最高の食材
人類史上最高の料理が食べられると、知る人ぞ知るレストランがありました。
そこでは高価なスーツと宝石を着飾った紳士淑女達が集まり、一つの丸テーブルを囲み、
興奮気味に料理の登場を今か今かと待ちわびていました。
時の満ちた頃です。
丸テーブルにスポットライトがあたり、優雅なクラシック音楽が流れると、
テーブルの真ん中に四角い穴が開き、微かな機械音と共にエレベーターのよう
に黄金の箱が上がってきました。
四方の板が開くと、中からは愛らしい丸々と太った豚が登場しました。
その目は大きくクリクリとしていて、ピンク色の肌は赤ん坊のように滑らかに
輝き、尻尾の先まで香草のスパイシーな香りが漂っていました。
紳士淑女らからは溜息と生唾を飲み込む音が聞こえてきました。
スピーカから合成音のアナウンスが流れます。
「皆様方、大変お待たせいたしました。これが史上最高の食材であり、
料理でございます。それは科学と自然の結晶でございます。
また人類の求めた究極の食材でございます。
遺伝子操作を行い引き締まった筋肉と甘みのある贅肉を香ばしい皮の中に
たっぷりと詰め込んでいます。腸内には健康に配慮されてサラダさえござい
ます。
また、自然食物由来の遺伝性の人工知能チップが組み込まれており、それは
食されることに無上の喜びを感じる生き物に進化しています。
食されることが存在意義であり、使命であり、喜びなのです。
他者の為にのみ己の存在を活かす、真実の利他精神を内在している
天使のような生物なのです。
もちろん生で食して頂くのをおススメしていますが、
お好みで軽く炙っても美味しいでしょう。食べ方は自由でございます。
さぁ、皆様、ご堪能あれ。」
アナウンスが終わるととに皆はナイフとフォークを両手に取り、我先にと
豚を切り刻み始めました。
肩を耳を腹をとナイフで抉り取られる度に豚は喜びの涙を流します。
豚は賢く、簡単な言語も操れました。刻まれる度に
「ありがとうございます。」「あぁ、神よ。感謝します。」などと嬉しそうに漏らすのでした。
そんな中、1人だけ豚に手を付けない若い娘がいました。
彼女は怯えているようでした。
豚はそんな彼女を見つけると、
「早く食べてくださいよ。」と
豚はまるで本能的に敵を警戒するような表情でその少女をじっと見つめました。
元ネタ:100の思考実験: あなたはどこま で考えられるか