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リスクを定量化して分析する (統合リスク分析)

最近、シリコンバレーバンク(SVB)の破綻からシグネチャーバンク破綻、クレディスイスの経営不安と信用リスクが伝播して(ずさんな実態がバレただけ?)金融業界が慌ただしくなってきている。

これらの原因は、結局リスク分析、つまり、リスクの定量化がしっかりと行われていないからであり、今後、リスク分析の重要性が更に高まると考える。




リスクを定量化する

そもそもリスクとは、将来の不確実性に起因するものである。

リスクが顕在化するためには、以下の項目が成立している必要がある。

  • 不確実性は未来に存在し、時間の経過とともに変化すること

  • 不確実性は、システムの結果やシナリオに(未知の形で)影響を与える場合、リスクとなること

  • これらの影響は測定可能であること

  • これらの測定は、明確なベンチマークに対して設定することができること

  • 不確実性とリスクには時間軸がある(一定期間内に起こる)こと

顕在化するリスクを定量化するということは、分析にあたり必須であり、
例えば、定量化といっても一次元的な判断であれば簡単で、以下のようなbad-good軸のスケールだけで表すことができる。

bad=0 --- scale=0.5 --- good=1

しかし、実際の多次元的な判断はもっと難しく、ポートフォリオ分析のような複雑な数学の計算が必要になる。
*ポートフォリオ分析については、別途解説



リスクの定量化に関わる要因

定量化には、以下のような情報を一つずつ検討していく必要がある。

現金損失(キャッシュインパクト)
これはリスク評価において最も重要な要因。

評判の損失(評判への影響、レピュテーションリスク):
これは評価しにくい要因だが、事後の適切な改善措置が取られれば減少する可能性がある。

一定期間内に損失が発生する確率:
これはいくつかのモデリングを伴うが、正確な解を出すことはできない。モデルの例としては、VaR等が挙げられる。

リスク低減策のコスト:
リスクによってはコントロールが難しいものもある。

リスク低減策の影響:
リスクによっては効率的なものもある。


これらの要因を検討する上で、意思決定には、リターンとリスクの両方を考慮する必要がある。


この意思決定に最もよく使われる方法は、

  • シナリオ分析
    (ベストケース、ベースケース、ワーストケースをそれぞれ分析)

  • what-if(感度)分析
    (ベースケースを一定量乱し、その結果を分析する)


一般的には理論的な分析が行われた後、シミュレーションを行い、様々な方法で(与えられた確率分布の下で)モデルに摂動を与え、結果をまとめていく。



次に、リスク分析のフレームワークを見ていく。


統合リスク分析フレームワーク

これは、企業一般で使われるリスク分析のフレームワークで、基本的にこのフレームワークに沿ってリスク分析が行われることが多い。


  1. 定性的マネジメントスクリーニング:
    どのプロジェクト、資産、イニシアティブ、戦略が利用可能かを決定する。(そのリストはマネジメントのアジェンダに合致している必要がある。)この段階で最も価値のある洞察が生まれる。

  2. ベースケース正味現在価値分析:
    プロジェクトの割引キャッシュフローモデル*を作成する。

  3. 時系列予測、回帰予測:
    他の手法も使用する場合もある。この段階で様々な前提条件を設定する。

  4. モンテカルロ・シミュレーション:
    ベースケースにモンテカルロ・シミュレーション(相関モデル、相関関係は過去のデータから取得)を適用する。収益、コスト、税率、割引率、資本支出、減価償却費など、さまざまなパラメータを乱したシュミレーションを行う。

  5. リアルオプション問題のフレームワーク:
    前のステップで特定したリスクをリアルオプション*でヘッジする(経営者が将来判断できる余地を残すため柔軟性を持たせること)。問題をフレーミングして戦略マップを作成する。戦略的オプションには、タイミング、拡大、縮小、放棄、切り替え、選択などがある。

  6. リアルオプションのモデリングと分析:
    モンテカルロ/回帰を使って、割引キャッシュフローモデルの分布関数を求め、基準価額とボラティリティを分析し、ビジネス予測に指針を与える。

  7. ポートフォリオとリソースの最適化:
    これはオプションのステップではあるが、複数のプロジェクトがある場合は、選択する必要がある。

  8. レポーティングとアップデート分析:
    記録を残し、PDCAを回す。


*正味現在価値分析やリアルオプションについては、以下で別途解説



以上、ざっとリスク分析フレームワークの流れを紹介したが、最後に、上記の分析部分を簡単に説明する。


時系列理論

時間の経過とともに、データ列がどのように変化してきたかという過去の推移から将来の動向を予測しようというもの。

典型的な時系列モデルとしては、
AR(p)として知られる、いわゆる自己回帰モデル (auto-regrresive model)がある。
*後日記事化予定


自己回帰モデルの式は簡単で、

𝑌𝑡 = 𝛼0 + 𝛼1×𝑌_(𝑡−1) + 𝛼2×𝑌_(𝑡−2) + … + 𝛼𝑝×𝑌_(𝑡−𝑝) + εt

この式を言葉で表すと、

𝑌𝑡 = (t日の情報, t-1日の情報, t-2日の情報, ….)^𝑇

となる。

εt はランダム性の源であり、ホワイトノイズと呼ばれる。
なお、ノイズも正規分布を持つ場合は、正規ホワイトノイズと呼ばれる。



回帰分析

回帰分析とは、結果となる数値と要因となる数値の2つの関係を調べて、それぞれの相関関係(一方が増えると、他方も増える関係か、または、全く関係がないか)を明らかにする統計的手法で、最もよく使われる分析。

例えば、3つの確率変数x、yがあり、既にそれぞれの観測値があるとする。

{xj, yj}_(j = 1 to M)
(上記を数式化したもの)

ここで、y = ax + b という方程式予想することで、最小の相関係数 a, b を決定するという分析。





一連の金融情勢とイギリス金融への影響について、各講義の教授に所感を聞いてみたものの、誰からもまともな回答が返ってこない。

自分の専門分野の最新情報くらい常にアップデートしていてほしい。



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