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朽ち果てた言葉【エッセイ】

「私のどこが好きなの?」と彼女が問いかけたあの夜も、今日と同じぐらい肌寒かった。
そんなもの言語化できるはすがない。

例えば「優しいところ」と答えるとする。それは彼女だけの特別なものではない。
優しい人間なんて彼女以外にもいくらでもいる。そこだけを好きになったわけではないのだ。結局どんな言葉も月並みで、自分の中の想いのほんの一部しか伝わらない気がした。
そして仮に、もしそう答えていればきっと彼女は「それだけ?」と静かに声を荒げただろう。

迷った挙句、僕は「直感」と答えた。
眉をひそめた彼女は小さな声で呟いた「元彼にもそう言われた。」

何と答えれば正解だったのだろうかと、しばらく考え込んでいた。
だが今になってようやくわかる。
正解の言葉などなかったのだ。

愛を語る言葉が、口癖になれば価値を失うと思い込んでいた。
大事な時にだけ使う言葉は、心の奥底で宝物のようにしまい込まれ、結局は一度も表に出ることなく色褪せていった。

朽ち果て、粉々になった言葉を枕に、今日も眠る。

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