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【同人誌】「執事セバスチャン」をさがして

書誌

  • タイトル:執事セバスチャンをさがして

  • 英タイトル:Quest for the Origin of Butler 'Sebastian'

  • 著者:久我真樹

  • サークル:SPQR

  • 仕様:A5サイズ(同人誌)、横書き、84ページ(表紙込み)

  • 委託先:とらのあなメロンブックス

  • 電子書籍:BOOTH

概要

「執事といえばセバスチャン」は、いつ、 日本で成立したのか? 

そしてなぜ執事の名前は「セバスチャン」なのか?

2018年に世界唯一の執事ブーム研究本『日本の執事イメージ史』(星海社)を書いた私にとって、このテーマは未解決の課題でした。

それから6年、少しずつ調査を続け、アンケート調査でも多くの方にご協力いただき、現時点で判明している事実をまとめました。

これは私が「執事セバスチャン」と出会う旅の記録です。

はじめに

【この本について】

 本書は、2018年に著者が星海社から刊行した『日本の執事イメージ史 物語の主役になった執事と執事喫茶』(『日本の執事イメージ』)をきっかけに、日本の漫画・ラノベ・アニメ・ゲームなどに多く登場する「執事セバスチャン」の源流を探求したテキストです。

■「執事といえばセバスチャン」考察
 『日本の執事イメージ史』の執筆を通じて、私は多くの執事作品を収集し、年代やジャンルで分類しました。見ていくと、1990年代に「執事セバスチャン」の数が増え始め、また「執事といえばセバスチャン」という認識を表明するテキストを見るようになりました。私の本の帯でも、担当編集の方が「執事といえば英国?セバスチャン?」と書きました。

 執事に関心がある方は、「執事といえばセバスチャン」という通説をご存知かと思います。ググって見れば、その回答を求める方たちの言葉や回答があふれています。「通説」ではアニメ『アルプスの少女ハイジ』の男性使用人「セバスチャン」の名称に由来して、日本のクリエイターたちが「セバスチャンという名前の執事を描く」現象になったとされています。

 『日本の執事イメージ史』の「帯」についてもう一点付け加えれば、「日本の執事イメージ」を代表するイラストとして、『黒執事』(枢やな、スクウェア・エニックス、2007年。2006年から連載)の1巻表紙の掲載許諾をいただきました。

 今の日本で最も有名な執事「セバスチャン」は間違いなく『黒執事』セバスチャン・ミカエリスとなるでしょう。『黒執事』は今も連載が続き、この原稿を書いている2024年にもアニメが放送された人気作品です。アニメの地上波放送・映画版、実写映画化、ミュージカル化などの多面的な展開が続く「常に新しい執事イメージを更新する中心的存在」で、2024年放送のアニメ『黒執事 寄宿学校編』公式サイトでは、「全世界シリーズ累計3,500万部を超えるベストセラー」(紹介から)とも作品を紹介しています。

 gooランキング掲載記事「多すぎ!アニメ・漫画・ゲームのセバスチャンといえば?」( 018年8月2日公開)のランキング上位キャラクターでも、『黒執事』は1位となっています。

1位:『黒執事』
2位:『アルプスの少女ハイジ』
3位:『リトル・マーメイド』

 枢やな氏は『日本の執事イメージ史』刊行時、『黒執事』「セバスチャン」の名前の由来について次のように呟きました。

黒執事、構想段階では舞台が英国じゃなかったんですよ。セバスにも名前がなくて、「執事」と呼ばれてました(笑)当時の編集長や担当氏からのアドバイスで舞台を英国に。名前はつけてと言われたので「じゃあ分かりやすくセバスチャン」と。その「分かりやすい理由」の源流が辿れる本なのかな?【枢】· 2018年8月21日午前1:27投稿

https://twitter.com/toboso_official/status/1031578544109805568

 作品発表時の2006年時点で、「分かりやすい執事=セバスチャン」が成立していたことがわかるテキストです。この2006年をゴールとして、それまでに作中で「執事セバスチャン」がどれほど出現し、どのように描写されているのかを明確にしていくことが、本書の目的となります。

■2018年からの「執事といえばセバスチャン」調査
 このような「執事といえばセバスチャン」という認識は日本以外では見られず、興味深いものです。しかし、私の「執事セバスチャン」リストは完璧ではなかったので、私が持っている情報をネット公開することで、「私の知らないセバスチャン」を知っている読者の方に教えて欲しいと考えました。

 それが『「執事といえばセバスチャン」はいつ成立したのか? 執事ブーム以前のセバスチャン考察』( 2018年8月24日公開)です。

 このテキストを書く中で、明確に調査事項が絞られました。

 第一に、1990年代に「執事セバスチャン」が登場する頻度が格段に上がった要因の特定です。「執事といえばセバスチャン」作品を登場させたクリエイターの方たちは、何をもとに執事に「セバスチャン」と名付けたのか。その由来を知るため、クリエイターの方たちに連絡を取ることにしました。上記テキストを「セバスチャン」を登場させたクリエイターの方たちに見ていただければ、「なぜその当時にセバスチャンの名前を選んだのかを教えていただけるかも」と考えましたが、これについてはダメでした。

 第二に「執事といえばセバスチャン」の「セバスチャン」の影響の可視化です。私が調査を開始した段階で、アニメ『アルプスの少女ハイジ』(1974年)に登場するセバスチャン由来説を見ました。

 しかし、英国執事や日本の執事イメージを研究する私からすれば、『アルプスの少女ハイジ』のセバスチャンは作中で「執事」と言及されず、執事らしい服装をしていませんでした。その仕事内容も執事の部下たる職種「フットマン」のレベルにとどまります。

 第三に、読者アンケートの必要性です。私がネット公開したテキストを読んだ方々からさまざまなご指摘をいただき、私が把握していなかった「執事セバスチャン」もいました。

 中には『アルプスの少女ハイジ』の強さを再確認する指摘もありました
が、定量的ではなかったので、「執事セバスチャンに関する認識」を知るアンケート調査を計画し、2024年6月に実施しました。この3軸の調査を踏まえて、このテキストを書いていきます。

 以下、本書の構成です。

■第1章「執事といえばセバスチャン」の成立時期とその系譜
 日本での「執事といえばセバスチャン」の成立時期を明確にするため、執事セバスチャン登場作品リストを軸に、いつから執事セバスチャン作品が増加したのかを明確にします。
 あわせて、作中描写についても考察します。
 内容は先述した2018年公開記事『「執事といえばセバスチャン」はいつ成立したのか? 執事ブーム以前のセバスチャン考察』に基づきますが、その後に行なっている追跡調査やアンケート結果などを踏まえて、大幅改定しています。

■第2章「執事セバスチャン」をさがして 『アルプスの少女ハイジ』説の検証
 ここでは、第1章を踏まえつつ、「執事といえばセバスチャン」の由来としてアニメ『アルプスの少女ハイジ』セバスチャン(1974年)と、同じ系統であるアニメの「世界名作劇場」シリーズ『ペリーヌ物語』(1978年)にもいた執事セバスチャンを中心に、どれだけの影響力を持ち得たのか、視聴可能な環境から考察していきます。
 アニメ『アルプスの少女ハイジ』と『ペリーヌ物語』のセバスチャンの描写を分析し、実際にはどのようなものだったのかを解説します。

■第3章「執事といえばセバスチャン」2024アンケート調査結果報告
 2024年6月に行なった「執事といえばセバスチャン」の認識についてのアンケート調査結果を記載します。一部ネットでも公開していますが、ここではネットよりもデータを組み合わせた分析も追加します。

■本書掲載のリスト・表など

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