初めてMoMAを見る
高校2年か3年か。そのくらいの時に、上野の森美術館でMoMA展をやるということを聞いた。
それはすごい!とは思わず、MoMAとはなんぞや?この、ポスターの、草原で踊っている裸の人々はなんぞや?と、思った。
でも、友達の前では「MoMAはすごい。見にいきたくて仕方ない」と、言ってみた。
なりゆき、行くことになった。
家族以外と行く美術館の最初。初めての大きな企画展。
牛飼いのトミザワと一緒に行った。
大変な混み様の中、生まれて初めて(たぶん)のゴッホ。マティス。セザンヌ。
小さな絵だなぁと思った。
2階に上がると、ピカソがいた。
マンダリンを持つ女だったかな?
めちゃくちゃかっこよかった。
トミザワも、これはすごいと言っていた。
その奥に、ジャクソン・ポロックの大作。
衝撃が走るほど、カッコよかった。
不意にトミザワが願いを口にする。
「ちょっとメガネ貸して」
はいよ。とメガネを差し出すと、徐ろにかける牛飼いのトミザワ。
そして
「すっげえ!これ、メガネかけて見ると、めちゃくちゃいいよ!」
信じがたいことに、トミザワは、目が悪いにもかかわらず、視力矯正をせずに、美術館に来ていた。世界的な評価を受ける作品たちを、朧げな眼で見ていたらしい。
でも、高校生の僕は、そんなこともあるだろう。程度に受け止めて、じゃあ、もう一回メガネかけてピカソ見よ!と、順路を逆走し始めた。
この時以来、僕は、美術館で必ず一度来た道を戻ることにしている。
最初に見た時と、2度目に見た時で、けっこう違う。
ちなみに、今なお、セザンヌのよさを、あんまり理解できない。
でも、不思議なもんで、あの時に見た数々の作品の中で、ディテールまで目に焼き付いているのは、ポロックとセザンヌだけ。
美術館では、視力を矯正しよう。