
失井敗斗暗殺計画④ カナミ様の憂鬱
カナミ「くぉらぁー! 敗斗ぉー!」
敗斗「ひぃっ! カナミ!? まだ月末じゃないし、家賃は――って、もう資金あるし、怯える必要ないんだった……」
カナミ「ちょっと付き合って」
敗斗「は? どこに?」
カナミ「どこって、その……食事よ。ちょっとそこの三つ星フレンチまで付き合ってくれる?」
敗斗「ナチュラルになんてものを奢らせようとするんだ……。あと、レストランは大抵閉まってるぞ」
カナミ「う……。そうだった……。じゃあ、あたしの部屋に来て」
敗斗「? なぜだ」
カナミ「ウー◯ーイーツ食べ放題するの」
敗斗「謎のユーチューバー的発想!」
カナミ「ほら、入って。好きなもの頼んでいいわよ」
敗斗「そりゃ俺が払うんだから、好きなものくらい食わせろよ……」
カナミ「なに言ってんの? あたしのオゴリよ」
敗斗「なん……だと……?」
カナミ「……なによ」
敗斗「お前、大丈夫か? 熱でもあるのか?」
カナミ「ぎゃあっ!? 乙女の額に気安く触れるんじゃないわよっ!!(蹴り)」
敗斗「おぶっ!!? おまっ……鳩尾に膝は……やりすぎ……」
カナミ「ふん! これで元気なのはわかったでしょ!?」
敗斗「ああ……。この技のキレ、威力……間違いなく、元気なカナミだ」
カナミ「あんた、痛みの中でしかあたしを実感できないの?」
敗斗「だいたいお前のせいだよ!」
カナミ「で、なに食べたいの?」
敗斗「ほんとに頼むのか……。まあ、肉かな。肉が食いたい」
カナミ「お肉ね……。じゃあ、価格の高い順に並び替えて、と……」
敗斗「注文の仕方がエグい」
カナミ「いいじゃない、たまには。これでも、あんたの誕生日祝いなんだから」
敗斗「……誕生日?」
カナミ「そうよ」
敗斗「いや、俺の誕生日はもっと先だが……」
カナミ「そう。ならこれ、去年の分ね」
敗斗「どういうこと!?」
カナミ「こんなこともあろうかと、去年、祝わなかったのよ」
敗斗「そんな備え方あるかっ! 普通に当日祝ってくれよ!!」
カナミ「うるさいわね……。せっかく、あんたが喜ぶプレゼントも用意したのに……」
敗斗「プレゼント? そんな、今さら俺に欲しいものなんか――」
カナミ「はい、東京の一等地にある 土 地 の 権 利 書 」
敗斗「 マ ジ で 嬉 し い 」
カナミ「ついでに、昨年一年間で価格が五倍以上になった株をいくつかと、金の延べ棒」
敗斗「死ぬほど嬉しい」
カナミ「さらには、 原 油 先 物 の 権 利 書 」
敗斗「 そ れ は い ら ん 」
カナミ「そしてトドメは、 天 国 の 国 債 」
敗斗「どうやって手に入れた!? むしろ購入方法を教えてくれ!」
カナミ「……どう? 嬉しい?」
敗斗「あ、ああ……。嬉しい……けど、どうかしたのか?」
カナミ「……あんた、引っ越しを考えてるそうじゃない」
敗斗「え……」
カナミ「確かに、あんたが賃貸してるアパートはボロいわ。築四〇年を超えてるし、木造だし、ユニットバスだし、エアコンも常備されてない。あたしが所有する投資用物件の中でも、ダントツで環境の悪い物件と言えるわ。ほんと、住んでる人の気持ちがわからないってくらいにね。あたしだったら、10億もらっても絶対にお断りよ」
敗斗「俺たち住人に謝れ」
カナミ「でも……その。あ、あたしの家の隣じゃない!」
敗斗「……?」
カナミ「あたしは、欲しいものには課金するタイプよ! ガチャも回すし、ホストも指名する! 高いシャンパンだってガンガン入れてあげるわ! だから……、その……、あ、あたしの家の隣から引っ越すなんて、損だと思わない!?」
敗斗「あー……。その件なんだが」
カナミ「な、なによ。六本木のタワーマンションより、あたしの隣の家の方がお得よ!?」
敗斗「いや、メリアだけならともかく、最近はクロエも加わったし、二人のためにもう一部屋借りようかと思ってたんだ」
カナミ「へ……?」
敗斗「さっきお前が言った通り、女の子には割と酷な環境だし、なによりワンルームに三人は普通に狭いしな……。つっても、普通のマンションだぞ? タワーマンションのチラシは、『マスターも一緒にここへ引っ越しましょう。家賃は私が払います』とか言ってた、クロエのジョーク的なあれで――」
カナミ「あの女〜〜〜っ!!!」
敗斗「てことで、メリアとクロエ用の住居を探してただけなんだが……」
カナミ「……じゃあ、敗斗はあの部屋から出ていかないの?」
敗斗「俺? うーん、まあ、そうだな。確かにボロいけど、住み慣れた部屋だし、家賃も安いしなー」
カナミ「そっかー。そうなんだー。(にへら)」
敗斗「ん? おい、どうした。急に立ち上がって。なんでそんな近づいて――どわぁ!?」
カナミ「ちょっと! なんで避けるのよ!」
敗斗「いきなりヘッドバッドされたら避けるに決まってんだろ!」
カナミ「ヘッドバッドじゃないわよっ! こんな美少女に迫られて逃げるなんて、あんたほんとに男なの!?」
敗斗「暴力に男も女も関係なくね!? おい、暴れんなって! あーーー! 天国の国債が破れたーーー!!(泣)」