
失井敗斗暗殺計画② 最初からクライマックス
勝子「よう、敗者。久しぶりー」
敗斗「おわぁっ!? なっ、なんでアンタがここにっ!?」
勝子「んー……強いて言えば、暗殺?」
敗斗「くっ……! やはりカナミの件を根に持って……! だが、手持ち資金はないぞ……! どうする、俺……!?」
勝子「そう身構えるなよ。こう見えても、過去は三日で水に流す主義だぞ、あたしは」
敗斗「ほ、本当か……?」
勝子「もちろん。てことで――おねーさんと、イイコトしよーぜ♡」
敗斗「うわぁっ!? はっ、離せ! 油断させておいて拘束とか、勝者のくせに汚ねぇぞ!!」
勝子「いや、普通にお前の両手を掴んでいるだけだが。しかも、あたしは片手で」
敗斗「化物のくせに人間様の常識を語るんじゃねーよっ! あんたの片手の握力だけで、俺の両手が砕けそうなんだが!?」
勝子「あー。ワリィ、ワリィ。他人とじゃれ合うなんて久しぶりだから、加減がわかんなくてなー」
敗斗「ったく……。……おい。確かに痛くはなくなったが、拘束が継続されているぞ。用がないなら離せ」
勝子「いや、用はあるんだって。さっき、イイコトしよーぜ♡ってハート付きで言ってやっただろうが」
敗斗「イイコトってなんだ。もしや、新手の儲け話か? ビジネスパートナー契約? あるいは、《魔石通貨》市場も恐慌状態にしてボロ儲けしようとかいう――」
勝子「お前……こんな絶世の美女から『イイコト♡』って言われて、想像するのがそれか。健全な男子高校生としてどうなんだ」
敗斗「いや、美女と言われても……。あんた、体が《資産》なわけだし、実物が何歳かわかったもんじゃ――」
勝子「…………」
敗斗「いっ、痛ててててっ!!? おいっ! また手首絞まってんだけど!?」
勝子「あーん? レディへの対応がなってないガキを躾けてやろうかと思ってな。なんか勘違いしてるみたいだが、あたしがその気になればお前の全てを奪えるんだぞ?」
敗斗「くっ……! やっぱりカネ目的じゃねーかっ! クロエの《固定資産税》が激ヤバだから、どのみちカネなんざねーぞ!」
勝子「どこまで残念な脳みそなんだ……。カネ勘定以外はマジでからっきしだな、お前……」
敗斗「ああ、そうだ。だから、あんたがいてくれないと困る」
勝子「…………?」
敗斗「俺の専門はカネ儲けだ。『幸せ』の在り処なんて知らん。だから……もしメリアが俺のそばで幸せになれなかったら、あんたがなんとかしてやってくれ」
勝子「……なんだそのダッセー台詞は。物語の主人公が絶対言っちゃいけないやつだぞ」
敗斗「ハッ。『物語の主人公』は、あんたのことだろ。俺は所詮、脇役。いいとこ、あんたに倒されるラスボス辺りだろう。自分の手が届かないものは、他人を利用して手に入れる。それが俺のやり方なんでな」
勝子「……くっだらねぇ」
敗斗「だが、その『くっだらねぇ』ことがしたくて、俺なんかに構ってるんだろ? あんたが興味あるのは、メリアだけだからな」
勝子「やっぱ、お前とは合わねーわ」
敗斗「同感だ」
勝子「なあ」
敗斗「ん?」
勝子「キスさせろ」
敗斗「絶対に断る」
――直後、辺りに轟音が響き渡った――