ナラッキー
歌舞伎町でChim↑Pomがやってた「ナラッキー」に行った。
Chim↑Pomを最初に知ったのは2011年、岡本太郎の『明日の神話』に絵の付け足しをしていたとニュースになった時。その時はもちろんChim↑Pomの事は知らなかったし明日の神話も知らなかった。単にイタズラ集団だと思っていたと思う。
その後なにで改めて知ったんだっけ。アート集団であるということは気がついたら知っていたし、上記の明日の神話のことも改めて知った。
過激な手法でアートを示す人たちがたくさんいる事も知った。自分が理解できない物事を「アート」として提示された時、どんな感想を示せば良いのか分からなくなったことも度々あった。
と、いうことを考えながら新宿駅の東口にたどり着いた。新宿駅の構造って分かりにくいですよね。親世代は百貨店の場所で新宿の地理を説明してくるけど、僕は百貨店に行く事はないので説明されてもあまり分からない。東口にあるのは歌舞伎町とアルタ、西口にあるのはヨドバシカメラとコクーンタワーなことだけ知ってるのでそれでどうにかして説明してほしい。
舞台となる王城ビルがあるのは歌舞伎町。歌舞伎町は色んなコンテンツで使われてきたエリアで、みんな色々なイメージを持ってると思う。僕のイメージは「混沌」だった。陳腐な表現だなと思うけど、数多のドキュメンタリーや報道を介して見ると、そんな感じだった。
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王城ビルに着くと行列ができていた。みんななんで来ようと思ったんだろう。一人一人に聞いてまわりたい。いや、それは変か。でも、1人くらいなら聞いても良いかな、、と思ってたら自分の受付の番が回ってきてしまった。(どんな場においても、どうして来たの?という疑問は常に抱いてしまう。疑問というより興味かな。)
受付後にルートの説明を受ける。会場横の弁財天でお参りをするように言われた。なるほど、小さな弁財天だ。何を思いながら歌舞伎町を見続けて来たんだろうな。
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怪しげな店の前で、怪しげな男が、怪しげにタバコを燻らせている横を申し訳なさそうに通り抜け、路地に入る。道、合ってる?後ろから弁財天の話してる声聞こえてくるな。大丈夫か。
路地の突き当たりで左を見ると入り口っぽい扉があった。普段なら絶対に開けない扉だが、ナラッキーのロゴが安心感を与えてくれた。
ドアを開けると匂いがすごかった。都会の淀んだ匂いだ。
階段を登ると、「5人まで」と書かれた空間に辿り着く。その中は板で渡された空中の空間だった。「奈落」らしい。下にも空間があったが、上の方にもっと大きな空間が広がっていた。
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ここがどんな空間なのか理解するには時間がかかりそうで、できればもっと居たかったけど先程の「5人まで」の文字が頭をよぎり直ぐに出てしまった。でも上の方に空間が広がっていたのは面白かったな。
狭い部屋に入る。モニターに映し出されていたのは女性の口元だった。何を言ってるのかうまく聞き取れなかったけど、強烈な口紅の色が記憶に残っている。
次の空間で最初に目にしたのは顔拓。ドラァグクイーンの方の化粧を写し取ったものだった。写し取った化粧の横には「This is my pride.」「This is my pride?」といった文字が書かれていた。この化粧は自らの体に+αで身につけるものであるわけで、ある人の信念、信条が具体化された物だと思った。衣装とか仮面とかもそうだよね。こうなりたいという感情がそのまま現れた物。
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続くスペースは雑多な感じ。「疑ってかかれ!」のシールがあちこちに貼られていた。
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このスペースで印象的だったのは「もしもしチューリップ」。電話番号が書かれた紙を歌舞伎町にばら撒き、それを見た人が電話をかけて留守番電話で答えるまでが1セットらしい。
歌舞伎町に限らず、行き場のない思いとか感情に支配されてる人ってたくさんいると思うのだけれど、そういった人たちを一つの場所に集めて会話させたら問題の1割くらいは解決するんじゃないかと思っている。この「もしもしチューリップ」では、電話をかける→留守番電話の録音が答えるで完結しているけど、それでも電話をかけてくる人の存在は示せているわけで、とても印象的だった。
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ポールダンサーの方が「君が代」が流れる中でポールを見つめている映像も非常に心打たれた。でも僕は相反するアイデンティティを持っている訳ではないし、うまく感想が書けない。
端に設置されたモニターの中ではネズミに扮したダンサーが街を歩いていた。ネズミって創作の中でも都会の中、それも都会の底のような場所で暮らす存在として描かれがちだけど、それを人間が踊りで表現するとこんなにも魅力的になるのかと思った。生き物としての強さが出ていたからだろうか。表現者の技量もあるだろうな。
階段で上の階に上がるとキラキラのカラオケルームだった。流れていたのはなんと細川たかしの『北酒場』。北海道かよ!と思ったけど、歌ってる人が何とも楽しそうでとても良かった。
ソファーがあったので座って何人か聴いてみる事にする。
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北酒場の熱唱が終わった後、隣に座っていた男女の男の方が「さっきの人より全然上手だったね」と言う。やっぱ歌の上手い下手ってあるよな、と思い悲しくなった。
次。強そうな格好をしていた女性が入れた曲は『罪と罰』。強気さと可愛さが同居してる曲、良いですね。
次。男女(前述の人達とは別)で来ていた人の女性の方が歌ったのは河合奈保子の『スマイル・フォー・ミー』。歌詞中で繰り返される「あなたが」の言葉と共に指で一緒に来ていた男性を指さしていた。とても真っ直ぐだ。
ここまで聞いたところでカラオケルームを後にした。歌わないの?と自分に対して思ったけど、前述の男女の会話が頭に残っており、無理だった。下手だから、もあるけど、今の僕には気持ちよく歌うことも、強気で歌うことも、真っ直ぐに歌うこともできないと思ったからだろうな。
階段近くの埃まみれのカウンターには文字が書かれていた。
「clean me!」
埃を指で除いて書かれる文字がclean meってちょっと面白いね。
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階段を上がる。自然光が見えたので屋上っぽい。
屋上に出るとこれまでに見た写真に写っていたドームがあった。ここで撮ったんだなぁ。ドームの横では先程『罪と罰』を歌っていた女性がポーズをとりながら写真を撮っていた。
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屋上から見える歌舞伎町はなんともごちゃごちゃしていて綺麗な景色とは言えなかった。でもだからこそ今まで見て来たような作品が作れたんだなと思った。片田舎とかなら無理だろうな。
屋上の端にはプラスチックのコップで出来た糸電話が置かれていた。糸を目で辿ると横のビルに繋がっていて、もう一方のコップも底にある。ここで待ってたら誰かがあのコップを取ってくれるんだろうか、誰か話してくれるんだろうか、と思いしばらく待っていたが、とくに誰も現れなかった。さっきの「もしもしチューリップ」でも思ったけど、他人との繋がりを得るためのツールはあるが、その向こうに人はいないみたいな感情を抱いた。
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置かれていた看板に書かれた「光は新宿より」の文字。戦後間もないころの文字らしい。そういえば一回歌舞伎町史を調べたことあったな。そこまで詳しく覚えてないけど、視界に広がる「今」の歌舞伎町と、この看板が示す「過去」の歌舞伎町をセットで考えられるような仕組みになってるのかなと思った。(作品を見る際、鑑賞者にどれだけ作品背景の知識を求めて良いとされているのかあまりよく分かっていない。そこを論じてる人とかいるのかな。流石に誰かいるか。)
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階段で地下に降りる。
ゴォーーーと音がしている。地下の音だ。都会の地下の空間ってすごく臭くてうるさくてあんま好きじゃないけど、まさにそんな感じの匂いだ。
薄暗い空間の中に2つ水槽があった。中にはドクターフィッシュが放されていた。水槽の脇には座れるような台とティッシュが置かれている。これは足を入れてみてくださいという事だろうと考え、足を突っ込んだ。地下でこれをする意味はなんなんだろう、と、角質を食べられながら考えていたけどそこはあまりよくわからなかった。(このドクターフィッシュは併設のレストランで料理として提供されているらしい。人間とドクターフィッシュの循環が発生していて面白い。)
地上に戻るとキッズスペースに子どもと母親がいた。僕にはそれがどうしても上手な作り物に見えてしまったので、目に入ったときにはギョッとしたが、よく見ると普通の家族っぽかった。ここにいた1時間とかの間に作り物と普通の区別が付かなくなっていたのか、、と思ったが、入る前から曖昧だったかもしれない。遠い存在だからかな。
ビラをもらって外に出た。夕方だったのでまだそんなに歌舞伎町が本領を発揮する時間帯ではなかっただろうけど、ギラギラした人、怖そうな人もちらほら歩いていた。
僕はあまり歌舞伎町に縁がある人間ではなく、そこで生きる人の信念も理解できない。でもこの舞台を存分に使って行われた表現はやっぱり凄かったし、顔拓の脇に書かれた文字は生きてる限りずっと僕の中に残り続けるのかなと思う。
そのまま新宿東口のアルタの前に戻ると、たくさんの人が携帯を掲げていた。振り返って確認したわけじゃないけど、多分猫の写真撮ってるんだろうな、と思った所で歌舞伎町エリアの外に出た事を実感した。
ナラッキーに行ったことによって何かが変わったわけでもなく救われたわけでもないのだけれど、4000字以上も書くことがある機会ってあんまないので、それほど色々感じた場だったのだと思う。大きい箱で大きな展示ってそれだけで力があるね。