【SF小説】@pple社のリーク情報
創世記によると、アダムとイヴは知恵の実で知性を得たとされている。その果実の正体について、いくつかの説が存在する。
世に出る果実種はBack Upという耐久試験を潜り抜ける。試験内容は次の通りである。Time Machineを用いて、被験品を近過去へ投函し、その際にかかるGを耐えた種のみが世に顔を出す。かつての手法と比べると費用は莫大でステークホルダーからの反対意見も少なくない。しかし、本試験はTime Machineの試用を兼ねている。というより、そちらが主だ。我々は責任を果たさなければならない。同期という社会的責任を。
延回数1の世において、ふたかじりされた果実を確認できるのは弊部署のみである。冬になると手がかじかんで、蓋の解体作業でさえ疲弊する。そんな部下も多い。設備投資はどうなっているんだ。ステークホルダーの圧のしわ寄せがウチにきているのだろう。Back UpはCSR活動でもあるのに風当たりが強すぎやしないか。持続可能、持続可能とピーチクパーチク鳴き喚く割に、延回には目を向けない株主に飽き飽きする。彼らは裸の王様だ。被験品にしてやりたい。投函して禁断の果実を齧らせてやりたい。そうしたら少しは恥じらいを抱くだろう。...そんな怒りを書き留めながら今宵も解体作業を指揮する。
果実の背面には齧られた痕跡を確認できる。その跡数は延回数を表す。つまり、我々は1度の延回によって成り立っている。世を継続させるため、次に繋げる必要がある。弊社ではこの社会的責任を「同期」と掲げ、開発を進めている。
指定した時刻に、被験品を受函できない。おそらく何かのトラブルがあったのだろう。数分後に分かることだ…。
受函を終えたBack Up被験品は解体処分される。なぜなら、投函を経験した果実は跡数が増え、延回数の表記に歪みが生じるためだ。このメカニズムは明らかになっておらず、研究班では現象解析が行われている。その一員である妻の見解としては、神の仕業らしい。神が齧るのだと。禁忌を犯した人類への警告として。
ある日、異国の地にて古びた果実が発見された。すぐに研究所へ引き渡され、放射性同位体年代分析が開始された。迅速な結果報告が望まれる。なお、果実には1つ、齧り跡が刻まれていたらしい。
継ぎ接ぎのメモ帳はここで終わっている