童話・真夜中のともだち
ぼくは、なかのよいケンジくんやユウタくんがもっている『けいたいでんわ』がうらやましい。まず見た目が、ヒーローのへんしんどうぐみたいでかっこいい。それに、ケンジくんのけいたいでんわにはカメラまでついている。すなばあそびでの力作『スーパーマウンテン』や『すなのおうじゃ』、『ゴールデンドッグ』などをしゃしんにのこすことができるのだ。すなばは、いろんな子があそびにくるからつぎの日には、力作はくずれさってしまう。だから、これはさいこうの機能(きのう)だ。
さいしょはおかあさんに、
「けいたいでんわがほしいんだ。ケンジくんもユウタくんももってるんだよ。」
といってみた。
「そうねえ。こんどのさんすうのテストで百てんがとれたら買(か)ってあげるわ。」
おかあさんはいじわるだ。ぼくは、さんすうがとてもにがて。あきらめることにした。
つぎにおとうさんに、
「けいたいでんわがほしいんだ。ケンジくんもユウタくんもほかの子ももってるんだよ。」
といってみた。
「そうだなあ。てつぼうでさかあがりができるようになったら、買ってあげるよ。」
おとうさんもいじわるだ。ぼくはたいいくもとてもにがて。とくにてつぼうがにがて。あきらめることにした。
夜中(よなか)にトイレにおきた。そのとき、おとうさんとおかあさんがはなしているのをきいた。
「どうしてショウマは、すぐにいろんなことをやるまえに、あきらめてしまうんだ。」
これはおとうさんのこえだ。
「しょうらい、こまったことにならないかしら。」
これはおかあさんのこえ。おとうさんもおかあさんもぼくのことあきらめてばかりのだめなやつだとおもってるんだ!こころがくさくさした。
へやにもどって、まくらもとをみると、まずはとけい。夜中の三時(じ)だ。それから・・・手のひらにおさまりそうな、きいろいころりとした丸い機械(きかい)がおちていた。見おぼえがないなとおもい、手にとって見てみる。白いボタンが真(ま)ん中に一つだけついていた。小学一年生のときに学校でもらった、ランドセルにつけるぼうはんブザーににている。ビビビビッと大きな音がでないかハラハラしながらボタンをおしてみる。すると、
『もしもし?』
とぼくのこえがきこえた。思わずぼくもぼうはんブザーもどきにむかって、
「もしもし?」
とはなしかけてみる。
『ボクだよ!ボク!これはきみとボクとをつなぐとくべつなけいたいでんわだよ。』
「うそだ。ボタンが真ん中に一つしかないなんてけいたいでんわじゃないよ。それにかっこわるい!百歩(ひゃっぽ)ゆずっても、ポンコツけいたいだよ!」
とくさくさしたきもちをぶつけた。
『ポンコツけいたいでけっこう。ボクはきみとおしゃべりできる日をずっとまっていたんだ。ボクはきみのことならなんでもしっているよ。しつもんしてみてよ。』
「ぼくのなまえと学年は?」
ぶあいそうなこえでいうぼく。
『ショウマくんだよ!小学二年生だね。』
「うん。ぼくはショウマだけど、小学三年生だよ。やっぱりポンコツだ。」
ぼくはとてもねむくなり、そういうとすぐにねむってしまった。あさがくるとポンコツけいたいはすがたをけしてしまった。
とある日、夜中にふと目ざめると、ポンコツけいたいがあった。とけいを見ると夜中の三時。ボタンをおす。
『もしもし?ボクだよ。ひさしぶり!』
夜中にげんきなぼくのこえ。こっちはおちこんでいるのにさ。
「ひさしぶり。きみはぼくとおなじこえだし、まぎらわしいからポンコツけいたい、りゃくしてポンってよぶね。」
『・・・うん。わかった。』
ちょっとふくざつそうなポン。
「じつはマラソン大会があるんだ。」
そう、それでぼくはおちこんでいる。
『きみはかけっこがおそかったよね。』
その口調(くちょう)でポンのものしりがおが見えるようであった。ぼくはむっとして、
「かけっこがおそいのはわるいこと?」
ときいた。
『それがわるいってだれがきめたの?おそいぶん、いろんなけしきが見られていいじゃないか。』
「でも、マラソン大会で一ばんさいごにゴールするのはかっこわるいじゃないか。」
『それはどうしてだい?』
「それは・・・」
ぼくはことばにつまった。
『おなじきょりをはしっているのに、おそいかはやいかでよいわるいをきめるだなんて人げんってふしぎだな。』
「一ばんおそいと、みんなに注目(ちゅうもく)されるんだ。先生によってはさいごまでがんばっているぼくにはくしゅをしようだなんていいだして。」
『それはおかしいね。二ばんの子も十五ばんの子もどんなじゅんいの子もがんばっているのにね。』
「ぼくはそのはくしゅがこわいんだ。とくべつあつかいっていうのは学校でいじめられるんじゃないかってひやひやしてる。」
『ショウマくんには、ケンジくんやユウタくんがいるじゃないか。』
「いじめは大きな波(なみ)なんだ。ケンジくんもユウタくんもそれにのまれたら、たちうちできないよ。さからったらうみのも(、)くず(、、)さ。にがてなたいいくやさんすうなんかなくなっちゃえばいいのに。」
『それは、いいかんがえかもしれないね。犬だってネコだってにがてなことをわざわざしないよ。すきなことを[藤田1] がんばる、それでボクはいいとおもうんだ。』
「でも、ぼくにはすきなことなんてないよ。べんきょうはからっきしさ。それに人げんのしゃかいは学校のべんきょうをしなきゃ、しょうらいこまるんだって。おかあさんがいってた。」
『それはきゅうくつだね。』
ぼくは夜中の三時にすこしのあいだポンとおしゃべりすることがふえた。
『けいたいでんわがほしい、ほんとうのりゆうをいったらどうなんだい?』
ポンがついにほんだいをきりだしてきた。
「ぼくにあいぼうがいたのをしっているかい?」
『きんいろでかっこいいゴールデンレトリバーだよね!』
「うーん、きんいろなのはあってるけど、どちらかというとかわいいかな、ムギは。」
『そっか。』
すこしざんねんそうにいうポン。
「じつはまえに、おかあさんにいわれたんだ。お世話をがんばってきたし、ムギをなくしてかわいそうだから、けいたいでんわを買ってあげるって。」
『買ってもらえばよかったのに。』
「いいや、ムギのいのちはけいたいでんわにかわることなんてないんだ。それにおせわは、がんばってたんじゃない。すきでつづけてたんだ。どこかムギへのきもちをおかあさんにばかにされたきがしていったんだ。いらないって。」
『ショウマくん、すきなことあるじゃないか。ムギのおせわ。』
「へ?それは学校のべんきょうじゃないじゃないか。・・・それにね、ムギはぼくのせいでしんじゃったんだ。」
ぼくの目にはなみだがたまっていた。
小学二年生の秋だった。ゴールデンレトリバーは十年生きるとずかんにかいてあったけど、ムギは三年で、てんごくへたびだった。せわをしていたのはもっぱらぼく。げんいんがぼくにあるのはかくじつだ。
そんなぼくに、ムギともよくいっしょにあそんでくれたケンジくんとユウタくんはていあんした。『ゴールデンドッグ』という、きいろいイチョウのはっぱをくっつけて、ムギのけなみをひょうげんしたすなのぞうをつくろうと。それはそれはりっぱなぞうができた。そのときはみんな、なみだでぐしゃぐしゃになりながらもたっせいかんがあった。でも、つぎの日のすなばにはもうそのすがたはなかったんだ。ムギがいなくなったきもちとかさなってこころがツキンとした。せめてしゃしんで『ゴールデンドッグ』をのこせていたら。けいたいでんわがあったなら。
「けいたいでんわが、しゃしんがあったなら、それを見ることでムギとつながっていられるとおもったんだ。また『ゴールデンドッグ』をみんなでつくってさ。きっとケンジくんもユウタくんもきょうりょくしてくれる。」
『ショウマくん・・・』
「ぼくじゃない人がムギをかっていたらもっと長(なが)生(い)きしたかもしれない!もっとしあわせだったかもしれない!もうだれかやなにかのためにつくして、うしなうことがこわいんだ。」
ぼくはムギのことをおもい、かんじょうがたかぶってこえがうわずった。
『ムギはしあわせだったさ。』
ポンはかくしんをもったようにいう。
「十年生きられたはずなのに?三年でしんじゃったのに?」
『人げんは、なんでもすうじでものごとをみるよね。でも、年すうじゃないんだよ。ショウマくんは、ムギのことどうおもってた?』
「大すきだよ。ぼくのあいぼうはムギしかいない。」
『人げんはこういうのしんじないかもしれないけど、ムギはショウマくんをあいしてる。ずっとショウマくんのところにいる。そのあかしにこのきいろいポンコツけいたいがあしたのあさも、いやショウマくんがたいせつにしてくれるかぎりずっとあることをやくそくするよ。おはなしはできなくなってしまうけどね。』
ポンはさいごに、とつけくわえると
『うしなうことをこわがらないで。
つぎの日の朝、ぼくはきいろに白いボタンがついたポンコツけいたいをにぎりしめていた。どこかそのいろは、きんいろのけなみと白いくびわをしていたムギをおもいださせた。ぼくはもう一どポンコツけいたいを手のひらのなかでギュッとした。。
「ショウマ、けいたいでんわのはなしなんだけどね。おとうさんとはなしてもたせることにしたわ。」
おかあさんがあさ、いってきた。
「ぼく、もうけいたいでんわをもっているからいらないよ!」
そういうと、はれやかなきぶんでげんかんのとびらをひらいた。いまならにがてなさんすうだってたいいくだってできちゃいそうだ。だってぼくにはムギがついてるんだ。
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