阿羅漢の兄と、象になった弟
迦葉仏の時代、ともに出家して道を求める兄弟二人がいた。一人は戒律を守り、経典を学び、禅定を修めたが、もう一人は財を施し、さまざまな福業(善行)を修めた。
釈迦牟尼仏が出世された時代、兄は長者の家に生まれ、弟は敵を撃退するほど力持ちの大白象に生まれ変わった。
長者の子である兄は出家して道を学び、六つの神通(天眼通、天耳通、前世を知る力など)を得て阿羅漢となった。しかし、福徳が薄かったため、食物を乞っても得るのが困難であった。
ある日、城内で托鉢をしたが、どこへ行っても施してもらえなかった。やがて白象の厩に辿り着き、王がその象に与えている種々の豊かな供養を目にした。そして象に向かい、こう語った。「私とお前には、ともに罪過があるのだ。」すると象は深く感傷し、三日間にわたり食事を取ろうとしない。
象の管理員は恐れ、修行者を探し出し、問いただした。「あなたは何の呪術を使って王の白象を病ませ、食べられなくしたのですか?」修行者は答えた。
「この象は私の前世の弟であり、迦葉仏の時代、共に出家して道を学んでいた。私は戒律を守り、経を誦し、禅を組むことに専念し、布施を行わなかった。一方、弟は多くの出資者を募り、広く布施を行ったが、戒律を守らず、教えを学ぶことも禅定を修めることもなかった。その結果、弟は今世で畜生道に堕ちたものの、布施の功徳によって飲食物や用具が十分に与えられ、不自由のない生活をしている。一方、私は阿羅漢までなったが、布施を疎かにしていたため、今こうして托鉢しても食物を得ることができないのだ。」