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【英国旅行記】2023年 ストロベリー・ヒル・ハウス


宮殿の近所にあるストロベリー・ヒル・ハウス

今回のハンプトン・コート・パレス訪問の後、予定を決めていました。それは近くにカントリーハウス、「ストロベリー・ヒル・ハウス」へ行くことです。鉄道やバスでだいたい30分、徒歩1時間圏内にある距離でした。元気があれば歩いたのですが、天気も良くなかったので、この日は無難に鉄道で向かいました。

ゴシック文学の聖地=空想具現の屋敷

英国で発展したゴシック文学の歴史に興味がある人は、この屋敷の名前とその持ち主ホレス・ウォルポール(1717-1797)をご存知かもしれません。

ざっくりとゴシック文学の説明をすると、 「ゴシック」は「ゴート人の」という意味を持ち、ローマ帝国を滅ぼしたゲルマン民族の一部「ゴート人」に由来します。野蛮人や残酷さなどの意味を含んだ「ゴシック」でしたが、ゴート人の建築様式は後にキリスト教の建築様式に取り込まれ、天へ伸びて高く聳える教会建築や、その天井を支えたアーチ構造を特徴としました。

ちょうど訪問したばかりのウェストミンスター・アビィもゴシック建築を反映しており、天井のあたりにもその片鱗が見えます。

こうした「ゴシック」の様式を文学に取り入れ、読む人に「恐怖を与える」ゴシック小説を生み出したのがホレス・ウォルポールです。

ウォルポールの『オトラント城奇譚』(1764)は中世のオトラント城を舞台とする物語で、城の領主が超自然的な現象に翻弄され、「空から落ちてきた巨大な兜」に自らの後継者たる息子が木っ端微塵に潰されて殺されるところから始まります。意味不明です。

ウォルポールの創作の背景には、貴族たちが行った大陸周遊旅行グランドツアーの影響があり、旅先でアルプスなどの巨大で雄大な自然に接する中で、「理性の及ばない恐怖・畏怖」を抱くことを「崇高」なものとする美意識を、物語を通じて再現しようとしていました。

当時の英国では「畏怖を与える自然の風景」は風景画の人気のモチーフにもなっていました。ウォルポールもこうした絵画を鑑賞した人物であり、そのモチーフの元となったグランドツアーを経験した人物でした。

このような「崇高」を引き起こす心理体験を、文学を通じて行おうとしたのがゴシック文学でした。

その原点となった『オトラント城奇譚』の作者ウォルポールはゴシック趣味を持ち、自らの屋敷ストロベリー・ヒル・ハウスをゴシック様式に改修しています。

観光地としてのカントリーハウスと物語の「聖地」

屋敷ストロベリー・ヒル・ハウスには見物者が多数訪れるほどで、そうした生活の先に『オトラント城奇譚』が生まれています。

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