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#4 術後の長い夜
6月15日
13時
「今からご家族呼んできますね」
看護師さんの声で僕は目覚めた。
この時の僕の状態は、
ウトウトというか意識もうろうな状態だった。
手術室から出てすぐに「終わったよ」と言われたのだが、
そのあとの病室に行く間の記憶はない。
元の部屋とは違い、ナースステーションに隣接している重病の人がいる部屋にいた。
まもなくして妻と義理の父と母が病室に来てくれた。
家族の顔を見た瞬間、
無事に終わった安心感からなのか、わからないが涙が止まらなかった。
とにかく左精巣と共にガンはなくなった。
その事実が嬉しかった。
主治医が来て手術の話があった。
左の精巣は無事に摘出が終わったこと。
術後の合併症はないこと。
手術部位の縫い合わせに少し時間がかかったこと。
本来1時間半ほどで終わると言われていたのだが、2時間かかっていた。
なるべく傷跡が残らないようにと配慮してくれたのだと思う。
話が終わったあと妻がしばらく側にいてくれた。
手術室の前で別れたあとの話をしたり、今何時なのか聞いたり。
全身麻酔の話をしたり。
身体の状態を聞かれて気づいたが、
患部を含む下半身ががっちり固定されていて動かせない。
普段自由に動かせる部分が動かせないのは、
違和感でしかなかった。
そしてベッドから動けないので尿をとる管が入れてあった。
膀胱はパンパンに感じていても出すことはできない。
でも勝手に流れ出るようになっているのだ。
なんとも不思議な体験だ。
14時
話し声のなくなった病室には、
僕に繋がれている心拍モニターの音だけが鳴り響いている。
安堵感はあるが落ち着きはできない環境だった。
ふと思って携帯を手に取った。
LINEを開く。
緊急で手術になったこともあり、知っている人はごく僅かだった。
その人達に連絡をしようと思ったのだ。
「手術、無事に終わりました。」
この報告ができることがすごく嬉しかった。
皆が喜んでくれたし、
前日からの睡眠不足もあり、このあと再び眠りについた。
21時
消灯。
時々目覚めてはLINEを返していたので、
スマホの充電は10%を切っていた。
充電したいと思いつつも身体は起こせない。
「諦めて大人しく寝るか〜、いうてすぐ朝になるし。」
充電しない選択を取った僕はスマホを床頭台に置き、
目を閉じた。
長い夜が始まる。
6月16日
目が覚める。
今何時だろうか。
下腹部を庇いながら、
スマホを手に取り確認する。
表示されたのは空になったバッテリーのマーク。
時間がわからない。
病室には壁掛け時計もなかった。
幸いにも看護師さんが頻繁に様子を見に来ていたので
そのタイミングで時間を聞くことにした。
「体感6時間くらい経ってるとして、
いま3時くらいかな。もう眠れんわ。」
看護師
「今の時間は〜、0時ですね!」
えっ?
0時
暇をつぶそうにもスマホの充電は0%。
術後で寝返りすら1人でできない僕のできることと言ったら
寝ることだけだ。
でも、夕方から今までずっと寝ていて
なんなら術後も寝ていたから、もう眠れない。
でも、
明けない夜が来ることはない。
そう思って、まぶたを閉じる。
#5に続く