を確立し、適切な支援に結びつけたいと考えています。
具体的には、VR (Virtual Reality)「仮想現実」を活用したプログラム開発に取り組んでいます。VR上に教室を再現し、発達障害児の視線パターンを計測・評価し、定型発達児とは異なる特徴を明らかにする研究を行っています。過去の研究では、発達障害児は同一対象への注視時間が長く、教師の説明に関する理解度が低い傾向にあり、インテロセプション(内受容感覚)が低いことが明らかになりました。このような科学的な定量評価を用いて、定型発達児とは異なる特徴を明らかにしていく研究を行っています。
さらに現在は、VRを発達障害児の感覚の特徴に配慮したソーシャルスキルトレーニングに適用するために研究を実施しています。これらの研究により、発達障害児の理解と支援を科学的に進め、発達障害をもつ人々と家族の幸せに貢献したいと考えています。
2.どのような人生を経て、熊本大学に?
保守的な土地柄と、女性にも社会進出を求める社会の風潮、という相反する2軸の狭間で、どのように生きるべきなのかがわからず、才能を持て余していた10代を過ごしました。
大学入学と同時に東京に出て、女性でも堂々と意見を言うことが当たり前に育ってきた人々に出会い、カルチャーショックを受けました。しかし同時に、東京でも女性差別は根強いことも実感しました。20代で海外に留学もしましたが、女性は黙っているのが美徳の文化で育ってきましたので、自分の殻を打ち破るのが大変でした。
大学卒業後、大学院進学と結婚・出産、子育てを経験しました。仕事と家庭の両立は本当に大変で、家族の支援、職場の理解、種々のサービスのおかげでキャリアを積むことができました。しかし、あの混乱期をどうやって切り抜けたのか、記憶がない部分もあります。
大学教員としては、愛媛大学、横浜市立大学を経て、2018年4月から熊本大学に勤務しています。熊本は幼少期から旅行で訪れており、馴染みがありました。また、城下町で路面電車が走る光景は、郷里にも通じるものがあります。なおかつ、当時は2016年の熊本地震の爪痕も激しく、熊本に身を置くことで復興のお手伝いができればと思い、赴任しました。その後、機会があり、熊本市と共同で熊本地震復興調査をさせて頂きました。
現代女性は伝統的な価値観と社会の変化の狭間で、アイデンティティ形成に苦しんでいると言われています。それが子育ての苦しみにもつながっているというのが、世界共通の理解になっています。私が実践している子育て支援プログラム”トリプルP”でも、「がんばっているのにうまくいかない…」という母親にたくさん出会います。しかし、子育てをうまくできないのは母親だけの責任なのか?と疑問に思います。また、子育てがうまくいかないケースでは、発達の特性による育てにくさといった、子どもの側の要因に帰する見方もあります。その中で私は、母親や子ども、一人ひとりを看ると同時に、社会全体の構造にも焦点を当てて考えています。なぜなら、社会の同調圧力に応えようとした結果、不安・焦り・怒り・葛藤につながっている場合もあるからです。このように、社会のありように疑問を持ち、必要があれば社会を変えようという価値観が、現在取り組んでいる発達障害研究にもつながっています。
3.今後世に残しておきたい、大変だった過去のエピソードは?
ハワイ大学大学院留学中のフィールドワークでは、当時の研究課題がhomeless peopleだったため、Shelter(シェルター)や、Parking lot(駐車区画)等に出かけていました。日本では高齢野宿者が多かったのですが、アメリカでは精神疾患や薬物依存を背景に持つ若い方が多かったです。一人でフィールドワークをするのが我ながら心配になりました。
しかし、子育てと仕事の両立を始めてからは、毎日がサバイバルな感じです。サバイバルなエピソードには事欠きません。
4.研究以外で実は没頭していて自分にとって欠かせないものは?
”ヨガ” です。お気に入りのヨガ講師の動画を見ながら、自分の呼吸に意識を向けることで、何かにとらわれている自分に気づくことができます。ただ、ヨガ瞑想では、つい仕事や家庭のことを考えてしまう自分もいます。「今ここ」を達成するのは本当に難しいと思いながら、ヨガをしています!
▼所属研究室▼
▼紹介記事1▼
▼紹介記事2▼
(編集担当:織畠知香、石本太我、前田龍成、赤池麻実)
***What is KUMADAI-HUB ?***
▶第4回KUMADAI-HUB巡回ポスター展2024の演題登録が開始!
***ポスター展について***
日時:12/1(日) 12:30~18:00
場所:熊本大学工学部百周年記念館
ポスター演題登録:~11/1(金)
事前参加登録:~11/30(土)
参加費:無料 *懇親会は別途必要
***************
▶Kumadai-HUBの紹介ページ🐻(2024)
▶くまだいハブ研究人図鑑
Kumadai-Hub事務局 :kumadaihub@gmail.com