初恋が泣いている
好きな人のことを想って、人前で泣いてしまった経験が私にはある。
電車で流れていたゼクシィの広告、隣に座った人の左手薬指に輝く指輪、仲睦まじく寄り添って座るご夫婦。それらを眺めていただけなのに、気付けばマスクがびしょ濡れになるくらい涙を流していた。
あらゆるラブソングが私達二人のことを歌っているように思えた日々から数日後、何を聴いても心が苦しくなってしまうようになった。
こんなに悲しくて、やるせなくて、気力がない。それなのに腹は減る、そんな自分に嫌気が刺した。あの頃の食事は、ただ物を胃に入れている、そんな感覚だった。
そんな無気力な食事の時でさえ、気を抜くとあの人を思い出して涙が出てくる。何度、泣きながら食事をとったのだろう。何を食べたかは、もう覚えていない。
あいみょんの「初恋が泣いている」のMVを観て、当時の自分を思い出した。
あのあいみょんを観て、「可哀想」、「悲しい」としか思わない人はとても幸せだと思う。きっと当事者になったことがないのだと思うから。
私は、今すぐにでも彼女を抱きしめたくなった。とても胸が苦しくなった、それと同じくらい彼女を愛おしく感じた。
一人、焼肉屋で泣いている彼女に何があったかも、彼女の気持ちも、何も分からない。でも、私も同じことを感じたことがあるような、そんな気がした。だから、抱きしめたくなった。
「泣きながらご飯を食べたことのある人は、生きていけます。」
これは大好きなドラマ、カルテットの台詞。無理に励ますわけでもなく、余計に共感してくるわけでもない。でもとても心強い、この言葉を私は信じている。
あの頃を思い出して、少し苦しい。でもあの時の自分のことを、少しだけ愛おしく感じられるようになった。そんな日が来たことに少し驚く。
今泣いている人も、その自分を愛おしく思える日が来る。目には見えない、遠くの誰かが貴方を抱きしめている。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?