手相占いの女

手相占いの女は「あなた、文章を書くのが好きでしょう」とはっきり言った。
「占いなんてどうせヒアリングからのカウンセリングなんでしょう?」という表情のまま、私は固まってしまった。もちろん一言も、文章を書くのが好きだなんて、打ち明けなかった。
その通りです、と答えるとヤッパリねと女は無表情で言う。仕事は何してるの?
「普通の事務です」嘘なんだけど半分本当で、私は他人に仕事を聞かれると必ずそう答える。自分の仕事の説明が難しいからだ。半分普通の事務だし、遠くないし。本当に普通の事務? と見透かすような質問をされるが、私は頷いた。

手相占いの女は「勿体ないね」とさめざめ言った。
「そうは言っても誰でも書けるでしょう」という考えが頭の中をめぐり、私は曖昧に笑った。しかしその横で、友達がはっきり言った。
「そう、私この子の書く文章が大好きなんです」

手相占いの女は言った。
あなたに文章を書く才能があることは手相に出ているが、手相に出るまでもなくあなたの才能を認めている人がこんなに近くにいるのだから、あなたはそれをするべきなのよ。

手相占いの女は言った。
小説でも良いかもしれない。あなた気にしいなところがあるけど、持ち込んで認められなかったとしても気にしなくていいの、見る目がないのねえって思えば良いの。
手相占いの女は言った。
あなた、芸術が溢れて溢れて仕方ないでしょう。

「いや さすがにそこまでではないです」
冷静に否定した私に、すぐさま手相占いの女は言った。
すごく勿体ないわよ。

手相占いの女は言った。手相占いの女は言った。手相占いの女は言った。手相占いの女は………………………………。
私は友達に言った。
なんか書いてみようかなあ。

私の文が好きな彼女は言った。
「書いたら最初に私に見せてね」
笑って私にそう言った。

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