今年のデザイン授業の振り返り
今年も東京造形大学で担当している「インタラクションデザイン」の授業を終えました。
今年は受講者数40人弱と去年の1.5倍位になったようです(講義ではなく実技伴う演習なのでこの人数はまぁまぁ多い)。
学生曰くおそらく最も出席率の高い授業らしい。出席率は評価に一切関係ないからねと冒頭で毎回話しているにも関わらず出席率が高いのは嬉しい限りです。
最終回は私の大学時代の同級生でもあって、学生たちの先輩でもある友人のライゾマティクスデザイン木村浩康 (@hiroccck)にもゲストで来てもらうなど、かなりいろいろぎっしり詰め込んだ感じにしました。
私はインタラクションデザインを「作法のデザイン」と定義しており、物理もデジタルも学ぶ必要があると考えているため、私の授業では「プロダクトデザイン科」なのにも関わらず、ハードウェアからソフトウェア、サービスやビジネスのデザインまで広範囲にジャンルレスに教えています。学生のみんなには冒頭で「この授業の目的はみなさんが現代的なデザインを学び、各自の制作に活かせる視点を手に入れること」と話しています。
美術大学・デザイン大学はクラシカルなデザイン教育(領域区分され、各科専門的に特化したデザイン教育)は多く存在しますが、2010年代以降の異種格闘技戦のような統合型デザイン教育はあまりありませんので、そこを補完できるような立ち位置で貢献できればと思って毎年半期の少しの時間だけハンズオンの授業をしている感じです(授業のスタンスについて以前書いたnoteはこちら)。
今年の内容
今年は前半は各一回単位でのインタラクションデザイン関連の講義と短時間の実践トレーニング、後半はテーマを決めて、私が全員のプロジェクトマネジメントしつつ数週間に渡り各自1テーマを制作をするという構成としました。
各回のタイトルとやってもらったトレーニング課題は以下。すべての回は授業の時間内で終わらせられる課題とレビューがセットになってます。宿題は一切なし。6回くらいまで各回で様々な知識やスキルセットを学んでもらい、それらを総動員して後半の課題を頑張ってもらうという構成にしました。
今年の最終課題は「家庭内、公共空間、人体の領域いずれかで、IoT機器をデザインしてください」というもの。アプリや機器実物の「動くプロト必須」という条件もつけました。アプリやワーキングプロトを作り慣れてない美術大学三年生が最終的にそれらを作れるように持っていくのが目標でした。
各回タイトルと概要(全14回)
1.インタラクションデザインとは何か(インタラクションデザインの歴史と定義や解釈)
2.よいインタラクションとは?(OculusQuestを使って、「よいインタラクション」の考察)
3.デザインと身体性(自己帰属感、バーチャルとリアルの身体性について)
4.プロトタイピング(プロトタイプの種類や具体的技法について)
5.コネクテッドプロダクト(IoTの歴史と現在、市場のプロダクト事例)
6.サービスのデザイン(サービスとは何か、社会課題とインタラクションデザイン)
7.スプリント&クリティーク(デザインスプリント、デザインクリティークの実践)
8.体験の観察(観察の重要性、ジャーニーマップ思考)
9.プロトタイピング技法01(externalUIという考え方,AdobeXD,Fusion360のチュートリアル)
10.プロトタイピング技法02(HIG等参考情報の解説)
11.デザインクオリティ(クオリティとは何か、これを潰せばクオリティ高くなる30項目)
12.プレゼンデッキ(今日からできる、プレゼンの型やデキるやつに見せる工夫等)
13.デザインの仕上げ(プレゼンテーションのまえに確認すべきチェックリストなど)
14.最終講評(ライゾマティクスデザインの木村氏をゲストにプレゼント講評)
去年と同様、毎回お菓子をたくさん用意し、音楽をかけリラックスしながらも、授業の時間内でスピーディに集中的に学ぶスタイル。下は「身の回りのデータと呼べそうなものをを100個出せ、かつ2x2のチャートに分類し考察せよ」という課題に取り組んでいる風景。
後半は明示的に以下の役割を各自が担うルールにし、責任も明確化した上でのチームor個人制作としました。個人の場合は以下を1人で全部やる感じ。チームでやるのと個人でやるのはそれぞれ一長一短なのがあることも事前に伝え、各学生にメリデメ鑑みつつ選んでもらいました。チーム制作を選んだあとにディレクターというのがどんなに大変か、リサーチャーがいかに大事か痛感し学んだ学生が多かったようです。
各学生が必ずどれか担うこととなった役割
ワーキングプロト担当(ハードウェア、機構設計)
スタイリング担当(ハードウェア、UI含む)
ワーキングプロト担当(ソフトウェア、実装)
GUIデザイン担当(ソフトウェア)
リサーチャー担当(歴史、技術、市場の調査や論拠作成)
ディレクター担当(意思決定、チームマネジメント)
最終プレゼン
最終日は各人が考えてきた最終課題の提案をプレゼンしてもらいました。みんなアプリやプロダクトのプロトタイプを用意し臨みます。ゲストで来てもらったライゾマティクスデザインの木村浩康 (@hiroccck)にも一緒に講評してもらいました。他の学科からの聴講生もちらほら。
自分たちのプロセスを見て来ていない、初対面の、第一線で活躍するプロが自分たちの作品をフラットにどうシビアに判断するのか体験してもらうことは重要だと思っています。こういう機会は貴重だったのではないでしょうか(前の週に来週この人に来てもらうから!と突然発表したときはすごくざわつきました)。
講評後の@hiroccck の感想
「最近の学生はやらなきゃいけないこと多くて大変だな....」
「あの本棚IoTの子と歯科医サービス作ってた子が良かったな」
「AIとかデータの実現性とかは理解度の個人差でかそうだったな」
「作ってるうちにブレブレになっちゃったんだろうなって子もいたな」
「学生がちゃんとジャーニーマップとかちゃんとやるのかって驚いたわ」(学生には私が実務で使うテンプレとかもあげてたりする)
講評後は私達の学生時代に考えていたことや大学との接し方、就職活動やモラトリアム期など、学生の今感じている様々な不安と密接に関わる話を近い距離で話してもらいました。よくあるトークイベントのように最近の作品とかの仕事のキラキラ話をあえてせず、格好つけてない結構オフレコ気味な学生時代の話を一線の先輩から聞ける機会は超貴重だったと思います。学生たちが「あれ、 先輩たちも学生時代は結構迷走してたんだ...もしかしたら自分もちょっと頑張ればいけんじゃね?」みたいな自信を持つきっかけになってたらいいなと思います。
@hiroccck との帰り道、今日の授業の感想みたいな話の延長で、「デザインする際に学生もプロも表面的なものをなぞりがちだ」という話題になりました。最近ならVaporwaveグラフィック、他にも服部一成さんや北川一成さんのような作家性強いグラフィックなどはその表現に至るまでのバックグラウンドの存在や理解によって表現の強度が出るので、バックグラウンドや文化への理解がないデザイナーがやるとどうしても薄っぺらさが出てしまう。学生も自分たちもスタイルを真似るだけではなく、常にそういう文化理解とセットで表現を考えるべきなんだよなという話をしました。どんな文化や技術にも歴史やその文化圏特有のミームやお作法がある。それを忘れないようにしないといけないな、みたいな話です。普段はそんな真面目な話しないのに...
学生に教えることを通して、自分の視座での新しい課題に出会う事がある。これは誰かに何かを教えることのメリットなのかもしれません。
ちなみに当日は@hiroccck が誕生日近だったので彼が某メディアに載ったときに友人たちから「変質者っぽい」「物陰からこんな人出てきたら逃げる」とか散々イジられたpokemonGO plus片手に笑ってる写真を使ったバースデーケーキを用意してお祝いしました。おめでとう!ケーキは学生みんなもいっしょに食べました!
今年の成果
今年の成果は「好きな領域を見つけてくれた学生が多かった」ことです。
私が教えてる学科はプロダクトデザインコースなので「プロダクトデザイナー(インダストリアルデザイナー、工業デザイナー)」になるための教育がされています。
しかし近年のプロダクトデザインは2000年代以前のプロダクトデザインとはデザイナーに対する社会的要望や若い世代のデザイナー観は様変わりしており、美術大学という構造がその感覚に追随できず、学生たちが「デザインに興味をなくす」「デザイナーつまんねーなとおもってしまう」という状況になっています。スマートフォンアプリ、モバイルインターネットプロダクト登場前と後では若いプロダクトデザイナーの卵たちが学びたいことは全くちがうのです。
具体的には「インターネットサービスとつながるプロダクトデザイン(いわゆるIoTなど)を学びたくても先生がインターネットサービスをよく知らない」とか「フォルムのよい家電は飽和した世代で、家電のフォルムのリデザインに興味はないのに延々と家電のスタイリングだけやらされてうんざりする」とかです。あとは古いことを知らないと「お前はそんな事も知らないのか?」と教授に叱られるとかですね。学生たちは未来のことを学びたいのに!
そういうことが入学以来続いて、デザインそのものに興味をなくしている学生が非常に多いのです。
そういうメンタル+就活が迫っていて不安に苛まれている学生が非常に多いことは事前に把握していたので、クラシカルなデザイン領域に興味が薄い学生でも楽しんで自分の好きな領域を見つけられるきっかけになるような授業がしたいなと考えていました。
プロダクトデザインコースに入学したからといって、プロダクトデザイナーを目指さなくてもいいと私は考えています。特定のジャンルをよく知ることで「ああ、自分はここには興味ないな」と知ることができるのも学ぶ意義だと考えているので、授業の中では繰り返し「将来デザイナーを無理して目指さなくていい。何かを考えたり作ったりする過程で自分が好きになれる領域を見つければいい」というメッセージを伝えていました。
結果、最終日に「(従来の)プロダクトデザイナー以外になりたい人?」と質問したところ2/3以上の手が上がりました(これを眺めながら笑ってくれてる 中林教授 みたいな人がいるのも造形大学のいいところ)。私はこれをすごくポジティブに捉えていて、古い世代の枠にはまらない、新しい領域をみんなで開拓していってほしいなと考えています。
授業の中でiOSアプリのUIデザインを学び、「これ楽しい!こっちがやりたいって思っちゃいました!」という学生や、「自分がこんなにサービスデザインするのを楽しんでできると思わなかった!向いてるかもです!」という学生、建築という自分が1番好きだった領域を思い出した学生、機構設計と合わせて考えることでプロダクトデザインが楽しめるようになったという学生もいました。こういう感想を聞けただけでも今年も無駄じゃなかったかな、と思います。旧来のプロダクトデザイナーにはあまり興味がわかなくても、「これから自分たちが定義していける、自分なりのプロダクトデザイナー」にはみんな興味があるのです。
去年の成果
今年うれしかったことの一つに、去年の授業を受けていた学生が、某有名クリエイティブ大企業に内定したとわざわざ伝えに来てくれたことです。
「この授業で久下さんがおしえてくれた、サービスからアプリまでデザインするプロダクトデザインの考え方とかプレゼンテーションがすごく評価されました。ありがとうございます!」と。こういうのはすごく嬉しいですね。
一方で企業の採用担当者からしたら、今の時代そういう考え方をするのが当然だろと思うので、もっと学生たちがそういう視点で自分のデザイン観を身につけていくと幸せになれるんじゃないかなーとおもいます。
あとこれ。
大学が毎年、各授業のアンケートを学生に匿名で依頼してて、その結果が教員はもらえます。頂いた結果は、いろいろいい数字が並んでてて嬉しかったのですが、
自由記述欄に
バイブスが高かった
という感想。誰だか知らんがさかのぼってS評価あげたいくらい笑った。
来年度の展望
来年はもっと授業内容を さらに体系化して洗練させて、所属学生じゃなくても学べるオンラインドキュメントとかにできるといいなーなんてぼんやり考えています。学生だけでなく社会人向けにも役立つものにデキると面白いかなぁ。スライドとか資料は使ってないのも含めごっちゃりある。
問題は時間…
(2019年中に書けてよかった)
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