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仏陀に会えた比丘

ある時、釈尊は舎衛国しゃえこく祇樹給孤独園ぎじゅぎっこどくおんにおられた。 南から来た二人の比丘が、釈尊を礼拝するために舎衛城に行こうとした。 一緒に旅をしていた二人は、誰も水濾しを持っていなかった。 途中、喉が渇いてある池にたどり着いた。池の水を覗き込むと、中に小さな虫がたくさん泳いでいた。 他のところの水を見回っても、どこも同じだった。二人は困った。「喉が渇いて死にそうだ。でも、虫のいる水だから、このまま飲んだら殺生することになる。どうすればいいか。」一人の比丘が言った。「仏陀をこの目で見るのは、千百万劫ひゃくせんまんごうに一度と言われるほど滅多にできないことなので、僕は今、この水を飲むのだ。」 水を飲まない比丘も言った。「仏陀は、生きとし生けるものに対して慈悲の心を持つように教えられている。僕はその慈悲の教えと戒律を守るために、自分の命を捨てても他の命を傷つけない。」 一人目の比丘は喉の渇きに耐えられず、虫の水を飲み、「長老よ! 水を飲みなさい、喉の渇きで死んじゃったら仏陀を見ることができなくなるぞ!」と忠告した。すると、もう一人の比丘は答えった。「戒律を破って生きるくらいなら、戒律を守って死んだ方がマシだ。」それから二人は旅を続けようとした。 水を飲まなかった比丘はだんだん衰え、木陰で禅坐し、これまでの人生での善行を回想し、力が尽きると息を引き取った。 この福の力を受けて、彼は三十三天さんじゅうさんてんに生まれた。

天に生まれた者は、男女とも、最初に3つの疑問が頭によぎる。 (1) 私の前世はどこで命が尽きたか? (2) 私は今どこで生まれているのか? (3)私はどんなことをしてここに生まれたのか? そして、彼は自分が人間界で死んで、今、三十三天に生まれていることがわかり、仏陀の教えのおかげで、今の自分がいることを思うと、感謝感激で胸いっぱいになり、釈尊を礼拝しにいかなければと考えた。 そうして、彼は夜中に、身を飾って威儀を正し、裾に花を入れ、大きな輝きを放って釈尊の所にやってきた。着くと、天の花を撒いて、仏陀の足を両手でいただいて額を大地につけて敬礼し(接足礼せっそくれい)、片側に退いてお説法を聞いた。 天人である彼はとても強い光を放つので、辺り一面が照らされた。 そして、仏陀は彼の理解力や好みに応じて法を語り、その場で彼に四聖諦ししょうたいの真理を悟らせた。 説法を聞いた彼は「有身見うしんけん」を破り、聖者の仲間入りを果たした。

真理を見た彼は、仏陀に向かって三度申し上げた。「釈尊のおかげで、私はついに解脱を得ることができました。 これは父母、王、天、バラモン、親戚、友人によって得られるものではありません。 私は釈尊という善知識ぜんちしきに出会えたため、地獄、畜生、餓鬼という苦しみに満ちた道を踏むことは二度となく、人間界と天界での限りある回数の生死を終えると涅槃に達し、骨の山、血の海という輪廻に終止符を打つことができました。これまでの長い生死流転の中に、ずっと「薩迦耶見さつがやけん」に囚われたが、今それを打ち砕き、「預流果よるか」を得ました。 私は今日から寿命が尽きるまで、仏、法、僧に帰依し、不殺生乃至不飲酒の五つの戒めを守ることを誓います。私が優婆塞うばそくになることを証明してくださいますように。」そして、仏陀の前で恭しく合掌して、次の歌を歌った。

「仏陀の力によって、私は永遠に三悪道さんあくどうに閉ざされ、大いなる美の天国に生まれ、いずれ涅槃の世界に帰るのだ。 釈尊の教えに従うことによって、清らかな目を開いた。真理を知り、苦しみの海もついに果てが見えてきた。仏陀は人間界や天界を超えた存在であり、生老病死の苦悩から自由である。私は今、会い難い仏陀に会えて聖者入りを果たした。 荘厳な身と清らかな心で、仏陀に礼拝する。右回りに回って(インドの旋礼法の一つ)天宮に帰る。」

礼拝を終えた天人は、富を獲得した商人や、豊作を叶えた農夫、戦いを勝った勇者、惡疾を完治させた重病人のように、仏陀のもとを去り、天の宮殿に戻っていった。

その後、水を飲んだ比丘も、のそのそお釈迦様のところに来て、同じように仏陀の足を両手でいただいて礼拝し、片側に退いた。 釈尊は全てを見通したうえわざと、「君はどこから来たか?」と尋ねられた。

「南から来ました。」
「ずいぶん遠くから来たね、旅の道連れはいるのかい?」
「はい。」
「その人はどこへ行ったか?」
「私たち二人は一緒に旅をしていたのですが、途中のどが渇いて飲み水がなくて、ある池に辿り着きました。虫のいる水だったのですが、私はそれを飲んだおかげで釈尊にお目にかかることができました。彼は戒律に縛られ、飲もうとしないので、渇いて死んでしまいました。」
「愚かだね、君は私に会えていないのに、会ったと言ったじゃない。渇きで亡くなったあの比丘は、実は少し前に私に会いにきたのだ。」
と仏陀は言われた。

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