座席上の荷物棚。
以前、電車で東京通いが1ヶ月ほど続いているという話を書いた。
ひたすら急行電車で向かっていたのはもう諦めたとして、終点の新宿か、手前の地下鉄との乗り換え駅まで大体1時間以上かかる。基本的に始発の駅から座っていくので、立ちっぱなしで疲れる…とはならないが、移動中は暇だ。
スマホでラジオを聴きながらネットニュースを漁ったり、ゲームをしたり、この番組つまらないなと思った時はラジオを止めてYouTubeを観たりしている。
車内がガラガラな時は、向かいの窓越しに車窓を眺めていることもある。
ただ、毎回必ずやることがある。
乗っている車の座席の上を確かめるのだ。
座席の上には荷物棚がある。手荷物が多い時はお世話になっている。車掌さんもたまに「手荷物は前に抱えるか座席上の荷物棚に置いてください」とアナウンスしている。
ただ、一度だけ、荷物棚にとんでもない「モノ」が置いてあったのを見たことがある。
高校時代、部活帰りの電車でのこと。
駅に止まってドアが開くや否や、
「車内の点検をするのでしばらく停まります」
というアナウンスがされた。
あらかたお客さんが降りた頃、私の目の前のドアから駅員さんが乗ってきた。忘れ物の捜索かと思ったのも束の間、警備員が2、3人ゾロゾロと後に続いて乗ってきた。
ただ事ではない、というのは容易に想像がついた。
駅員さん達が車両の中央あたりまで来ると、荷物棚を指差して何か話し込んでいる。
そこに目をやると、黒いボストンバッグのようなものが置いてある。
「何だ、不審物か?」と注目していると、駅員さんがそれをポンポンと叩いた。
ボストンバッグがゴソゴソと動き始めた。
なんだなんだ、何が入っているんだ?事によっては避難した方がいいのか?
そう思った途端、ボストンバッグが起き上がった。
私がずっと黒いボストンバッグだと思っていたそれは、黒い服を着たおっさんで、どこからか乗ってきて網棚の上によじ登り、そこで寝ていたらしい。
結局そのおっさんは網棚から降り、それで車内点検は終了と相成った。
電車は数分の遅れを持って、おっさんを乗せたまま再び走り始めたのだが、私はおっさんがどこから乗ってきて、どうして網棚によじ登ったのか、むしろある種の「不審物」じゃないのかと気になっていた。
こんな出来事はレア中のレア、人生で一度も遭遇しない事案だと分かっているつもりだが、未だに電車に乗ると「いないよな?」と一度は周りを見回してしまう自分がいる。
もうかれこれ5年も前の話なのに。