"イケメン来たれ!! 時給2500円!!週3〜から。9:00〜18:00で働ける方。相談可制服支給、交通費支給(上限有り) ※時給2500円はイケメンに限る。通常は985円。
①今、男の手元には貯金が100万円がある。安い給料で働きながらも必死に貯め込んだ金だ。そして少しばかりのまとまった金が貯まったという安堵感からか、10年間働いていた、蟹の脚をひたすら折るという職場を辞めた。まとまった金とはいえ、たったの100万。節制を必死にやったとしても1年はもたないだろう。
そこで男はこの100万円を元手に投資をしようと決意する。開業、株、FX、不動産、ブログを開設しアフィリエイト得るなど様々な投資先があるが、心が躍るような、そしてなによりも確実に金が稼げる!と見込めるものはネットワークの世界をひたすら泳いでも見つからなかった。
現在は無職。時間だけはたっぷりある。男は街へ向かった、鬱々しい退屈を紛らわそうと。
人々は皆なにかしらで社会のお役に立ち、その喜ばし量によって金をもらう。それが仕事の在り方であり、常識なことだということを、街にある幾つもの商店を眺めそれを確信した。
人を喜ばせる仕事、10年もただ蟹の脚を折っていただけの自分に果たしてできるだろうか?もわんとした不安を抱えながらも街を歩き続ける。街には、従業員募集中の張り紙が店頭に張り出されている店が思っていたよりもあり、男はやっぱり真面目に働いた方がいいのではないかぁと割りの良さそうな張り紙を見る度に改心しまくりそうになりつつあった。
しかし、またすぐに細々と働く気にもなれず、そろそろ帰るかぁとボヤけた夕陽を浴び、家路へと歩き始めた。そこから数10メートル歩いた所で男は立ち止まる。
記憶の中では古い銭湯屋であったはずの場所に真新しい書店が建っているではないか。時代はまわるまわる〜という歌が頭にまわる〜。同時に少しセンチメンタルな気分に浸ってしまう。その書店をもちろん冷やかしで覗いてみると、あったあったここにも張り紙が。所詮街の書店員なんぞアルバイトで時給975円ぐらいであろうと少し馬鹿にした気持ちで張り紙を見つめる。
しかし男は張り紙からしばらく目が離せなくなった。従業員募集の張り紙にはこう書かれていたのだ。
"時給2500円!!週3〜から。9:00〜18:00で働ける方優先。相談可
制服支給、交通費支給(上限有り)
※時給2500円はイケメンに限る。通常は985円。
連絡先 ×××××××××× "
時給2500円?!イケメンに限る?そんな奇抜な募集をしている店内の様子を見回しているが、特別変わった所はなく、ますます奇妙さが増していく。まさかイタズラか?色々と気になることはあるが、ひとまず腹も減ったことだし家路へとその日は帰った。
晩飯を食べている時も風呂に入っている時も、あの奇妙な張り紙が頭にちらつく。時給2500円だと1日8時間で2万円を稼げてしまう。それが週5だとすると、月に40万円になる。アルバイトでそんな馬鹿なことがあるのか、書店とはそれほどの重労働なのか、いや待てよイケメンに限ると記載されていたなぁ〜イケメンの定義とは如何に。などと自分にはほど遠いイケメンの定義まで考えてしまう始末。
そこである名案が閃いた。この貯金100万円でこの顔を整形してみてはどうだろうか?そしてイケメン書店員とやらになって特に資格もなくのらりくらりと月に40万円を手に入れてみるのも悪くない。イケメンとやらになるとどんな景色が見えるのかにも興味がないわけではない。
早速、男は後日整形手術をしに病院へ向かった。
②イケメンというのはだいたい個人の価値観であり、ただ大多数に受ける顔面というなのだが、でもその大多数にもジャンルというか派閥があり、俗に言うカッコイイとかカワイイから系統が大きく分かれて、ワイルドとか癒し系とか色気がある等、無限に分類されていく。
あの書店がどういったものをイケメンと分類しているのかは詳しく記載されていなかったが、10人中7人から好意を持たれるような顔面の選択をしなくてはならない。
男は世界のイケメンと日本のイケメンをネットで検索し、トップクラスの顔面を研究した。
まず顔には黄金比というものがあるみたいで、鼻下から顎先の長さが均一であればあるほど、美しい顔立ちだと言われているそうだ。
この医学的な事実に基づいて、トップイケメン達のパーツの個性をイイとこどりして、バランスをバッチリと整えてもらうことにしよう。下手に自ら絵を描いたりして、執刀する医師を混乱させないよう、どう転がっても○○なイケメンという所に着地するようなオーダーを心がける。