南唐後主李煜が詠む苦悩と郷愁
<漁父>一櫂春風一葉舟
春風をいっぱい受けて、小舟を漕ぐ
軽やかに投げる、一筋の釣り糸と針
渚には花が咲き乱れ
甕には酒が満ちる
果てしない波間を漂いながら
自由を得る
<浪淘沙令>簾外雨潺潺
すだれ越しに雨しとしと降り注ぎ
春の気配が漂う夜明け前
肌寒さの中、ふと目覚め
さすらう我が身を忘れ
しばし夢に浸るよろこび
ひとり遠くを眺めるのはよそう
故国を離れ、いつ再び会えるやら
川は流れ、花は散り、春も過ぎ去る
天上の日々も、ただ記憶の彼方に
<烏夜啼>林花謝了春紅
林の花は散り、春は束の間に過ぎ去る
朝には冷たい雨、夜には風がまた吹く
酔わせるようなほお紅の涙
再び見る日は訪れるのか
川が絶えず東へ流れるように
人生もまた、遺恨ばかりが積もる
<烏夜啼>無言獨上西樓
ひとり静かに、西の楼を上る
ほっそりとした三日月が浮かび
深い中庭に立つアオギリの木が
秋の夕闇にそっと溶ける
切っても断てず、整えても乱れる
それが別れの切なさならば
胸に湧き上がる、また別の寂しさも
言葉にはならぬまま
<虞美人>春花秋月何時了
春の花と秋の月
いつ尽きることがあろうか
思い出は胸の奥に計り知れず残る
昨夜、春風がまた吹き抜け
月明かりの下、故国を思えば
今の苦しみが一層耐えがたくなる
宮殿の欄干も石畳も、きっと昔のまま
だが変わり果てた我が身を見ると
その悲しみの大きさは
東へ流れる滔々たる奔流のようだ
<破陣子>四十年來家國
建国から四十年の歳月が過ぎ
三千里に広がる山河は雄大にそびえ立つ
宮殿は輝き、木々は美しく茂り
戦争を知らぬ繁栄の日々が続いていた
だが突然、囚人となり果て
痩せ細り、白髪が混じり
心までも擦り減ってしまった
先祖の御霊に慌ただしく別れを告げるその時
音楽所が奏でた別離の調べを耳にし
女官たちの前で、こらえきれず
涙を流したあの瞬間を
いまも忘れることはできない