十四時、金沢。
少し冷たい風が、日差しがずっと当たって熱くなった頬を冷やす。クリープハイプのライブを観に金沢市文化ホールへ。もうかれこれ、物販の列に並んで一時間半が経つ。列に並ぶ人のために等間隔に貼られた、地面の青いテープが全く役に立たないくらいの人の数だ。ツアー初日、地方でもこの盛況ぶり。この物販を待つ時間さえ、愛おしい。ただし、欲しいグッズが売り切れていない場合に限る。もし自分の番になって欲しいものが全て売り切れてしまっていたら、こんなに穏やかではいられない。頼むから愛おしいままでいてほしい。
かなりの音量で新しいアルバムの曲が流れ続けている。ホール入り口にあるヤシの木の違和感がすごい。でも、その違和感すら愛おしい。ただし、欲しいグッズが売り切れていない場合に限る。
初めて金沢に来た。本当は東京のチケットを取ろうと思っていたが、日程が平日だったため、大事を取って土曜の金沢公演を選んだ。まるで病人のような言い回し。中学生からファンなのだから、立派な中毒者だ。間違ってはいない。
はい、この時点で手ぬぐいが売り切れ。はい、一番欲しかった手ぬぐいが売り切れた。はいはいはいはいはい。もうここまで来たらやけで並ぶ。平気な顔をしているけれどすごく悔しい。金沢駅で呑気に寿司を食べていなければ。あの、のど黒め。とんでもなく美味しかったけど、その代わりに手ぬぐいがぁ〜。と思ったらポストカードの引き換え券を手に入れた。メンバーから「ほらよ」とばかりに、ありがとう。
リハーサルの音が、ホールの奥から聞こえてくる。胸の奥の方に響いてくるのがわかる。胸の奥の方をつつかれているのがわかる。
物販の待ち時間に、苦汁200%ストロングを読んでいる。毎日毎日、こんなに色々なことを考えているのかと読むたびに感心してしまう。と同時に、惰性で生活を送っている自分に嫌気が差す。
最近は仕事のための生活にならないように必死だ。生活の中に仕事という時間があるだけ、生活を仕事だけで終わらせたくない。そのくらい今の仕事が好きじゃない。この週末くらい仕事のことを忘れたいのに、気づいたら目の前に立っている。呆れるくらいに嫌なやつ。でも見てみぬふりしか出来なくてまた嫌になる。生活が蝕まれているのがわかる。もうなんとなく全てやめてしまいたくなっている、でも先のことを考えると不安でそれも出来ない。
元々何もできないのに何かの役に立とうとしているから、おかしなことになっている。どうにもできない毎日をどう足掻こうか必死に考えている。こんな気持ちを抱えながら、これからライブを観ようとしている。なんだかライブに申し訳ないような気もしてくる。でもこんな絶望感すら預けてみたいと思える、クリープハイプはそんなバンドだ。
今夜は月が綺麗だよ、本当に美しいツアータイトルだ。風で入り口のヤシの木が揺れている。美しい日になる気がする。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?