ひとりごと
文章を書くのはひどく苦痛な作業だ。でも部屋に一人でいて、不安に苛まれるのはさらに苦痛だ。同じ苦痛なら何か残るほうが良い。
毎晩死にたいと思う。正確に言えば、死にたいのではなく、現状から逃げ出したい。本当はもっと直接的に欲求を吐き出せるのであるが、直接的なものは概して文学的ではない。まわりくどい言い方をするほうが、読者は勝手にその背景を自分の意のままに想像してくれるのだ。
20代も後半になった。アラサーと呼ばれる年齢だ。しかしながら、東京という街で自己を肯定する何かを探し求め、誰かが自分を認めてくれないか、自分が人より優れていることを証明できないか、そればかりを追い求め、子供のままで生きてきた。そんな自分を情けなく思うものの、その自分を否定してしまえば、今までの努力がすべて水の泡になってしまう。何も頼ることのない自分は努力で手に入れた地位に頼る。地位に頼れば頼るほど人間は矮小に見える。
眠れない夜は孤独と不安が自分を襲う。死にたいとグーグルで検索すると、相談ダイアルが一番上に上がる。その電話に試しに電話してみる。何度電話してもつながらない。自動音声ダイアルから、お待ちくださいというアナウンスとともに聞き覚えのあるクラシック音楽が流れるだけの電話だ。
努力は遺伝子に勝てない。大事なことなので二度言う。努力は遺伝子に勝てない。人間はどう努力しても手に入らないものに妬みや羨望を感じる。僕自身は嫉妬の塊のような人間だ。ただ自分が今抱えている嫉妬をここに吐き出せば、この文章自体が自分の人間のレベルに成り下がってしまう。せめて不特定多数が読むこの文章は、僕のレベルに落としてしまいたくはない。
朝が来て夜が来て一日歳をとる。死んでいる、でも生きている。追い詰められて苦痛こそが生きている喜びを感じられる。
金は貯まった。稼げるようになった。ほしいものはなかった。本当に欲しいものはお金では手に入らなかった。努力しても手に入らなかった。
どうすればいいのか。朝になる、夜になる。僕は部屋に一人。ゆらゆら帝国を流す、グラントグリーンを流す、ビルエヴァンスを流す。音楽は流れる。自分はただいる。
僕はここにいて緩やかに死に向かっている。