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出てきては消える有象無象ギター機材ブランドの昔話

自分は立場上様々な人のペダルボードを見ます。
正直ボードに入っているだけで眉間に皺が寄る様なアイテムも存在します。
イリーガルな事をしたブランドであったり、過去に大問題を起こしていたり、多岐に渡ります。
大体三年もすれば忘れられる其れ等ですが、繰り返す度に誰も警鐘を鳴らす事もなく、振り返ったりされる事もないのでその頃の話をします。

■少し前の話

CASE1

少し前、具体的には10年前の2014年、マイケル・ランドゥやスコット・ヘンダーソンが当時使っていたVertexなるアメリカのエフェクターブランドが大問題になりました。
アメリカでは野生の有識者たちが日夜機材をリバースエンジニアリング(解析)している中でのトピックです。

VertexのAxis Wahって、MODすらされてないBBE Wahじゃね?

そうです、基板丸ごとそのままのBBE Wahにブランド名と若干の意匠を変更して販売していたのです。
以下は当時内容を上手く纏めてらっしゃるGear Otaku様の記事です。
https://gear-otaku.blogspot.com/2014/09/vertex-effects-axis-wah-bbe-ben-wah.html
なおVertexは詐欺的な商売を行なった事実は認めたものの、返金に応じなかったりなどアーティストが自ら返金を行う騒ぎとなり、円満な決着を迎えたかは怪しい節が沢山あります。

CASE2

その翌年の2015年、「凛として時雨」のTKが多用していたモディファイブランドWAXXにも大問題になってしまいました。
当時Soul Power Instruments の斎藤氏が「Modに出したけど音変わらないとの事で解析依頼を受けた」として、電解コンデンサをオーディオパーツに変更し、意味深にホットボンドを滴下した基板の画像がアップロードされ問題になりました。

結果的にWAXXの他の機材においてもLEDの変更のみであったり、電解コンデンサをニチコンのオーディオグレード品に交換しているのみのアイテムが次々発見されるに至りました。

また、ペダロジックなるサブブランドにおいてはZ VexのSuper Hard Onの回路まんま、タッキーパーツのレイアウトまんまの基板であったなどの余波をもたらすに至りました。

これに関してもGear Otaku氏のブログに詳細に纏めてあります。
https://gear-otaku.blogspot.com/2015/07/waxx-cozy-pedalogic-buff-ishibashi.html

ここで恐ろしいのがファームウエアの書き換えなど行う技術は間違いなく存在せず、そもそもSMDのペダルを解析する技術すら存在しないであろうこのブランドが「デジタル制御」のマルチエフェクターなどのモディファイも手掛けていたことが確認されています。

一連の部分において、当時はキーリーをはじめモディファイ全盛期だったわけですが、日本でそのブームを自ら終焉させるに近い出来事であったと記憶しています。
良識のあるキーリー等は多くのモディファイに関する回路図を公開していたり、国内のSPIなどではコントロールの増設などで「確実に改造されていて価値がある」事をなんらかの形で見える化しているわけです。

CASE3

眉唾的アイテムとして古くは ホンダサウンドワークス に始まり現在まで続く、ただ筐体にジャックをつけたスルーボックスによる音質変化を謳う製品群があります。
初期のホンダサウンドワークスではヴィンテージ配線材による音質の劣化を意図的に狙うもの…として登場したものの、本家もとても短い配線で渡っているだけで信号のインピーダンスが十分に低い場合の影響の程は…?という状況でした。

なおその後ホンダ氏は韓国へ渡ってしまうに至るわけですが…業界内では一種のジョークグッズとして語り継がれることとなりました。

…ジョークグッズで終わればよかったのですが、「セラミックの力が〜」と謳って新たに同じ様なブランドが登場しました。

そちらの説明では「表皮交換が〜」「セラミックにより〜」などと理屈をこねながら高級な精密加工により切削金属筐体を特注するなどして、理屈も理由も怪しい中で付加価値をつけ2万円以上の製品でスルーボックスを販売するに至っていました。
因みに一般的に電気の世界でいう表皮交換とは「高周波ほど胴体の表面を流れる」と言うものです。
この特性は5mの長さであればギリギリ聴覚レベルで効くか効かないかの特性で、筆者もブラインドテストをギターのドライシグナルで実施しましたが、5mケーブルでパッシヴギターの環境で「メッキ有」「メッキ無」では僅かに違いを感じる程度でした。

スイッチング電源やインバーター設計者はこの表皮効果と日夜戦っているわけですが…

また前述のWAXXと同様にデジタル機材、中でもZOOM製マルチストンプのモディファイなども行なっていた事が確認されています。
良くてコンデンサ交換かと思われますが、当時楽器店などは見抜くチェック機能が全くなかったのでしょう、保証も無くなった胡散臭い有象無象が「音質のいい高級品」として店に陳列されたわけです。
あと、当時それに関連して疑わしすぎる検証動画でノイズがなくなるんです!みたいに言ってたケーブル屋さんが作ったパワーサプライもありましたね。
あの検証動画、どう見ても元々のノイズ源から電流経路切り離してノイズ減らしてましたよね?なんで消しちゃったんでしょうか?

なお該当の製品を販売していた方も韓国に渡ってしまった様です。
時折流通が見られますが、一時期の様にばら撒きは行なっていない様です。
また当時。Eウォーターなる怪しい健康飲料の販売や、スピリチュアルな商売をされている法人で名前が確認できましたが、真相は謎のままです。

■当然の話

時折モディファイブランドはデジタル制御のマルチエフェクターなどのモディファイを行なっている場合があります。
SPIやキーリーの様に回路を入力/出力段に追加したり、スルーバイパスのリレー動作に関してOFF時の音質を改善する為のバッファ追加的な改造など明確な理由と部品の追加は可能です。

しかし、AD/DAの内部処理に関しては門外漢は手が出せない部分になりますし、そもそもそのレベルの回路解析ができる人間が個人でその様な商売を行なっているとは考え難いです。
そして定量的に性能を改善する方法とその評価は個人レベルだとかなり難易度が高いです。

90年代頃までの機材では一部でサポート終了品のファームウエアのアップデートを有志が行なっている例も有りますが、基本的にはファームウエアの書き換えやDSP周辺の改造は銀杏一石に出来るものではないです。

そもそも吸い出して同じものを書いていたとして訴訟問題になったムーアーですら「え?そんなことやってたの?!」と言うレベルで、ホットボンド滴下や電解コンデンサのオーディオパーツ化、表皮交換など難しい言葉でどうこうしようというレベルの人間ができる話ではないわけです。

電解コンデンサに関しては電源向きのシリーズなんかもあるのに全部オーディオパーツってのも芸がないわけですし…

勿論コンポーネントが変われば電気的特性は変わるでしょう、しかし数千円上乗せして公式のサポートを失ってまでやるべきレベルの劇的改善が見込めるとは思えません。

■インフルエンサーの危険

わしと良くある話なんですが、インフルエンサーやインディーズアーティストにばら撒きを行なって(場合によってはお金も撒いて)これらが紹介される例も少なからず存在しています。
当然なんですが、まともなアーティストでも有象無象を掴まされてそれを誰も確認も指摘もしない世界です、それらの説明を鵜呑みにしないことをお勧めします。

アメリカではこれらに対して良くも悪くもリバースエンジニアリング文化が機能しており、前述のVertexみたいなのもコミュニティフォーラムでバレてしまうわけです。
日本では精々旧2chの楽器作曲板がその機能を持っていない事も無かったのですが、掲示板によって質には雲泥の差があり信憑性は低かった様に思います。

筆者はDiscord上でその類のコミュニティを運営したことがあり、色々と情報が出ましたが、個人で検証を行なっている方は少なからずいる様に思います。

5年以上前流行した分厚いアクリルピックの文化が消費者として見る無責任の良い例だったと思います。
ブームを牽引した個人リペアマンをローディーに据えていたバンドが各媒体に出演した際にかなりゴリ押していた様ですが、逮捕騒動になった際公式にはダンマリを決め込んでしまいました。
当然ですが、そういった人々の信用は良くも悪くも「そんなもん」であると言うことが露呈した一件だと思いました。
きっとそんな話は此れまでもこれからもたくさん生まれる様な気がします。

根本的な原因は低モラル化であると言え、アパレルを中心に時折問題になっていたりもします。
要は相手の信用の確認、製品の内容に疑ってかからずに紹介してしまう、そのリスクやまともな人間がそれを目にした際の見られ方を意識できていないことが原因でしょう。

楽器に関して言えば1960年台から、ギターとギターアンプの関係はそう大きく変わっていないわけで、今更「劇的な変化!」「プロが言わない真実!」なんてものはほぼ無いわけです。
とは言え前述の低モラル化を招いた原因はメジャーな媒体の情報の質の低さと、付加価値に重きを置き本質や中身を考えないユーザーばかりを育んでしまったことにあるでしょう。

■結論

大体のことは物理で説明がつき、それを人間がどう感じるか、どう捉えるかで評価がつきます。
自分を含め人間とはどう頑張っても思考にバイアスが乗るものです、疑わずに鵜呑みにすることも、疑いすぎる事も本質から遠ざかってしまいます。
そうなった場合に必要なのは内面の理解と確認です。

有象無象の声の大きな悪魔を育てる前に、信憑性があるかから考えて確認する事をお勧めします。
勿論自分の知人はいつでも私に連絡していただいて問題ありません。

それでは今日も今日とて自分の持ち場で頑張りましょう。

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