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業界の成長性・収益安定性を評価する

M&Aを考える時に重要なポイントの一つが、「あの企業を買収したら、将来どのくらい成長するのか、勝ち目はあるのか?」という点です。
M&Aの検討にあたっては、デューデリジェンス(Due Diligence, DD)という投資対象となる企業に対して事業や経営の実態・内容を事前に把握する調査を行います。DDにも色々あって、財務DDや法務DD、ITDD、人事DD、BDD(ビジネス)と多種多様です。

この中で、上記の回答を調査するのがBDDであり、「対象会社の所属する市場の成長性・収益安定性は?」(市場)と「その市場の中での対象会社の競合優位性は?」(自社・競合)の両観点で分析することが重要となるのですが、今回は前者についてです。



BDDの総則

買収候補企業の属する市場の魅力度を評価するとともに、そこでの競争のルールや勝つための条件などを明らかにする。それらに対し、対象企業の自社データの分析などから、対象会社はそれらを満たしているのか、その結果、現状どのような業績になっているのかの関係性を解き明かすとともに、今後も稼ぎ続けることができるかを判断する。
まずは、当該トランザクションで、どのようにリターンを得ようとしているのかという投資命題を正しく理解しておくことが重要となる。

今回は、「対象会社の所属する市場の成長性・収益安定性は?」(市場)と「その市場の中での対象会社の競合優位性は?」(自社・競合)の2つの観点のうち、前者についてである。


市場分析の方法論

「対象会社の所属する市場の成長性・収益安定性は?」(市場)を判断するには、以下3つの点が重要となる。

  1. そもそも対象会社の所属する市場をどう定義するか?

  2. その市場の成長性をどう見立てるか?

  3. その市場の収益の安定性をどう見立てるか?


1. そもそも対象会社の所属する市場をどう定義するか?

市場とは、「企業(供給)と顧客(需要)の取引額の合計値」として両面から考え、対象会社の所属する市場を適切に定義することが重要となる。例えば、対象会社がフィットネス事業を展開するケースの場合、所属市場を「フィットネスジム市場」と捉えるか、仮に24時間型のジムを展開している場合、より細分化して「24時間型フィットネスジム市場」と捉えることもできる。それぞれ市場推移のトレンドやKBFが異なることから、所属市場を見誤ると、対象会社の成長性・収益の安定性の見立てを必然的に見誤ってしまうこととなる

そのため、所属市場を適切に定義するには、俯瞰・注視の両方を活用してさまざまな粒度で市場を捉え、その中から適切な粒度を選択することが必要となる。
その「適切な粒度」として、市場分析の目的は「対象会社が所属する市場の成長性・収益性を評価する」ことであり、それに照らすと、「全体の中で、成長性・収益性が異なる部分を正しく切り分けられた状態」が適切な粒度といえる

ポイントとしては、以下のようなポイントが考えられる。

  • 企業/顧客の両主体にとって、何かしらの違い・相違点が生じる軸・切り口がどうか(出店コスト、ランニングコスト、エリア軸等)

  • 事業の提供価値、結果として満たされる顧客のニーズがどうか

実際は、ゼロベースで考えなくとも、市場レポートの分解をそのまま使えるケースも多い


2. その市場の成長性をどう見立てるか?

(1) 対象会社の所属する市場をパラメータに分解する

対象会社のビジネス構造や市場および消費者の特性を理解した上で、”適切な切り口”を見つける必要がある。パラメータ分解の目的は、「市場の成長性を正しく評価する」ことであり、その目的に鑑みると、パラメータ分解は「パラメータを、変化するパラメータ/変化しないパラメータに仕分け、変化するパラメータについてはどの程度変化するのかを議論できる」切り口・粒度が望ましいものといえる。
切り口に関して、その市場のビジネスモデル、つまり、売上がどう形成されるかを理解することが重要。

B2C or B2B
→ アセット(店舗数など)による制約有無 or エンドユーザーの特定可否
→ 総需要内シェア型(DGSにおける調剤カテゴリ市場)、
  客数ベース型(フードデリバリー市場)、
  店舗型(フィットネスジム市場)、
  大型B2B型(半導体製造装置市場)

例) フードデリバリー市場
「利用者×利用者あたり単価」では、適切な切り口だとしても、粒度は依然各パラメータの増減を議論するのは簡単でないし、一方で、居住エリアや性別、年代と細かく分解しても無駄に工数だけが膨らむ結果になりかねない。


(2) パラメータに影響を与えるドライバーの特定

市場の成長性を評価するには、各パラメータが今後どう推移していくかを見立てることも重要であることから、①パラメータに影響を与えるドライバーの特定と②ドライバーの今後の変化の予測を行う必要がある。

①ドライバー候補は需要・供給の量視点から幅出しをするとよい
 例)高齢者数の増加
②信頼できるデータ観測あるいは、インタビュー調査等により変化トレンドを見立てる


3. その市場の収益の安定性をどう見立てるか?

収益構造を理解するためのキー論点は、「①商流」、「②バリューチェーン」、「③マーケット分散」、「④コスト構造」の4視点で整理することが、キー論点を解く、つまり、市場の収益構造を理解する助けとなる。

例)保険会社の場合
① 顧客との接点(販売・契約締結)> 保険料の徴収 > 保険事故の発生と保険金支払い > 再保険契約
② 商品企画・開発 > アンダーライティング(引受査定) > 販売・マーケティング > 契約管理 > 保険金支払い・サービス提供 > リスク管理と再保険 > 資産運用
③ 地域別分散(先進国・新興国)、商品別分散(定期保険、終身保険、養老保険・年金保険、医療保険・がん保険、投資型保険)、顧客層別分散(年齢層、性別等)、販売チャネル別分散(直販、代理店販売、オンライン)、再保険

加えて、収益構造の変化を見極めることが重要となる。

  • 商流の変化による収益構造の変化(卸売から直売への切り替え等)

  • バリューチェーンの変化による付加価値構造の変化(自動車業界の"移動"から"移動中の体験"への変化等)

  • マーケット分散の変化(MVNO等の新興プレイヤーによる通信料金の価格破壊等)

  • コスト構造の変化(原材料費の上昇、営業費用の減少等)


次回は、「対象会社の所属する市場の成長性・収益安定性は?」(市場)と「その市場の中での対象会社の競合優位性は?」(自社・競合)のうち、後者を解説します。



参考文献

久野雅志(2023), 「最強のM&A 異質を取り込み企業の成長を加速させる指針と動作」
中山博喜(2020), 「買収後につながる戦略的デューデリジェンスの実践 外部環境分析の考え方・技術」



最近、飲み会後の家系ラーメンで胃もたれするようになってきた。。泣
家系ラーメンも卒業かな。。



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