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三浦春馬出演ドラマ 「オトナ高校スピンオフ ~炎上のチェリークリスマス♥~」

季節感なんてあったもんじゃなかった、2020年。
今年の1月ぐらいまでの記憶はあるが、それ以降はコロナ禍突入で、ずっと自宅で仕事して外出の機会が減り、人との接触も減り、それでも忙しくわさわさ生きてきたものの、具体的には何をしてきたかあまり覚えていない。
覚えているのは、長かった今年の梅雨、天気の悪い7月の土曜日に三浦春馬君が旅立ったこと。
それ以降、暑かったんだろうけど日差しを浴びずに過ぎた夏、秋っぽさなんて一瞬たりとも感じないまま寒くなった冬。
そして、今年もあと1日で終わるってよ。
時が早く流れているのか遅く流れているのかもよくわからないけど、世の中はいつの間にサンクスギビングも過ぎて、クリスマスとか言っちゃって、もうお正月もそろそろ来るなんて、私、ちっともそんな気分ゼロ、ナッシン、ナッシン、ナッシ~~~~~ン!!!!(▼ Whitney Houstonの「I Have Nothing」風にどうぞ。)

完全に浮世から隔絶した感満載の私、これもいかがなものよと思い、少しは年末気分を盛り上げてみるかと、春馬君の作品で年末っぽいものがあったっけかと探してみる。
そしたら、あったのだよ、「オトナ高校スピンオフ ~炎上のチェリークリスマス♥~」が。

これは2017年にテレビ朝日系で放送されたドラマ「オトナ高校」のスピンオフ版で、地上波放送はされずネット配信のみだった模様。
このドラマ「オトナ高校」は、性体験がない30歳以上の男女が入学させられる「オトナ高校」を舞台にした学園ギャグドラマ。
その本編は前にどこかの配信で観ていたのだけど、このスピンオフの存在自体を知らなくって、このテレ朝動画で見られることを知った次第。

正味40分程度の短いドラマで、地上波に載らないからか、全体から醸し出される若干のチープさは否めないが、その分、自由度が増して、チェリートのイカれっぷりが本編以上に際立っているような気がする。
DVD-BOXには、このスピンオフも含まれてるのかしら。
このテレ朝動画では、単話(30メダル=300円相当)で購入できるし、メダル自体も細かい単位で買えるものもよい。
「オトナ高校」本編がまだの方は、色々な配信サイトで見られるので、宜しければそちらで、まずは春馬君扮する英人(チェリート)のクズっぷりをご覧あれ。

チェリートのチェリーっぷりが想像の斜め上を行く。

このスピンオフは、12月23日から24日に掛けての物語。あらすじは以下の通り。

クリスマスイブ前日――多くの童貞・処女が“卒業”を迎えたオトナ高校で、ただひとり“卒業”を逃したエリート童貞・荒川英人(三浦春馬)はやさぐれモードで、婚活アプリに登録しまくっていた。そんな折、英人はオトナ高校の担任・山田翔馬(竜星涼)から衝撃の事実を告げられる。なんと副担任の姫谷さくら(松井愛莉)が誘拐されたというのだ! しかも犯人は、オトナ高校に関する国家機密を狙う“国際テロリスト”らしい…。 「見事救出すれば、国民のヒーローになって、さくらちゃんと結ばれる!」 根拠なき妄想で鼻息を荒げた英人は、翔馬や元同級生の斑益美(山田真歩)&川本・カルロス・有(夕輝壽太)と共に捜査を開始。その矢先、婚活アプリで気に入っていた椿綾乃(小島梨里杏)からデートに誘われた英人は、浮かれ気分でクリスマスイブに会う約束をする。だが運悪く、綾乃との待ち合わせ時刻に、誘拐犯からも呼び出しがかかることに! 究極の二択に英人は頭を悩ませるが…!?

この配信版だけがそうなのか知らないが、このスピンオフには、「オトナ高校」本編にはある、あのオープニングのダンスシーンがなく、いきなりドラマに入ってしまうのはちょいと残念。しかし「ピンクチェリートのモノローグ(真っ白なバックにピンク色のライトが当たりながら、英人が吐露する心の声)」のシーンは盛りだくさん。のっけから、英人さんこんなことを仰っている。

「第二次性徴期を過ぎたころから、自信を持って言えることがある。僕はクリスマスが、嫌いだ!幸せそうに歩くカップルたちも、所詮は一人でクリスマスを過ごしたくなくて妥協した連中だろ?孤独に耐えることもできない弱者たちなど全っ然羨ましくない。僕を見ろ、幾ら婚活で玉砕しようが、恥じることなく堂々と生きてる。これが庶民とエリートの人間力の差だ。」

あぁ、英人さん、相変わらずこじらせている。いや、こじらせているというより、高飛車で、自意識過剰で、自己肯定感が強くて、嫌味な英人さん、ゲスを極めている。クリスマスが嫌いな英人さん、もはや、クリスマスに憎しみも感じているかもしれない。英人さんの言うカップルって、かつての「笑っていいとも!クリスマス特大号」のオープニングに出てくるタモリ牧師が言ってた「木っ端アベックども」ってやつで、タモリ牧師の名説教「今日はクリスマスですね。木っ端アベックどもが、街中のレストランで食事なんかしやがってバカヤローっ!」っていうのを英人さんが聞いてたら、スタンディングオベーションしそうだわ。

さくらちゃんの部屋に入った時のでんぐり返し、意味がなさ過ぎて笑えるわ。干された、さくらちゃんの下着を目の前にしての、英人さん、顔、顔!
普通に話しながら、白目向いちゃう英人さん。わざと白目向くというよりも、喋りながら自然に白目向いちゃう、ヤバいヤツの方。こういうの、本当ならイジって笑いに変えたいけど、英人さんはイジったらキレるタイプかもしれないから放っておく。春馬君が真面目に英人さんをブレず、振り切って演じてくれるからこそ生まれる、可笑しさが秀逸だ。

婚活アプリの相手から電話が掛かってきて、「僕が一番気に入っていた、激カワ女子じゃないか!」ってピンクチェリートがいう時に、前かがみで前後に揺れているのなに?キモい!そして、振り返っての満面の笑み。その彼女と会って、「やっぱり、激カワだ!」と海老ジャンプのピンクチェリート。
あぁ、キモい。(ここで言うキモいは、それくらい素晴らしい演技ができているという褒め言葉である。)キモさが前より倍増していないか、三浦春馬なのに…。

健気なセクシー処女との一夜の夢を捨て、さくら先生の救出に向かう英人さん。一人で倉庫の中に入ろうとする英人さんが、すこぶるカッコつけながら言う。

「もし僕に何かあったら、さくらちゃんに伝えてくれ。チェリーのために死ねて、チェリートは本望だったとな。」

あぁ、すこぶるカッコ悪い…。何で、こんなに格好悪く見えるんだ、三浦春馬なのに…。

犯人らしき男に猫パンチで殴りかかろうとした英人さん。膝が崩れ落ち、後ろに体が逸れ、相手のパンチをたまたま交わしてしまう。前に倒れこんだら目の前に大きな蛾がいて驚き叫び、後ろにのけ反った英人さん、ちょうど後頭部で相手を頭突きすることになり男が後ろに倒れ、英人さんがその男を蹴ろうとしたら、英人さんの靴がスコーンと飛んでいくまでのシークエンス。もうこれは、ちょっとした芸術性も感じるような無様さ加減。声を出して笑えたわ。もう英人さんの一挙手一投足が、カッコ悪くていちいち面白い。あぁ、三浦春馬なのに。

最後には、やっぱり一人になってしまった英人さん。ホールサイズのクリスマスケーキを前にして、英人さんにしては穏やかな笑顔で「チェリークリスマス♡」。すっごいゲスい男に変わりない英人さんだけど、何だか最後は愛しく思える不思議。英人さんにも、いつか幸あれ。

でも、英人さん、ご本人の気持ちに焦りはあろうけど、無理に童貞を卒業なくても良い気がする。かの、村上龍氏の青春小説「69 sixty nine」にこんな一節がある。

「十七歳で童貞ということは、別に誇ることでも恥ずべきことでもないが、重要なことである。」

この小説の主人公たちは高校生なので17歳の設定だが、30歳の英人さんにも同じことが言えよう。30歳で童貞であることは、誇れることでも恥じることでもないが、本人にとっては重要だ。その重要さ、わかる、すごくわかるが、誇るな恥じるな。英人さん、卒業できなくても、冒頭のピンクチェリートのモノローグよろしく、堂々と生きていけ。もしも童貞を卒業してしまったら、きっと英人さんは調子に乗りまくって、更に輪をかけて世の中からズレて行くことだろう。今ぐらいの、コンプレックスを抱えたぐらいの方が、英人さんにとっては丁度よいというか、情けなさが出て、人として面白味が増すと思うのだ。

コメディは三浦春馬の新境地。

春馬君の出演作全部を見切ったわけではないのでわからないが、春馬君にとって、ここまでしっかりとしたコメディ作品に出たことはあったのだろうか、しかも、春馬君自身がかなりのギャグセンスを発揮しなければならない役で。
「銀魂2」は福田監督だし、もともと原作もギャグ要素の強い漫画だったけど、春馬君が演じた伊東鴨太郎は全くもってギャグを言う役どころではなかった。
私はここまでコミカルな役を演じる春馬君を、この「オトナ高校」で初めて見た気がするが、春馬君は実に良い作品と出会ったのだなと思った。
かつて、モックン(本木雅弘さん)が映画「ファンシィダンス」で、アイドルから俳優への脱皮を図ったと言われたように、笑いを取れるような演技ができるようになれば、その俳優としての力量が格段に上がったと見られるものだと思うし、逆に、笑いを取る演技ができるかできないか、このチェリートを演じることは、春馬君にとっての試金石だったのかもしれないと思う。
そうなると、これまで爽やか、かつ、端正なお顔立ちの春馬君が、このチェリート英人を演じるにあたっての役作りは結構難儀で、今までの、二枚目が二枚目を演じる時とは違った作業が生じたのではないかと思う。
が、結果、面白いものが出来上がって良かった。
見ている方は楽しかったけれど、春馬君は演じていて楽しかっただろうか。

今、たまたまドラマ「タイガー&ドラゴン」を見ていて、めちゃくちゃ面白くって、これ、宮藤官九郎の大傑作コメディだなと思いながら、その脚本の凄さを改めて感嘆している。(ちなみに、上で紹介した「69 sixty nine」の映画版の脚本を手掛けたのもクドカンだ。)
春馬君はクドカン作品とはご縁はなかったけれど、例えば、クドカンの作品に春馬君も出られたとしたら、どの作品の、どの役だったらハマったかなぁなんて、妄想を巡らしている。
その役を演じた役者さんのこともあるので、私の妄想の中身をここで披露することはしないが、春馬君が演じたら面白かったかもなと思える役は幾つかある。
春馬君はもっと演れた、そう私は思う。
春馬君ご本人の意向はどうだったかわからないけど、コメディは、俳優として血となり肉となるもので、演って絶対に無駄にならないし、この「オトナ高校」でのチェリートを見ても、「三浦春馬、コメディでイケる!」と世に示せたわけで、他にももっとチャレンジしてもらいたかったと思うところではある。
ブチ切れて怒鳴りまくってもよし、白目向いて変顔するもよし、のけ反ってブリッジしちゃってもよし、全身で笑える演技をする春馬君をもっと観たかった。

年の瀬によせて。

もうすぐ2020年が終わる。
TikTokのCMのナレーションが、実にしっくりくるので載せておく。

想像していた2020年とは全然違った。
まさか、年の真ん中あたりで、それまで気にしていなかった俳優の、突然の死に衝撃を受けて、以降、毎日のように泣いて、それ以外考えられなくなって、行き場のない心情の捌け口をネットの中に求め、それがここまで続くなんて思ってもみなかった。
思いもよらない2020年だったけれども、今日も生きている。
皆、よく頑張った。

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垣 公華子
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