おともだち

人は落ち込んでいるとき、自分を必要以上に卑下しがちである。その日松本は好きな女の子に振られたとかなんとかでたいそう落ち込んでおり、我々は落武者みたいになっている彼を必死に励ましていた。
「もうダメだ……」
中でも安西は神妙な顔で話を聞いていた。松本とは入学当初からすぐ打ち解け、特に仲良くしていた。そんな彼は思うところが人一倍あったのか、松本を一番強く励ましていた。だめなんかじゃない。そんなことないよ。他にいい女いるよ。まっちゃんに相応しくなかったってだけだよ。

しかし分厚い殻のなかで一人反省会を続ける松本に我々の声は遠く、背中いっぱいに絶望を背負い枯れ木のような彼は、いよいよ泣きながら呟いた。
「もう終わりだよ、俺なんかうんこなんだよマジで」
我々はもう言葉がなかった。地獄の底というか本当に便器の底から聞こえてきそうな弱々しく悲痛な自嘲に、しかし即反応できたのは安西だった。
「まっちゃんがうんこなら俺なんてケツだよ!!」
我々はすぐさまうつむいた。
暴論だ。なんの励ましにもならない、ただのA>B論的反射を真っ直ぐ安西は叫んだ。声がすごく出ていた。私を含む他のメンバーはこの突然の宣告に、ごめんだけど正直マジでこれは予想外で、吹き出さないように必死だった。
表情を整え顔を上げると、ケツの両目には「友」「情」の二文字が浮かんでいた。一点の曇りもない眼(まなこ)、真剣だった。相手を思いやった台詞。性格のいいケツなんだよね。

誰もそれより面白いことを言えなくなってしまった。別に面白くなくていいんだけどそれよりベストな励ましがもう思い浮かばなかった。
しかし当事者の松本だけは、突如投げ掛けられた低能な言いがかりに泣きながらケツを見て、一切笑わず、むしろ怒鳴った。
「いやケツはだって良いケツとかあるじゃん!!」
我々は再びすぐさまうつむいた。
マジでこいつ振った女誰なの? 一生笑って暮らせるよ。
この世で一番硬い鉱石であるダイヤモンドを削るために、ダイヤモンドの刃を使うと昔聞いたことがある。そんなことを思い出した。暴論には暴論をぶつけるしかない。核には核撃つしかないのだ。

最高に面白い祝詞読んでも全然成仏しないししかも仕返ししてくる霊みたいなうんこはもう感情が爆発していて、ケツに逆ギレすることでしか処理できない様子だった。ケツはケツで「んなことねえよ!聞けよ!」とキレ返し、行き違って喧嘩になりそうな空気感に「もう帰ろう」と誰かが呟き、なあなあになってその場は終わった。大体いつもこうなった。

松本はその後他の彼女が出来、あっという間に枝振りの良い大樹になった。
生き物として生きていく上で生命力や力の強さなどは必要だが、"面白さ"これは不要なことだと思う。生きていく上で不要なことを備えてなお問題なく生き抜いているということは、むしろその個体の優秀さを逆説的に肯定している。松本と安西はその点で特筆すべき優秀な人間であるが、でもうんことケツだからなあ。昨日ケツメイシがケツのこと書いたらこのことも思い出して、2日連続お下劣な話題ですみませんね。へっへっへ。

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