アカデミー特集


この記事ではトップチームではなく、アカデミー、ユースチームに焦点を当て、アカデミーで絶賛行われている改革についてお話していきたい。


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ユナイテッドのアカデミーの記事を読むとアカデミーの目標、意義として以下のようなことがよく書かれている

Our focus on producing world-class players capable of excelling in Manchester United’s first team

(ユナイテッドの1stチームで活躍できるワールドクラスの選手の排出に注力している)


help them grow and succeed in life and play professional football at the highest level possible.

(選手の成長、人生での成功、可能な限り高いレベルでプロサッカー選手として活躍することを助ける)


できてますか????

ワールドクラスの定義にもよるが、のちに紹介するHead of Academy(以下アカデミー責任者)ニック・コックスはインタビュー内でCLで活躍できる選手を探している、と答えている

マクトミネイやラッシュフォードのように偶然トップチームに定着し活躍している選手や、ヘンダーソンのようにローン先で実力をつけてトップチームに定着した選手もいる。ただ、その一方でクラブから去る決断をした選手がたくさんいる。むしろアカデミーの殆どの選手がクラブから去らなければならない。ユナイテッドほどのクラブならなおさらだ。

残念ながらその選手たちが上記のように、高いレベルでプロサッカー選手として活躍しているとは言い難いのが近年の状況である。

例えば皆さんはご存じだろうか。ファンハール政権でデビュー、スカッド入りした選手、その時代のU23の選手の現在を。

華々しくデビューしたジェームズ・ウィルソン、キャメロン・ボースウィック=ジャクソン(以下CBJ)は4部のクラブでプレー(CBJは夏に3部のクラブに移籍)、U23ではキャプテンを務めたリーガン・プールは3部、同じくキャプテンを務めU23リーグ優勝の時主力だったジェームズ・ウェアーはスロバキア1部でプレー。この辺はまだ所属クラブがあるだけいい方なのかもしれない。アーセナルのジョー・ウィロックの兄弟であるマティー・ウィロックはユナイテッドから放出され3部のジリンガムに加入。そして今夏には契約満了で放出、無職になっている。
パディ・マクネアーやテイラー・ブラケットのように2部クラブに所属している選手もいるが、少数であり1部のクラブで活躍しているのはヤヌザイ、ジョンストンくらいではないだろうか。とてもじゃないが高いレベルでプレーすることのサポートが十分にされているとは言い難い。

勿論全員が一流で活躍できるわけではない。が仮にもアカデミーの名門の1つとして世界に名を馳せているユナイテッドアカデミーの卒業生が3部や4部ばかりではあんまりではないか。卒業生の現在地≒現アカデミー選手の未来、とも言えるので、やはりある程度のレベルのチームに選手を輩出するのは、今の、そしてこれからのアカデミー選手を囲い込む上で重要なのである。

アカデミーから卒業していった選手が他リーグ、2部リーグ等で定着できていないのは

①スカウト、採用の時点で優秀な若手を確保できていない

②アカデミーの育成で十分なレベルまで成長させることができていない

③ユナイテッドが選手の特性や個性に合致した移籍先(ローン先)を探せていない

の理由が考えられる。どの理由が正解であっても、アカデミーが正常に機能しているとは言い難い現状がここ数年続いていた。



改革の背景

2019年5月にU23の監督であったリッキー・サブラギアが解任された。相互の同意による退任とはなっているが、事実上の解任と思ってもらって差し支えないだろう。前年U23のリーグで優勝を果たしたチームは、監督就任初シーズンに2部降格、続く翌シーズンも22試合で8勝。6位でのシーズンフィニッシュで昇格を逃す結果はユナイテッドとしても受け入れ難い結果だった。

選手からは個人的な指導、コミュニケーションが不足している等不満の声があがり、彼のサッカーは些か退屈なものであった。

サブラギアの前任者であるウォーレン・ジョイスは退任前4シーズンのうち3シーズンでリーグ優勝を果たしていた。

そんな輝かしい実績を残した後の降格を受けてアカデミーの改革を決意したのが、当時アカデミー責任者で最終的にはHead of first team development(以下1stチーム育成責任者)のあのニッキー・バットである。そしてそのバットを支える形で携わっていたのが、3月にFootball Directorに就任したジョン・ムーターその後人事異動があり、19年夏よりアカデミー責任者にはワトフォードやシェフィールド・ユナイテッドで仕事をしていたニック・コックスがバットの後を継ぎ就任している。余談だがコックスはサンチョとワトフォード時代に一緒に仕事をしていた。

また近年クラブは、トップチームの建て直しを優先するためにユースへの多額の投資は積極的に行ってこず、イギリス国内、地元マンチェスターの才能を中心に才能を発掘しようとしていた。だが、それだけでは才能ある若手を集めきれず、年々アカデミーの原石たちの輝きは落ちていくばかりであった。

一説では、ユナイテッドのアカデミー予算が、シティーの半分ほどしかなかったという。

少し前の話をしよう。15-16シーズン、U18はリーグ戦で11連敗を喫し、ユースカップではチェルシーに5-1で敗北するなど過渡期を迎えていた。それ以来、アカデミーレベルでの補強が積極的に考えられるようになってきた。ポール・マクギネス監督が去り、デレク・ラングレー採用責任者が解任され、2016年ニッキー・バットがブライアン・マクレアに代わってアカデミー責任者に就任した。

このデレク・ラングレーの解任とファーガソン、デイビット・ギル引退による組織構造の変化が、ユースリクルートの面で多くの悲劇を産み出してしまったのだ。

当時ファーガソンはラングレーとスカウトを信頼しきっており、彼らが気に入った選手を見つけ、その選手を獲得したいと思えばファーガソンはすぐにGOサインを出していた。つまり行動が速かったのである。ファーガソン、ギルの引退後は事務的な面で工程が増え、有望な若手を囲い込む前に他のクラブが獲得してしまうことが増えてしまった。リスクをできる限り減らす、銀行出身のウッドワードらしい変化である。巨大な組織は意思決定にそれなりの時間がかかってしまうのだ。

U23の降格、投資の不足、国内路線での若い才能の不足、そしてここ数シーズンのアカデミー選手の販売から、シティが約£80m稼いだ巧妙なオペレーションがユナイテッドの改革を促したのだ。



アカデミーの在り方

アカデミーの役割は主に

①トップチームへの戦力の供給

②クラブに何かしらの形で還元できる選手を育てること

③学校的側面

が挙げられるが、①は機能不全を起こしていた。

勿論改革を行わなくとも、ラッシュフォード、マクトミネイのような若者は出てくる。しかし、それは再現性がなく、単発のできごとで終わってしまう。それが良くないのは明らかだ。そして、何度も言うが台頭する若者の裏には日の目を見ずに去る若者もいる。むしろ去る者の方が圧倒的に多い。その去った者の、言い方は悪くなるが使い方が非常に下手なのである。シティやチェルシーがいい例だろう。彼らはここ数シーズンでアカデミーの選手の売り上げでかなりの額を稼いでいる。

ユナイテッドは殆どが契約満了によるフリー移籍なので、金銭的な面でクラブに還元されないのだ。また、従来のユナイテッドの育成方針で、20歳程までリザーブチームで育ててから、他のプロクラブにローンをさせる為、選手の市場価値が若いうちに上がりにくく、売却できたとしても雀の涙程度しか入らないのである。ユナイテッドはここ5年のアカデミー選手売却益で£1500万も稼いでいない。またイタリアのクラブでよく見られるアカデミーの有望選手を移籍に絡め、移籍金を安くするようなことも行われないため、金銭的なメリットがクラブに生じにくい。

そして、20歳ちょっとでクラブから放出された選手は、まともなプロチームキャリアがないため1から自分でやり直さなければならない。それは移籍先の他のプロや、同世代でローン経験のある選手との大きな差になってしまうだろう。  

しっかりした移籍で1人100万ポンドでも置いて行ってくれれば、クラブは助かる。特に現在、コロナ禍でクラブの収益が落ち、補強の費用も十分に用意できない状況ならなおさらアカデミーの存在価値は重要である。その売却益を例えば補強費に回すのもいいだろう。アカデミーの施設の改善費にも回せるだろう。そうすればより良い環境を求めて若い才能ある子が寄ってくる。以下サイクルが生まれやすくなる。

育成とは不確実な要素が多く、スタメンクラスを常に排出するのは非常に難しい。が、成功すれば移籍金や給与などの人件費のコストカットが見込める。

ユナイテッドは近年、脳内お花畑の人たちが酒の席で決めたとしか思えないぶっ壊れた給与体系だったため、アカデミー選手がチームに入ってくれるとかなりのコストカットが期待できる。

ここはアカデミーの金銭的な面でのメリットである。


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これは友人が作ってくれた一覧表(*昨シーズン開始時の給与。※マークは契約延長前。※マークの4名は昨シーズン中に契約延長したため、現在はもう少し高い)だが、アカデミー選手の給与の低さが目立つ。ユナイテッドはリーグ全体で見ると給与がすさまじく高いため、これから改善しある程度に抑えていく必要がある。でないと、最近話題のスペインクラブのようになってしまうかもしれない。

②に関しては、将来的に監督やコーチとしてユナイテッドのアカデミー選手の育成に携わったり、今夏に加入したヒートンのようにキャリアの途中でユナイテッドに戻ってくる場合もあるので、放出されたからすぐ失敗というわけではない。しかし、ここ数年コネを利用した補強や育成は行われなかったので上手くいっていなかったと言えるだろう。また、アカデミー選手を売却し、その売却益でチームを作る、というのもアカデミーの役割の1つだ。

例えば、今夏、お隣のシティーは、アンヘリーニョ、エヌメチャ、ジャック・ハリソン、サンチョといったアカデミー選手の売り上げで約£50mを既にあげ、ここから更に数名を売り、チームの資金としている。

チェルシーは今夏、アカデミー卒のグエヒとトモリの売却でこちらも約£50m程の売却益をだしている。

ある程度の売却益を継続的に出せるようになるのが理想である。

③に関しては、機能不全だったかどうかは定かではないが、他チームに比べて劣っていたのは確かである。今年の夏に、シティから出戻りの形でユナイテッドU18に加入したチャーリー・マクニールは幼少時、母親が教育機関的な理由でシティーへの移籍を勧めた(この時点で少なくとも、シティよりは劣っていると保護者に判断されるレベルの差があったことになる)。

因みにシティのアカデミーは、16歳になった学年でスカラーシップにサインした選手に私立教育を提供している。



改革開始


まずユナイテッドは19-20シーズンはEFLトロフィーへの参加を表明した。

EFLトロフィー(現パパ・ジョンズ・トロフィー)は英3部、4部のチーム、アカデミー16チームの全62チームで構成されるトーナメントである。CLのようにグループステージで4チーム総当たりを行い、上位2チームが決勝トーナメントに進出する。決勝はウェンブリーで行われ、アカデミー選手にとってはシニアフットボールチームと本気の試合をするいい機会なのだ。

EFLトロフィーは上記の通り、プロと本気で試合できる数少ない機会であると同時に、プロチームに対してのアピールの場となり、ローンを考えるアカデミー選手には絶好のアピールの機会になる。しかも決勝に行けば会場はイギリスフットボールの聖地ウェンブリーである。若手、特にイギリス国籍の選手にとっては一度は夢見る舞台だろう。

前述した2019-20シーズンにU23の監督交代。

サブラギアの後任には、ユナイテッドアカデミーでキャプテンも務めたニール・ウッド(当時36)が就任。アシスタントにこちらも元ユナイテッドのクイントン・フォーチュン。(フォーチュンは昨夏レディングにテクニカルコーチとして移籍)

就任1年目でコロナ直撃と難しい仕事だったが、リーグを2位で終え昇格。続く今シーズンは、優勝したシティーに次ぐ得点数(58)と最下位で降格したサウサンプトンに次ぐ失点数(59)を携え、8位でのフィニッシュ。無事残留に成功した。24試合58得点59失点というなんともエキサイティングな結果である。


U18の監督交代

2018年の夏、17-18シーズンまでU18の監督を務めノースリーグ(U18はサウスとノースに別れそれぞれ13チームずつで構成される)で優勝を果たしたキーラン・マッケナが、1stチームのコーチングスタッフとして引き抜かれた後釜として、ニール・ライアン(当時44)を監督に据えている。ライアンはU18の監督の前は11年間アカデミーで様々な役割を経験してきた。アカデミー、クラブをよく知る者の監督就任はトップチームで行われてることと類似しており、明るい反応が多かった。

監督就任以降4位⇒6位ときて昨シーズンは優勝したシティーU18と1点差、最終節まで優勝争いをし、結果2位でフィニッシュした。

ここ数シーズン、選手の入れ替わりが激しい中でチームとして好成績を残せたのはいいことである。

そして、今夏から新たな監督が就任する。ニール・ライアンがニール・ウッドの補佐として今夏から仕事の場を新たにする。

そこで新たに監督になるのがトラビス・ビニオン(現34)である。

彼は、2019年11月にシェフィールド・ユナイテッドからユナイテッドに移籍した後、U16で仕事をしていた。ビニオンはブレイズでマグワイアやドミニク・カルヴァート=ルーウィンの育成に携わっていた。

ところで、シェフィールド・ユナイテッドからのアカデミー人事といえば何かを思い出さないだろうか。

そう、現在アカデミー責任者を務めているニック・コックスも元シェフィールド・ユナイテッドなのである。何の因果か、キャプテン、アカデミー責任者、U18監督とクラブの各セクションの重要なところにシェフィールド・ユナイテッドが絡んでいる。コックスによってビニオンは引き抜かれたのだ。

新たな監督の下、どのような選手でどのようなチームになるのか新たなU18が楽しみである。


ローンへの取り組み

一昨年の夏、アカデミー改革が本格的に行われて以来、ユナイテッドはU23に所属する1stチームとU23の狭間にいる選手の成長がストップしないように、有意義なローンを組むことを望むようになった。ユナイテッドがここで重視しているのは、シニアフットボールの世界を経験するだけでなく、試合に出場することもセットで考えている。冬にチョン、レビット、ガーナー、コバーのローン先で苦戦している4人を呼びもどし、前3人には新しいローンを、コバーはクラブに残してケアをすることを選んだ。前3人は夏のローン先で出番が限られており、コバーの戻ってきたときのパフォーマンスは自身を失い、以前の見る影もなかった。夏に修行に行った選手たちは、あまりいい評価をローン先で得られることができず、半年で帰ってくることになった。

唯一、出番がそれなりにあったガーナーを多少甘く採点したとしても、5人中3人が評価を上げることができず帰還を余儀なくされた。ここのローン先の選定の精度改善はこれから望まれることの1つだと思っていた。「いた」と書いたのは、後述するが冬の移籍で「思っているよりも精度はいいのかもしれない」と考えを改めさせられたからだ。

コックスは「ローン移籍に失敗はない」という持論をインタビューで展開しており、出番を貰えず苦しい時を過ごしたととして、それも選手にとっていい経験になると話していた。

これは私も同意である。いい経験にはなると思う。あとはこの経験を選手がどういかし成長していくかである。


まずは夏に5人をシニアの世界に

チョン(21)

⇒ヴェルダー・ブレーメン(独1部)

レビット(20)

⇒チャールトン(英3部)

ガーナ-(19)

⇒ワトフォード(英2部)

ベルナルド(20)

⇒サルフォード(英4部)

コバー(20)

⇒スウィンドン(英4部)



冬には戻ってきた3人を新天地に送り込んだ

チョン

⇒クルブ・ブルッヘ(白1部)

レビット

⇒NKイストラ(クロアチア1部)

ガーナー

⇒ノッティンガム・フォレスト(英2部)


そして、冬に新たに3名の選手を初シニアの世界に送り込んだ(厳密にはペリストリは初ではないが)


レアード(19)

⇒MKドンズ(英3部)

メンギ(18)

⇒ダービー・カウンティー(英2部)

ペリストリ(19)

⇒デポルティーボ・アラベス(西1部)


そして、先述した想像よりもローン先選定がいいのかも、というのはこの冬のローンがそれなりに成功したからだ。

特筆すべきはやはりガーナーだろう。ワトフォード時代は出場時間にばらつきがあり安定した出番がなかった。そして、ワトフォードの監督が交代後は以前より出番が減少。それをよしとせず、出番がより得られそうなノッティンガム・フォレストへ活躍の場を移した。それが功を奏し移籍後20試合中19試合で先発、18試合フル出場、4ゴールを記録。セットプレーのキッカーを任されたりと大活躍で評価を上げることに成功。来シーズンもう1年2部でやるのか、プレミアのクラブに挑戦するのか楽しみである。


次点でペリストリかレアード。悩むところ。

ペリストリはU23の試合に出つつ、秋ごろには英語でインタビューで受け答えできるくらいには語学習得に励み、冬にラ・リーガのアラベスにローン。リーガ12試合の出場で得点に絡むことはできなかったが、1-0で敗れたアトレティコ戦ではMan of the Matchに選出される活躍だった。

一方レアードは怪我でシーズン序盤は離脱していたものの、冬に加入したMKドンズ(英3部)で移籍後24試合に出場。4アシストを記録と出遅れた分を取り戻す活躍で、こちらも来シーズン以降の飛躍が楽しみである。もしかするとトリッピアー獲得が失敗しそうな状況なので、ワン=ビサカの控えとしてチームに残るかもしれない。現在はスウォンジーへのローンが濃厚。スワンズの監督、ラッセル・マーティン(35)は昨シーズン、レアードのローン先だったMKドンズの監督を務めていたため信頼も厚く、出番を得やすいだろう。ただ、キャリアでずっと月単位の負傷を繰り返しているのでフィットネスの安定がかなり重要である。

チョン、レビットは冬の移籍先でもあまり活躍ができず、この1年で飛躍することはできなかった。

メンギは怪我もあり、あまり出場時間が伸びなかったがルーニー率いるダービーで経験を積んだ。これも1つのいい変化だ。OBが率いるチームに若手を送り込み、成長を促すというローンは今までに見られなかった。コネをうまく使い選手を育成するのも大事である。最初の方に書いた「クラブに何かしらの形で還元できる選手の排出」にはこの辺りも含まれる。

8名のアカデミー選手が初シニアへの挑戦をしているのはやはり改革の取り組みだろう。アカデミー育成にはすでにポジティブな兆候が見受けられる。


国内ではなく世界へ。

コネクションの強化による若く有望な人材の発見。特に言われているのがスペインとフランスのスカウトを強化。フランスから世界に通用する才能の発掘のためにRomain Poirot(ロマン・ポワロ)をスカウトに任命。結果としてハンニバル・メジブリやウィリー・カンブワラ、ノアム・エメランなどのフランス人選手、アルバロ・フェルナンデス、マルク・フラド、アレハンドロ・ガルナチョといったスペイン人選手の獲得に成功した。

一昨年の夏、そして昨夏にユナイテッドは世界中からU18の有望タレントをかき集めた。19-20シーズンには6人、20-21シーズンには9人の新戦力を他のクラブから獲得しU18に加えている。昨夏、国内から獲得したのはサンダーランドから加入したジョー・ヒューギル、ローガン・パイ、シティーから獲得したチャーリー・マクニールの3人だけで、あとの6人は国外から有望なタレントを獲得した。

昨シーズンU18に加わった9人に最大で£11mほどの移籍金を支払っている。この中にアマド(£37m)、ペリストリ(£10m)は含まれていないのだ。また、19-20シーズンにはモナコからハンニバル・メジブリを移籍させるため£9mほどの移籍金を支払った。昨シーズンU18に5名(勿論、ハンニバルを含む)の選手を他のクラブから移籍させているが、いずれの選手も英国籍ではない選手なのだ。

これほど巨額の投資は近年行われておらず、アカデミーに対する意識改革が行われた証拠になる。

基本的にユナイテッドのアカデミーは、U23のチームにおける補強はせず、U18から昇格という形でチームを形成しているため、補強となるとU18への加入が通例となる。

では、なぜユナイテッドのアカデミーが近年、英国籍ではない選手をたくさん獲得したのか。勿論、理由があり英国籍の選手を蔑ろにしているわけではない。Brexitによる移籍新ルールの影響である。

ざっくり説明するとこの新ルールの適用で、

①国外からの18歳未満の選手獲得が禁止。

②EU圏内の選手を自由に獲得できなくなる。

今回、このブログ作成にあたり、参考にさせていただいたのは、『EFLから見るフットボール』様Brexitが変える移籍市場の様相 新たなポイントベースシステムとその影響についてです。

詳細のルールや、ルール変更による影響の考察など見たい方は、下記リンクに詳しくまとまっているので、是非(掲載許可を得ています)。


このルール変更でU18に外国籍の選手を獲得するのが非常に難しくなり、ユナイテッドのアカデミーは育成方法の変更を余儀なくされることになった。18歳未満の選手の獲得が禁止となってしまった今、U18に若い選手を国外から連れてくる⇒U23に昇格⇒ローン⇒トップチームという道筋がなくなってしまった。これからは今までになかった、19歳付近の選手の獲得⇒U23に直接加入という移籍が増えてくる可能性がある。

そして、今まで以上に、U18の更に下、U16やそれ以下のメンバーがチームの主軸になってくる。そのため、国内の若い選手へのアンテナを高くしなければならない。そのため、クラブはユースリクルート部門を強化。クリスタル・パレスでassistant head of recruitmentを務めていたジャマァル・ジャレット、シティで lead scoutを務めていたステファン・エージュウォールを獲得。エージュウォールの担当は南イングランド。ジャレットと併せロンドンでのスカウト強化を狙う。この獲得を指揮したのは、head of youth recruitmentを務めているデイビット・ハリソンだ。彼は2017年にシティの欧州ユーススカウト責任者を辞めてユナイテッドに来た。結構シティから選手に限らず舞台裏のスタッフも引っ張ってきている。

そんな状況の中、先日、ユース界隈で少し話題になった発表が行われた。

元ユナイテッドユース出身で、2003年FAユースカップ制覇メンバーでもある、ポール・マクシェーンの獲得である。35歳のマクシェーンはトップチームではなく、U23チームへ選手兼コーチ兼メンターとして加入する。U23のチームはオーバーエイジの選手を3名まで登録することができるが、ユナイテッドは今ままでこの制度を使用してこなかった。この加入で得られるメリットは、①経験豊富な選手と練習できる。②メンギやフィッシュのようなCB部門の選手をローンに送りだした後の穴埋めをすることができる。

U23は今まで以上に柔軟なチーム作りが求められるだろう。

では、チームに18歳未満の選手を加入させる方法はないのだろうか。有望な18歳未満の選手が、他のヨーロッパのチームに獲得されるのを黙って見ているしかないのだろうか。

否、ルールには抜け道がある。

マンチェスター・シティのオーナーは、傘下のシティグループを通じて、スペイン、ベルギー、フランスの2部リーグに所属するジローナFC、ロンメルSK、トロワACといったEU圏内のクラブに出資を行ってる。
そう、解決策の1つ目としては、このようなグループクラブが英国クラブの代わりに契約することである。

一方チェルシーは、オランダ、エールディビジのフィテッセと親密な関係を築いており、メイサン・マウントをはじめ、数多くの若手のローンで送り出している。このように、親密な関係にあるクラブが獲得し、19歳になってから英国クラブが獲得するというのが2つ目の解決策である。

ユナイテッドも親密な関係のクラブは以前はあった。ベルギー1部のロイヤル・アントワープだ。しかし、ファーガソン、ギルの引退前に関係が衰退していってしまった。

今後、ユナイテッドはこのようなクラブを探すことが、18歳未満の有望選手を他クラブに先んじて獲得するには非常に重要になってくるだろう。


選手、監督の距離感の変化

以前、ガーナーやレアードのようなU23チームの有望選手が契約延長した際、同席していたのはアカデミー責任者のバットだった。

しかし、今シーズン3月に立て続けに行われたU23チームの有望選手の契約延長の席には1stチームの監督である、スールシャールがいたのである。

おそらくこれは、1stチームに近いU23の選手との延長だけだと思われる。

この変化は我々サポーターからすると、他の大々的な変化に比べて些細なものかもしれない。しかし、アカデミーの選手からすれば、1stチームとの距離感が縮まり、自分の将来がチームにあると思えるような、そんないい変更なのではないかと思う。


クラブの体制の変化

アカデミーの改革が行われている中、クラブにとっても大事な改革が行われていた。かねてより望まれていた、Football Director(以下FD)とTechnical Director(以下TD)の就任である。

FDには2013年11月にあのデイビッド・モイーズによって連れてこられた、John Murtough(ジョン・ムーター)。彼はクラブに来て以来、このブログの題材であるアカデミー、リクルートの改革、女子チームのリクルートも担当していた。

一方のTDにはユナイテッドOB、多くのサポーターから愛されるダレン・フレッチャーが就任。アカデミーでコーチを務めた後の大抜擢である。

ムーターはここ数年のクラブ全体の改革プロセスの結果をうけて。フレッチャーは元トップ選手としての知見を評価されての就任。

ムーターはリクルートやその他の戦略を調整し、トップチームが成功するために必要なクラス最高の運営サポートを確保していき、フレッチャーは、選手やチームの育成に協調的かつ長期的なアプローチをとり、アカデミーとトップチームの間の不可欠なつながりを維持することに注力する。と公式には記載されている。正直、小難しい話でそれぞれの仕事の線引きもよくわからないので「ほーん。就任したんか」くらいの感想だったが、改革を大々的にクラブのサポーターに発信していくには十分な発表だろう。


ところが、順風満帆に見えたアカデミー改革に激震が走った。

これまでムーターと共にクラブ、アカデミーの改革を先導してきた1stチーム育成責任者のニッキー・バットが突然クラブを去ったのだ。


『新たなチャレンジのため』とあるが、主な理由は別にあると考えられる。

ここからは私の妄想である。というのも、バットの退任が発表されたのが3月25日。フレッチャーとムーターのTD,FD就任が発表されたのが3月10日。ご理解いただけただろうか。

長年クラブに尽くし、貢献してきたバットは突然戻ってきたフレッチャーに昇進先のポジションを取られてしまったのだ。9年尽くしてきたのにクラブに戻ってきて1年のぽっと出に負けてしまった。勿論、本人としてはクラブからの評価がフレッチャーより低いと感じ、わかりやすい昇進先が無くなったのは面白くないだろう。その2つがバットが去る理由になったのだと思う。


クラブはこのまま1stチーム育成責任者の席を空けたままなのをよしとせず。

6月にアカデミーの選手育成・コーチング部門の責任者としてジャスティン・コクランを任命。

前職はFAのユース育成フェーズのリーダー、イングランドU17のリードコーチ。名称こそバットとは違うもののクラブにおける役割は同じ。


結び

ファーストチームやフロント同様にアカデミーでも改革が進められており、この改革の成否は数年後今のアカデミー選手たちの活躍で示されることになるだろう。やはりスールシャール就任以降、アカデミーでも改革が進められていることは明白であり、スールシャールがクラブのカルチャーとしてアカデミーを重視していることは見て取れる。これからは有能な選手が数多く加入するだろうし、ローン移籍でその活躍を見られる機会も増えるだろう。ローン移籍への賛否はあるだろうがユナイテッドに所属する若者が活躍する姿を見て文句を言うファンはいないはずだ。ユナイテッドのアカデミーがどうなっていくか、選手の成長と共に見守っていきたい。また、アカデミー選手が1stチームでポジションを掴むということは、同じポジションの他の選手の居場所がなくなってしまうということを併せて理解する必要がある。

コンスタントにファーストチームに選手を輩出するために、アカデミー選手をこれまで以上多く抱えて外で経験を積ませることになるだろう。それなりにクラブの外に有望株が出ていってしまうのは仕方ない犠牲であり、ファーストチームの成績はアカデミーの改革を正当化するために必要なのである。

アカデミーの役割③の学校的側面の強化、改革も必要だ。教育機関としての環境整備が求められる。実際の事例では、靭帯損傷の大けがをした選手がプレーできない期間にコーチ陣の助けを得てコーチングライセンスの獲得をしたことも近年あった。このような事例が増え、ナーゲルスマンのような人材が出てくれば、クラブにとって貴重な財産になる。

また、アカデミーは人格形成に力を入れており、これは成果が出ている。ラッシュフォードの慈善活動は言うまでもなく、マクトミネイやヘンダーソン、ポグバらリーダーシップに優れた選手が排出されているのはクラブの努力の賜物である。アカデミーの先輩が後輩たちの面倒をよく見ており、慕われる存在になっているのも教育が成功しているからだろう。

ペリストリやアマドのような青田買いした若手を一旦アカデミーに在籍させて、環境に慣らしたりクラブのカルチャーに染めるといった役割も今後増えていくかもしれない。



スペシャルサンクス



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