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ブタのベンチ

ベッドに寝転がりながら、ぼーっと窓の外を眺めている。雲間から青空が覗いている。

キッチンからはバターのあまい匂いがする。

昼過ぎに乗る電車は空いていて、車窓から入る陽射しで座席のソファの紫色が照らされている。

無垢な眼差しを落としながら、ぽてっとした頬を寒さで赤らませている男の子。ただ父の指を握る、その仕草の愛おしさが伝わるだろうか。

夜中のファミレスでフルーツパフェを頼むときの高揚感と背徳感。生クリームだと思っていたら、それがアイスクリームだったときの幸福感。

忘れていたことを思い出したけれど、もう手遅れでどうにもならないことがある。先延ばしにする側は、される側のぽっかり空いた時間に気付かない。

新しい洋服を着て、ふかふかした喫茶店の椅子に座り、ウインナーコーヒーのホイップを溶かしながら、カウンター越しに一目惚れをしたい。

いつまでも届かない宅配便を待つような、こんな暮らしを抜け出して、公園のベンチで昼寝をしてしまいたい。そしてポストに入っている不在票を見て、私もそっち側だったことを思い出しながら、再配達を依頼するのだろう。

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