瓜二つ【オカルト】
集団下校中の児童3人が夜になっても帰って来ず、そのまま行方不明になってしまったという事件が起きた。犯人の目星も付かず証拠品も何も見つからない。
話に上がるのは、消えた児童と似た格好をした人物がいたらしいという事だけ。結局、一年が経過しても犯人が見つかる事はなかった。
ある日集団下校のお知らせが届いて、仕事でいない夫の代わりに私が他の子達と共に帰る予定になっていた。子供が勢い良く昇降口から飛び出してきて、てんでんばらばらに私の元に集まる。息子を含めた児童4人に挨拶した後、家に向かって歩き出した。
校門を出るとすぐ右方向に下り坂となっており、50メートル程先を私と同様親が付き添って5人で歩いている。どうやって3人も一度に居なくなったのだろうかと考えていると、娘が「ねえ、前の子のランドセルって私といっしょー、変なのー」と言って前のグループを指差した。見比べると確かに同じ色のランドセルに似た様なストラップが付いている。しかしながらそれはその頃流行りのもので、色違いを息子も持っていたし別に不自然なところは無かった。だから、そうだねお揃いだねと言おうとした時、他の児童達も同じ事を言い出した。
同じ位置に同じストラップ、ランドセルの配色着ている服まで何もかもが一緒。こんな偶然があるのだろうか? 本当にただの偶然の一致と言えばそれで済むのだろうが……そんな私を他所に「ちょっと行ってくる!」と、前のグループめがけて一人の子供が駆けていった。
止める間も無くどんどん距離が縮まっていく。路地へ曲がるところで集団に追いつき、そのまま一緒に路地へと入って行った。
数十秒後、私達も続けて路地へと入った。が、目の前に居たグループとそれに加わった子供の姿が見当たらない。代わりに井戸端会議をしているママ友が居たので尋ねると、驚く事にこちらには誰も来ていないという。
角を曲がってすぐに彼女たちは立っていたはずで、出会わない訳が無い。しかし詳しく聞いてもそんな団体は来ておらず、今日ここを通ったのは私達が初めてだったそうだ。
帰宅後すぐに件の子の家に電話を掛けるも、やはり帰ってきた形跡も伝言もなく、結局八時を過ぎても帰ってこない。
一年前と同様に神隠しが起きてしまった。警察が出動し現場をどれだけ探しても、あの路地に入る角の所で綺麗さっぱり痕跡が消えている。足跡一つ残っていないのだから手の打ちようもなく、捜査も難航した。
案の定私に犯人の容疑が掛けられたが、一緒にいた子供達からの証言と、私達より後方を歩く男性によりそれは撤回された。
しばらくテレビで大きく報道された後、次第に地元民の間での事件へと変わり、また噂程度のものになっていった。
当の私は例の母親と周囲の目に耐えられず、町内会もPTAも出らずに家にいる事が多くなっていた。いや、消えた子の母親が子供を探して昼も夜も関係無く町中を歩き回っており、それに出会いたくない、というのが本音だった。
事態が急変したのは、男の子の失踪から約三ヶ月が経った集団下校日の事だ。
驚く事に件の男の子とその前に失踪していた児童が見つかったと言う。警察やその子達の親からの質問の嵐に、要領を得ないながらもこう答えたそうだ。
「いつもの友達と遊んで、家に帰って、普通に学校に行ってたよ。そしたら今日、目の前に僕と同じ服の子達が居たから走って追いかけたら、皆がいて、皆不思議な顔で僕の事を見てた」
次に
「あの子とはクラスが一緒だったから仲良くなって、今日僕の家に呼ぶつもりだった」
話を相合するとつまり、ここではないパラレルワールドの様な場所に迷い込み三ヶ月(前の子は一年以上)何の苦もなく生活し、明らかに学年の違う子と同じクラスになり、そして向こうの世界でも同じ経験をして元の世界に戻ってきた、という事になる。
警察がどれだけ警察犬や人員を割いて捜索してもそれらしい入口や、人、物、その他一切が発見出来なかった。一時期規制線が張られていたのだが、何とも不思議な話に報道陣も地域住民も沸き立ち、遠方からもその曲がり角を見に、あわよくば体験しにくる者が後を絶たなかった(補導された話は聞くが、体験した話は一切聞いていない)。むしろその予期せぬ来客達によって、若干街の景気が回復したのはなんとも皮肉な話だ。
勿論この騒動も暫くすると収まったが、暗黙の了解として下校時にはそこを使わないようになっていった。
巻き込まれた子供二人は事件後、すぐに他県へと引っ越して行った。殆ど廃人と化していたあの母親がどうなったのか詳しくは知らないが、息子が戻っても徘徊する癖が残ってしまいカウンセリングに通っている、と風の噂で聞いた。
私の息子は無事に小学校を卒業、なんてことはない普通の中学校へと進学した。一年生の夏に仕事の都合もあって私達家族も引越しはしたが、案外息子は学校でも上手くやれているようで安心した。
それから一年が経ったある日の夕方。駅前まで息子を迎えに行き、車の中で待っていた。遠目に見えた息子に手を振り、助手席に置いていたバッグに手を伸ばす。そのまま後部座席に向け優しめに投げて前を向く。
「えっ」
目に飛び込んで来た光景に思わず声が出ていた。
息子が前の車に乗り込んでいた。
唖然としたままの私を他所に、前の車は発進した。
同じ車種、同じ色、そして同じナンバー。
その日、息子は家に帰って来なかった。