こえ:「がんばりの不感症」大学四年Kさんのばあい

Kさんは大学四年生。就活も終わりに差し掛かった時期、周りの友人にはつぎつぎ内定が出ていくのに、自分だけなんとなくうまくいかない。好きなことはあるけれど、それが仕事にどう結びつくのかわからない。やっているはずなのに、いつも自分ががんばっていると思えない……

「自分に結構期待しすぎてしまうところがあって、自分はもっとできると思ってたところができなくて、きついな、みたいな。きついなーって、思いました。就活する意味ってなんだろう?」
「でも、みんな嘘つくじゃないですか、就活は。『基本企業によって言うこと変えてるよ~』とか、器用に生きてるなあ、みたいな、ぜんぜんうまくできないなあ、みたいな。なんかもっと、嘘をついて、うまくできればよかった」
「ああ、泣くほどがんば、り、たいなあ、みたいな」

「こえ」は、わたしが実際にだれかに会い、仕事に関する話を聞いて、それをできるかぎりそのまま書き起こす、ただそれだけのシリーズです。
いま現在仕事をさがしている人をメインに、いろいろな人の話を聞き、載せさせていただけるといいなと思っています。



■どうすれば楽しいことが仕事につながるのかわからない

―いまは就活のどこがいちばん引っかかってるんですか?

なんかその、将来やりたいことを、やってくださいみたいな。社長のインタビューとか、すごい就活中に見せられるじゃないですか、説明会って。

でなんか社長の話とかで、「やりたいことやってください」とか、「なりたい自分を想像してそれに向かって合う会社を選んでください」みたいな抽象的なこと言われて、自分はべつに、やりたいこと、なんだろう、みたいな……

「五年後十年後なりたい自分を想像して」とか言われても、いや別に、明日のこともわかんないのに、ないでしょ、みたいな気持ちになってしまって、でもなんか、まわりはみんなうまくやってて、みたいなのを見てるとなんか、ぜんぜんうまくできないなあ、みたいな……なんかなあ、みたいな……。

三十社くらいは受けてて、なんかもう、疲れたなあ、みたいなのもあるし。五月の終わりぐらいに体調崩しちゃって、たぶんなんかストレスみたいな。だからあーもう、精神的にもやられてるなあ、みたいな。

―きついのは、就活がやりたくないから? それとも結果が出ないから?

結果が出なくて、のほうが大きいかもしれない。自分に結構期待しすぎてしまうところがあって、自分はもっとできると思ってたところができなくて、きついな、みたいな。きついなーって、思いました。就活する意味ってなんだろう?

―働きたくはある?

働きたくはあるって思います。就職はしたい。やっぱお金を稼ぐっていうのと、家賃とか学費とかぜんぶ親に出してもらってて、プラス仕送りとかももらってて、お金かけてもらってるのになんか、結果出したいなあみたいな。就職はしたいなあみたいな

―結果を出したい?

このままフリーターとかになったら申し訳ないな、みたいな。フリーターするにしてもなんか、役者目指してとか、バンドマン目指してとかだったら理解を得られると思うんですけど、そうじゃないから。

―じゃあなんかそういうやりたいこともないんですかね。

ひとつだけ思ってるのがあって、場を作る人になりたいっていうのを思ってて、なんかプラットフォームを作る人みたいな。
具体的にこうしてとかは全く考えてないんですけど、自分が友達と友達を合わせるのが好きだったりとか、そういうプラットフォーム的な場に呼ばれていくのも好きだし、そこで人と交わるのも好きだなって思ってたんで、今度は自分がそれを提供できる人になりたい。
だからやりたいこととして挙げられるとしたらそれかなって思うんですけど、でも、それってなんか、ビジネスになるかっていわれると、うーんみたいな感じで……そうなったときに、なんかどうしようみたいな感じになっちゃって、どうしようかな、みたいな。

―場所を作りたい、みたいなのは、どこかから影響を受けていたりするんですか?

大学入ってから一番最初に仲良くなった男の先輩がいるんですけど、その人が、バイト先の友達と大学の友達を会わせるとか、めちゃくちゃ人を会わせてて、でなおかつ、わたしとか友達の友達にも会ってくれるみたいな人で。
一人暮らししてたんですけど、家に鍵かけてなくて、誰でも入っていいみたいな。

その人がすごい寝坊するんで、みんな家に鍵ないの知ってるから、みんなそれで起こしにいったりとかしてたんですけど。でなんか、その人がバイトでいないときとかも、バイト終わったら会うからみたいな感じで、いる人とたまたま来た人で、あっはじめましてみたいな感じになって、人間の輪が生まれて行ったりとか。

あとなんかオフ会に最近行って、すごいいろんな人がいて、フリーターとかヒモの人とか、「あーなんか世の中めちゃくちゃいろんな人いんなー」って思って、それがすごい楽しかった。

それがどうすれば仕事とつながるのかわかんなくて。イベント制作とかはギリ近いのかなーと思うんですけど、なんかなーと思っちゃって。やるならなんかぜんぶ自分でやりたいなと思っちゃって。


■みんな嘘ついてんじゃん

―じゃあ、やりたいことがあってもなんとなく就活とは一致しなくて、ばらばらのまま就活してきて……

なんか、自分あんまり嘘つけない性格なんで、っていうか。

でも、みんな嘘つくじゃないですか、就活は。「基本企業によって言うこと変えてるよ~」とか、器用に生きてるなあ、みたいな、ぜんぜんうまくできないなあ、みたいな。なんかもっと、嘘をついて、うまくできればよかった……

―嘘つけなくて、あーいまのは失敗したなみたいなことあったんですか?

業界研究とか足りなくて、そのときにすごい突っ込まれたりとかして、あ、あ、みたいな感じになったり。感情的なことは言えるんですけど、論理的なことはあんまり言えなくて。気持ちで押し切るみたいな面接で、結局やっぱりだめみたいな感じですかね。

―みんな嘘ついてるって思うんですね。

えーっ、嘘ついてんじゃん。

なんか、んー、「じょうずにやってるのかなー」みたいな。みんながみんなそんな正直に話して、すべてゴールにいくとも思えないので。やっぱどっかある程度でうまくやってるんだろうなーと思って……そうですね。こんな自分に合う会社あるのかなあとか、結構思っちゃうんです。

―こんな自分って、どんな自分のことなんですか?

あんまりその、すごい、リーダーの経験があるとかもなくて、いつも話してるのは、文化祭実行委員会に入ってたんですけど、それでなんか音楽企画をやってがんばりましたというのは話していて、ほんとに、そんぐらいしか言えることがなくて。
グループ面接とかで、学生時代頑張ったことを聞くじゃないですか、みんなの。聞いたら、「本書いて、大賞選ばれました」とか、「ボランティアして」とか、「海外留学の経験があって」とか、みんな、がんばって、んの~? みたいな。でもそれも嘘なのかなあ、とか、そうはいえないけど。


■がんばりの不感症

あんま自分、がんばったって思えなくて、不感症? がんばりを感じられないんです。

文化祭の実行委員やったときも、わたし途中から、二年生のはじまるちょい前くらいに「音楽企画やりたいからやります」って言って入って、やったんですけど、入ってからすぐとかに、「実行委員の仕事を知らないまま企画の責任者として企画するの大変だよ」みたいなことをいろんな人にいわれて、うるせーなみたいな、やるんだしみたいな思って、その間、自分ひとりでやってることもあったんですけど、協力してくれた人もいて、無事終わって、で終わってから周りの子とかはなんかその、ようやく終わったね、つらい時期が終わった、がんばったねみたいな感じだったんですけど、わたしはなんか、「こんなもんか」みたいに思っちゃって。

―(笑)。何が足りないんだろう……

いやなんか、もっとつらいのかなみたいな。自分では、やる前に言われてたからこそ、あー文化祭の運営って大変なんだみたいに思って、やってたけど、で、みんな大変だったねーって言ってたけど、わたし的にはもっと大変なことってあるんじゃないかと思って。もっとがんばれたのかな自分、とか。

そういうのが大学時代二回三回くらいあって、やってる途中はなんかあーみたいな感じのときもあるんですけど、終わっちゃったら、いやなんかもっと行けたんじゃない? みたいな。でほかの、がんばってたーみたいな人見て、泣いてる人とかもいて(笑)いや悪い意味で言ってるんじゃないんだけど泣いてる人もいて、たしかにみんながんばってたもんねって思いながら、自分は泣くまでがんばれなかったのかなあ、がんばりを感じられない体質なのかな。むかしから……

―逆にいつがいちばんがんばりを感じられたとか……

えええええーなんだろう。そういわれるとなんか、がんばったのかなあみたいな、人生なあなあでなんとなくで生きてたなあ

―要領がいいのかなあ……

そうなのかもしれない。ああ、泣くほどがんば、り、たいなあ、みたいな。まあ大学受験とか……大学受験の時はわりと、自分ではがんばったかなーって思ってて

―受かって泣きました? べつに泣くことがすべてでもないですけど……

落ちて泣きました。第一志望落ちて、そんときはもういまの大学はセンター利用で受かってたんで、まあ一個あるからいいかなって思って受けて、落ちて、後期も国公立受ける予定だったんですけど、もういいや、燃え尽きみたいな感じだったんですけど、そのときは一日八時間勉強とかやってて、しっかり受験生でしたね。なんか、昨日ほんとに落ち込んでて

―あ、きのう?

きのう(笑)バイト終わって帰って、疲れたなーって思って、高校の時とかのメールを見返したんですけど、塾の先生とぜんぶメールでやりとりしてて、でそのときに、センター終わったあたりで今と同じようなことをわたしがいってて、がんばりきれてないみたいなことを、塾の先生に、なんか本当におんなじようなこと言ってる、と思って……

―じゃあ、感覚としてはずーっとあることなんですね、その、自分だけあんまりがんばりきれてないっていうのは……

そう……でも、それを人に話すと、「いやーがんばってるよ!」みたいな。「がんばってないわけないよ」みたいなことを言ってくれて、友達とかも。だから自分はそれをうまく感じられないのかなあみたいな。

―友達にそうやっていわれるとどう思うんですか?

そう見えてるんだーみたいな、なんだろう、うれしい、がんばってるのかなーわたしみたいな。だからなんかまあ、就職活動、うーん、自分はあんまりがんばってないんじゃないかなあ、まわりもっとすごいなあみたいな、そういう気持ちと、焦り、どうしようどうしようって焦りとか、なんかいろんなことを考えてしまって。なんとなく就活してるなあみたいな。だからやっぱ落ちるのかなーとか。


■だめってことしか自分じゃわかんない

―落ちるとくやしい?

いいなーと思ったとこは、落ちるとくやしいなとは思うんですけど、でもそれをなんかどっかでしかたないかなとか思ってる自分もいて。

どこがだめだったんだろうとかは、思うときは思うんですよ。でも、就活ってそういうのも、フィードバックとか、落とされた人にはないじゃないですか。受かった人にはあるかもしれないけど、落とされた人に対してここがだめだったので落としましたとか言われないんですよね。

それがなんかまた、自分は何がだめだったんだろうと思うし、キャリアセンターの人とか就活エージェントの人とかにも、なにがだめだったかっていうのわからないじゃないですか、見てないし、それってたぶん面接の人しかわからないから、ええ、どうすればいいんだろうみたいな。これは、なに? みたいな。

自分がだめなのわかったけど、どこがだめなのかわかんないし、だめってことしかわかんないから、改善の余地も、これからどうすればいいかもわかんない、じゃないですか、とか、思ってしまって。それが続くと、だめってことしか自分じゃわかんない。だから気持ちも消費されていって……疲れて、続ける意味なんだろうとか、思いますね。

―改善できるんだったらしたいですか?

したいですね!

あ、ここがだめなんだって思ったら、そこを直したいなってふつうに思うし。あんま人に嫌われたくないっていう気持ちとかもどっかで持ってて、友達とかにもあたりさわりないこといったりとか。でもなんか面と向かってだめって言ってくれる人ってあんまりいないと思うんですよ。

―フィードバックがほしいとか、就活のシステムとして、理想としてはどういうふうになってほしいみたいなことはありますか?

あーまずスーツを着る。スーツきらいですね。ふつうの格好で受けたいです。スーツがっしりしてるじゃないですか。すごいなんか、しめつけられてる感じがして。しかもなんか就活生ってみんな同じ格好するじゃないですか。

みんなスーツ着て、みんな同じトレンチコート着て、みんな同じ髪型してとか、気持ち悪いなと思っちゃって、そういう……べつにみんな私服でよくない? とか。そっちのほうがなんか就活生の個性みるならいいだろとか思うし、べつに面接官の人もスーツ着なきゃいいし! みたいな!

―あはは

べつに学生と会うならフラットな格好でいいんじゃないとか。まずそこが本当にいやですね。一番最初に合同説明会に行ったときに、本当にみんな同じ格好をしてて、会場に入るのに列を作ったんですけど、百人二百人が同じ格好してばーって並んでて、軍隊みたいって思って。

―それはなにが気持ち悪いって思います?

えーみんなが同じ格好をして、同じ場所にいて、でなんか、個性みたいなものを求められているはずなのに、服装は一緒にしろっていうのはそこでなんかちょっと違和感とか、気持ち悪さみたいなものを感じてしまう……


〇インタビュー・文章 向坂くじら


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