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金融市場のグローバル化とは何か、そして、グローバル化に伴う金融市場の変遷


今や当たり前のグローバル金融市場、個人でも色々な国の国債や海外企業の株式を購入することができる。

グローバルな市場であるからこそ検討しなければならない事項をしっかり押さえることで、つまり、「リスクの特定」をより明確化することで、「リスクの評価」がより正確になる、と思うのです。





結論、グローバル化で何が変わるのか

金融市場がグローバル化されることにより、
それ以前のドメスティックな市場と比較し、市場参加者は新たに重要な3つの項目の検討が必要となる。これらを加味して総合的に判断を下す必要があります。

・為替リスクと政治的リスク
・市場の不完全性
・ビジネスチャンスの拡大



為替リスクと政治的リスク

・為替リスク
これは、為替レートの予期せぬ不利な動きにより、外貨建て利益が現地通貨建てで蒸発するリスクです。

例えば、1ドル=100円でトヨタの株を1株あたり10,000円で10株購入したとします。(原価USD1,000)
この株式を売却すると、投資額は円換算で10%増の U110,000.
しかし、1ドル=U120円まで円安になった場合、米ドル換算では実質的に損をしていることになります。
株式の米ドルコスト:1000ドル=¥100,000 × 1ドル/¥100
売却時の米ドル価値: 916.67ドル=¥110,000 × 1ドル/¥120


・ポリティカル(政治的)リスク
主権を有する政府は、国境を越えたモノ、資本、人の移動を規制する権利を持っています。これらの法律は、時として予期せぬ形で変更されることがある。



市場の不確実性

2つ目の市場の不確実性とは、モノ・ヒト・カネの移動に関する法的規制のことで、特に取引コスト、輸送コスト、税金の裁定の3つが不確実性をもたらしている。

例えば、ネスレはかつて、無記名株式と記名株式の2種類の普通株式を発行していた。
外国人は無記名株式しか買えず、スイス国民は登録株を購入することができた。そのため、無記名株はより高価であった。
1988年11月18日、ネスレは外国人に対する制限を解除し、無記名株式だけでなく記名株式も保有できるようにし、その後、両株式の価格差は急激に縮小した。
これは、外国人株主からスイス人株主への大きな富の移転があったことを意味する。
ネスレの無記名株式を保有する外国人は、政治リスクの回避地とされるスイスで政治リスクにさらされることになったのである。
ネスレのエピソードは、市場の不完全性を考慮することの重要性と政治的リスクの危険性の両方を示している。



ビジネスチャンスの拡大

最後は、ビジネスチャンスの拡大です。
つまるところ、砂場の片隅で遊ぶだけでは機会費用を失っているに等しい。
企業は、有形・無形の資産をグローバルに展開することで、より大きなスケールメリットを得ることができる。個人投資家だけでなく、企業にとっても同様で常に意識する必要がある。



グローバル化に伴う金融市場の変遷

まず、どのようにグローバル化した金融市場が出現したのか、簡単に言ってしまえば、

金融市場の規制緩和とIT技術の進歩により、情報コストと取引コストが大幅に削減され、その結果、金融イノベーション(例えば、通貨先物・オプション、多通貨債券、クロスボーダー株式上場、国際投資信託、上場投資信託(ETF))が起こったことによりグローバル化が進んだ

ということになる。
その後、グローバル化した金融市場はどのような変遷を追っているか、これを金融市場の主要なトレンドと共に以下で見ていく。

  1. 貿易自由化・経済統合の促進

  2. 国有企業の大規模民営化

  3. 世界通貨としてのユーロの出現
    2010年の欧州債務危機
    Brexit

  4. 世界金融危機(リーマンショック)(2008~2009)


1. 貿易自由化と経済統合の促進

過去50年間で、国際貿易は世界のGDPの約2倍の速さで増加した。
世界の多くの国の政府が重商主義的な考えを捨て、自由貿易を国民の繁栄への確かな道として受け入れるようになったのである。
国際貿易の主な論拠は、比較優位の理論*に基づくものである。

*リカードが定義した国際分業に関する理論。
簡単に説明すると、アメリカの方が穀物を安く大量に生産できるのであれば、日本は穀物を輸入して、余った労働力で他に日本が得意な産業を頑張った方が、双方のトータルの利益が大きくなりwin-winだよね、という考え方。


1947年に結ばれた「貿易に関する一般協定(GATT)」は、加盟国間の多国間協定であり、貿易に対する多くの障壁を減らしてきた。
GATT条約に代わる世界貿易機関(WTO)(1995年)は、国際貿易のルールを執行する権限を持っている。2005年1月1日には、WTOにより輸入繊維製品に割り当てられた関税の時代が終わりを告げた。
その後も、EUやNAFTA(北アメリカ)、ASEAN/RCEP(東南アジア)等の特定の地域でさらに貿易障壁削減された。


2. 国有企業の大規模民営化

民営化とは、企業が保有する事業の所有権や運営権を放棄し、自由な市場原理に委ねることである。民営化はベルリンの壁崩壊とともに始まったわけではないが、東欧諸国の共産主義が崩壊して以来、そのスピードは一気に加速した。

また、民営化は、しばしば目的のための手段とみなされる。
多くの後発開発途上国にとって民営化の利点は、国有企業の売却によって国庫に現金での外貨準備高がもたらされることである。この売却益は、経済に重くのしかかる国債の償還に充てられることが多い。
民営化は官僚の非効率や無駄を解消する治療法として捉えられることも多いのも事実。

国によっては、民営化がグローバル化を意味することもある。
例えば、ニュージーランドは財政を安定させるために、かつての社会主義経済を外国資本に開放する必要があった。
この民営化により、オーストラリアの投資家が商業銀行を支配し、米国企業が国営電話会社や木材事業を買収した。外資の所有と資本主義経済のもとで労働者の権利は変化したが、現在、ニュージーランドは最も競争力のある市場の一つとしてランクされている。



3. 世界通貨としてのユーロの出現

世界の金融システムの歴史に残る重要な出来事としてはユーロの出現がある。
現在、19カ国、3億人以上のヨーロッパ人が日常的に共通通貨を使用している。

オーストリア、ベルギー、キプロス、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、イタリア、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ポルトガル、スロベニア、スロバキア、スペイン。

近い将来、ユーロの取引領域は米ドルの取引領域より大きくなる可能性もある。



一方、ユーロでは無責任な財政政策やBrexitといった問題も発生しており、一筋縄ではいくわけではないことを示している。

欧州ソブリン債危機(2010年)

2009年12月、ギリシャの新政権は、今年の財政赤字がGDPの3.7%という予想ではなく、12.7%になることを明らかにした。
投資家はギリシャ国債を売却し、格付け会社はギリシャ国債を「ジャンク」に格下げした。ギリシャはユーロ圏全体のGDPの2.5%に過ぎないが、この危機は欧州全体の債務危機となった。

このように、ユーロ圏の一国の無分別な行動が欧州全体の危機にエスカレートする可能性があるという課題は残る。
なお、ギリシャは2009年晩秋までドイツ金利を上回るプレミアムを支払わなかったため、結局5月9日の救済措置までギリシャの金利は上昇した。


Brexit

2016年6月23日に行われたイギリスの国民投票で予想外の結果となった。
Brexitは、自由貿易とグローバルな経済統合の難しさを明らかにした。
モノ、資本、人の自由な移動は経済成長につながるが、政治的な反発も招く。

Brexitによる影響は今後も金融市場の継続ウォッチが必要…


4. 世界金融危機(リーマンショック)(2008~2009年)

930年代の世界恐慌以来、最も深刻で世界中の金融市場がシンクロした景気後退と言える。
その主な要因は、家計と金融機関が過剰な借入れを行い、過剰なリスクを負ったこと、そして、このリスクは証券化によって再パッケージ化され、アメリカのサブプライムローンのデフォルトがノルウェーの教師の退職金制度の支払能力を脅かすようになった。
(なぜ、アメリカの住宅ローンの問題が、ノルウェーの教師の退職金に波及するの?というところが味噌です。そこまで、金融市場がグローバル化していることの証左でもある。)





金融の進化は常にITの進化と共にある、と強く思っているのですが、
最近はITの目覚ましい発展と比較し、金融分野で革新的なことがあまり起きていないような気がする。

もちろん、証券市場でのHFT(高頻度取引)や暗号資産、モバイルバンク、AI投資等々、ITの進化に伴った新しいビジネスモデルの登場はあるのだけど、、
”Fintech”という言葉が、”既存の金融という枠組みにITを利活用する”という先入観を植え付けているような気がする。

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