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女子会という名の戦争
「ところで、みなさんは好きな人いるんスか?」
不意に放たれた遊部の一言に、場の空気が凍りついた。
ここは某有名コーヒーチェーン店の二階。この手の店にしては珍しく独立した店舗として営業しているここは、二階に広々とした静かなスペースが設けられていた。
そこに、見目麗しい四人の少女たちが集まっている。
メリア、クロエ、カナミ、遊部である。本来であれば、四人の共通項である敗者の少年もいそうなものだが、そんな彼は「ちょっとノリオと遊んでくるわー」などと言って、朝から出かけてしまった。
なので、せっかくならこちらも女子会をしようと集まった次第である。
「いっ、いきなりなんてこと言うのよ、百合!」
ガチャン!と派手な音をさせながら立ち上がったのはカナミ様だ。珍しく顔は真っ赤になり、あわあわとして余裕がない。……ちなみに、飲み物は遊部がしっかりと守ったのでセーフだった。
「そう言われましても……恋バナは女子会の定番じゃないっスか」
「そうかもしれないけど……っ! とっ、とにかくっ! あたしはいないからっ!!」
真っ赤な顔でぷいっと横を向く仕草は『います』と自己申告しているようなものだ。
極上美少女が赤面して恥じらうというシチュエーションに全力でヨダレを垂らす遊部。今日も百合趣味小学生は絶好調である。
「それじゃあ、好みのタイプだけでもお願いするっス」
「好みのタイプ? そうねぇ……。とりあえず、イケメンで金持ちで爽やかなスポーツマンで、あたしのイスになってくれるような下僕、かしら?」
真顔でアレな発言をするカナミ様。遊部は「ほうほう。それから?」と続きを促す。
「そっ、それからっ? それから……えっと……。たっ、たとえば! あたしが困ったときに、助けてくれるような……」
「つまり、敗斗さんっスね」
「なんでそうなるのよっ!?」
カナミ様が再び赤面してツリ目の端に涙を滲ませる。「ああ……。カナミお姉さま、萌え……」と悦に浸った遊部が、今度はメリアに矛先を向けた。
「では、次はメリアお姉さま、どうぞ」
「わっ、わたしですかっ!? えっと……その……。や、優しい人がいいなーと思います……」
「つまり、敗斗さんっスね」
「ふえっ!? あのっ……! そのっ……!」
かーっと、メリアもりんご飴のように真っ赤になる。否定しないところが微笑ましい。結局、恋愛は素直な人間が一人勝ちするんスよねー……と、遊部が仏のような心で思った。
「最後はクロエお姉さまっスけど」
「私の好みのタイプは、性的なアレコレに精通した方です」
「つまり、敗斗さん……なんスか?」
「その通りです」
クロエさんが澄まし顔で同意する。他の少女たちは首を捻るばかりだ。
「皆さんはご存知でないと思われますが、マスターはかなり『お上手』です。私が保証します。先日、少しだけ私に触れて頂いた時も、それはそれは、めくるめく快感が――」
「ちょっと待ちなさいよ、あんた! あたしらに隠れてなにやってんの!?」
「え、えっちなのはいけないと思いますっ!」
「ふっ……。お子様たちに実技は早すぎます。保健体育の教科書でも読んでいなさい」
バチバチッ!と少女たちの間で火花が散る。
遊部が「まあまあ、落ち着いてくださいっス」と宥めるが、あまり効果は見られない。せっかくの遊部ハーレムだというのに、これではあんまりだ。
「そうだ。今の質問を敗斗さんにもしてみましょう。ひょっとしたら、有益な情報が得られるかもしれないっスよ?」
適当なことを言いつつスマホで電話をかけると、他の少女たちも押し黙った。
「あ、敗斗さんっスか? ぶっちゃけ、今、好きな人います? いなかったら、好みのタイプだけでも教えてもらえないっスか?」
軽い調子でそんなことを話していると、三人の美少女が遊部の方をガン見していた。
妙なプレッシャーに怯えた遊部は、スマホをスピーカー通話にしてテーブルの上に置く。そこから、敗斗の声が流れた。
『なにを言っているんだ、遊部。俺の好きな女は、お前だよ』
「………………」
『俺が困ったときは、いつも助けてくれる。お前の情報がなけりゃ、俺はまともにカネすら稼げない。……愛してるぜ、遊部。一生そばにいてくれ』
三人の美少女が立ち上がった。それぞれが無言でトレーを持ち、返却口へと向かう。どうやら、遊部ハーレムは解散の運びとなったらしい。
「うわーん! 敗斗さんなんか、大嫌いっスーーーーー!!」
その後、当分の間、女子会が開かれることはなかった。