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令和6年度司法試験予備試験再現答案

【憲法】

第1設問⑴
1 祭事挙行費(以下、「本件費」という。)を町内会の予算から支出すること(以下、「本件支出」という。)は、政教分離原則(20条1項後段、3項、89条前段)に反し違憲となる可能性がある。
2 政教分離原則とは公共団体と宗教の癒着を防止し、少数者の信教の自由(20条1項)を制度的に保障するため、公共団体と宗教の相当な限度の関わり合いを超える行為を公共団体に禁止するものである。そこで、相当な限度を超えるかは行為の目的が宗教的意義を持ち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるかで判断し、その判断の際には行為の目的と行為に対する一般人の評価を考慮すべきである。
3⑴たしかに、 A町内会のあるA集落では、何百年という長い期間にわたって、宗教的色彩の強い集落の氏神を祀るC神社を中心に生活が営まれてきた。そして、そのA集落はC神社の祭事挙行への協力などのC神社にとって重要な行事への協力を行っている。また、C神社の祭事では、近隣から派遣された宗教について専門性を有する宮司が祝詞をあげるなど、神道方式により神事が行われ、伝統舞踊も神事の一環として披露され、その祭事は世俗的なものとはいえない。さらに、A町内会は宗教的色彩の強い御神体を集会所に安置している。そして、住民の中にはC神社の氏子としての意識が強い者が存在する。しかし、A集落では地域の共同事業を住民自ら担っているところ、A町内会はC神社の祭事挙行への協力だけでなく、生活道路・下水道 の清掃、ごみ収集所の管理、B市の「市報」等の配布などを行っている団体である。そして、C神社は宗教法人ではなく宗教活動に重要な氏子名簿もなく、A町内会が御神体を安置した集会所を建設したのは、かつて火事で鳥居を除いて神社建物が失われたというやむを得ない経緯によるものであり、宗教的意義は薄いといえる。また、集会所入り口には「C神社」だけでなく「A町内会集会所」 と並列して表示いるほか、集会所は平素から人々の交流や憩いの場となっており、世俗的な場所となっていたといえる。さらに、C神社には宗教的行為に重要な職業である神職が常駐しておらず、日々のお祀りは集会所の管理と併せてA町内会の役員が持ち回りで行っており、宗教的意義の強い職業に就いてる者が単独で行っているのではない上、祭事の準備・執行・後始末などの担当はA町内会の会員である住民であるため、宗教的色彩が弱いといえる。また、C神社の祭事は年2回しか行われず、上記の伝統舞踊は集落に伝えられてきた文化であり伝統的な世俗的なものといえる。そして、住民の中にはC神社の氏子としての意識が強い者もだけでなく少なからず弱い者もいる。また、祭事はA集落の重要な年中行事であり、集落を支えている町内会の会費から支出しなければ、集落に伝えられてきた伝統 舞踊も続けられなくなるといえ、集落の伝統を守る必要性がある。そのため、本件支出はC神社を支援する目的でなく、 A集落の伝統的文化を守るための世俗的な目的によるものであり、目的が宗教的意義を持っているとはいえない。
⑵ 本件費は1世帯当たり年額約1000円と少額であり、 A集落の住民のほとんどはC神社の祭事をA集落の重要な年中行事と認識しており、本件支出が上記の目的であることに照らすと、本件支出は一般人の評価としてもその効果がC神社に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるとはいえない。
4 したがって、本件支出は上記の相当な限度を超えるものでなく、政教分離原則に反さず合憲であるといえる。
第2設問⑵
1 町内会費8000円を一律に徴収すること(以下、「本件徴収」という。)は A町内会の 「目的の範囲内」(地方自治法260条の3第1号)を逸脱するものであり、違憲又は違法となる可能性がある。
2 「目的の範囲内」であるかは憲法の保障する人権価値、団体の性格、行為の目的及び構成員の負担の程度を考慮して判断すべきである。もっとも、「目的の範囲内」であるとしても、構成員に社会通念上過大な負担を課す場合には、協力義務の限界を超えるものとして公序良俗(民法90)に反し違法となると解する。
3⑴たしかに、D教の熱心な信者であるXにとってC神社の祭事挙行のために自己が徴収された町内会費である本件費が使われない自由は、信教の自由(20条1項)として保障される自由であり、Xの人格形成に資する精神的自由の中核をなす重要な権利である。また、 生活道路・下水道の清掃、ごみ収集所の管理、B市の「市報」等の配布は日常生活に不可欠であり、A集落に住む以上はA町内会に加入せざるを得なくなっており、 A町内会は事実上強制加入団体であるといえる。そして、本件徴収は本件費1000円を他の費用とは別々に徴収するものであり、その目的はC神社への支援にあるとも考えられる。さらに、D教を信仰するXにとって本件徴収は、自己の信仰するものでないC神社への利益となるものであるため、上記のXの信教の自由に対する侵害の程度は大きく、Xの負担の程度は大きいとも思える。しかし、A町内会は税理士会とは異なりA集落の住民が自治的に組織した任意団体であり 、Xには住居移転の自由(22条1項)が保障されており A集落以外にも居住する自由があるため、  A町内会は事実上強制加入団体とはいえない。また、その規約は目的に 「地域的な共同生活に資すること」を掲げ、この目的を達成するための事業として清掃・美化等の環境整備に関することなどを挙げているため、本件徴収の目的はC神社への支援でもなく政治的なものでもなく、上記のように A集落の伝統を守るという世俗的なものであったといえる。そして、本件徴収は直接的にXの信教の自由を侵害するものではなく、それは間接的なものにとどまっており、侵害の程度は大きいとはいえず、Xの負担の程度は大きいとはいえない。よって、本件徴収は「目的の範囲内」にあるといえる。
⑵ そして、本件徴収のうち本件費に当たる部分は上記のとおり1世帯当たり年額約1000円と少額であり相当性を有するといえる。また、A町内会はA集落の住民の現在の加入率が100パーセントであり、本件徴収をXのみ本件費を控除して行うなど、特定の住民ごとに徴収額が異なるとなると、 A集落の住民にとって生活に必要不可欠な本件徴収にかかわる費用の徴収手続に支障が生ずるおそれが高いといえ、本件徴収は一律に行う必要性が高いといえる。よって、本件徴収はXに社会通念上過大な負担を課すとはいえず、公序良俗に反しない。
4したがって、本件徴収は合憲であり適法である。
                以上
【行政法】

第1設問1
1 Xが原告適格を有するといえるためには、Xが「法律上の利益を有する者」(行訴法9条1項)にあたる必要がある。
2 「法律上の利益を有する者」とは当該処分により自己の権利もしくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいい、当該処分を定めた行政法規が不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益に吸収解消するにとどめずそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護する趣旨を含むと解される場合にはこのような利益も法律上保護された利益に当たる。そして、ある利益が個々人の個別的利益として保護されるかは同条2項により判断すべきである。
3 Xは、造成工事によって畑の排水に支障を生じさせない利益を主張することが考えられる。そして、本件処分の根拠法規は法5条1項柱書き及び法3条1項本文であるところ、法5条2項4号は農業用用排水施設の有する機能に支障を及ぼすおそれがあると認められる場合その他の周辺の農地に係る営農条件に支障を生ずるおそれがあると認められる場合は、本件処分のような許可処分はできないとしている。また、法51条1項は土地の農業上の利用の確保及び他の公益並びに関係人の利益を衡量して特に必要があると認めるときは、違反を是正するため必要 な措置を講ずべきことを命ずることができるとしており、この農業上の利用の確保には畑の排水に支障を生じさせないことも含まれると考えられる。そのため、法5条1項柱書き及び法3条1項本文の趣旨は、本件造成工事のような工事により本件畑のような土地の排水設備に支障を生じさせるのを防止する点にあると考えられる。よって、上記利益は一般的公益としては保護されているといえる。
4そして、上記利益は、甲土地を有し本件畑で育てた野菜の販売により収入を得ることによって生活を営んできたXにとって、日常生活を送る上で必要不可欠な利益であり、Xの生命身体の保護にかかわる重大な利益といえる。また、本件処分が違法になされた場合、本件処分にかかわる土地の近くに本件畑があるような土地を有する者ほど、その排水設備に支障が生じることになり重大な損害を直接的に受けることになる。そこで、法5条1項柱書き及び法3条1項本文は、本件造成工事のような工事により本件畑のような土地の排水設備に直接的に被害が及ぶ土地の所有者の上記利益を個々人の個別的利益として保護する趣旨を含んでいると解する。
5Xの所有する本件畑のある甲土地は、本件造成工事の対象となっている乙土地の隣りにあり、本件造成工事によって乙土地の地表面は本件畑の地表面より40センチメートルほど高くなっており、本件地域の水の浸透についての性質が活かされなくなり、本件畑の排水設備に直接的に被害がおよぶおそれがあるといえる。そのため、上記利益は個々人の個別的利益としても保護されているといえる。
6したがって、Xは「法律上の利益を有する者」にあたり、原告適格を有する。
第2設問2⑴
1 Xは本件処分には「違法」及び「過失」があると主張することが考えられる(国家賠償法1条1項)。
2 「違法」性の判断は行為に着目すべきであるため、「違法」とは、職務上尽くすべき注意義務を尽くさなかったことをいうと解する。
3 Dは、Xの主張があるにもかかわらずB及びCに対し、本件畑の排水に支障を生じさせないための措置を採ることを指導したにすぎない。そして、その指導によりBは丙土地上に、本件畑の南西角から西に向かう、甲土地の排水に役立つとはいえない水路を設けた上、この水路は、排水に十分な断面が取られておらず、勾配も十分なものではなかった。それにもかかわらず、Y県知事は、Dが目視という簡易な方法による短時間の確認を行っただけで、Bが指導に従って措置を採ったとの著しく妥当性を欠く判断をして、本件処分をしている。そのため、Y県知事及びDは本件処分について職務上尽くすべき注意義務を尽くしたとはいえない。よって本件処分は「違法」であるといえる。
4 そして、「過失」とは客観的注意義務違反をいうところ、「違法」が認められれば「過失」も認められるため、本件処分には「過失」があるといえる。
5よって、Xの上記主張は認められる。
第3設問2⑵
1 原状回復の措置命令は、Y県知事がCに対して、農地法第51条第1項に基づいてするものであり、裁判所の判断が可能な程度に処分が特定されているため、「一定の処分」(行訴法37条の2第1項)にあたる。そして、本件畑は付近の田に入水がされた際に冠水するようになっており、特に本件畑の南側部分の排水障害は著しく、その部分では常に水がたまり、根菜類の栽培ができない状態になっているため、本件畑で根菜類を栽培し、本件畑で育てた野菜の販売により収入を得ることによって生活を営んできたXにとってこの状態は日常生活を困難にするものであり、本件住宅の床下の浸水などのその生命身体に障害が生ずるという金銭賠償では回復が著しく困難な損害が、Xに生じるおそれがあるといえる。また、本件費用は120万円というXに多大な支出を強いる額であるといえる。そのため、上記措置命令「がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあ」るといえる。
そして、法は他に特別の救済ルートを定めていないため、「他に適当な方法がない」といえる。
よって、行訴法37条の2第1項の要件は満たされている。
2 Y県知事は「都道府県知事等」にあたるところ、BとCは乙土地をCの資材置場にするという名目で本件申請をしており、「第5条第1項の規定に違反した者」(法51条1項1号)にあたる。そして、上述したXの利益の重大性から「土地の農業上の利用の確保」の必要性が高く、本件申請は法に違反したBと Cがなしたものであるため「公益並びに関係人の利益」の保護の必要性は低く、「特に必要があると認めるとき」にあたる。よって、法51条1項の処分の要件は満たされている。
                以上

【刑法】

第1甲が本件ケースを自己のズボンのポケットに入れた行為
1 同行為に窃盗罪(235条)が成立しないか。
2本件ケースの所有権は Aにあるので、それが「他人の財物」にあたることは明らかである。
3⑴「窃取」とは相手方の意思に反して相手方の占有する財物を自己に占有移転させることをいうところ、本件ケースの占有は Aに認められるか。
⑵占有とは財物に対する事実上の支配をいうため、占有の有無は占有の事実と意思を総合的に考慮して判断すべきである。
⑶たしかに、本件ケースは縦横の長さがそれぞれ約10センチメートルしかない小さなものであり、それ自体高価なものとはいえない。また、 Aが本件ケースを落とした第1現場は路上であり誰でも立ち入ることができるため場所の解放性がある。そして、同行為の時点でAは第 1現場の先にある交差点を右折し、同交差点付近の建物により Aは本件ケースが見えない位置にいたため、占有の事実は認められないとも思える。また、 Aは本件ケースを落としたことに気付かなかったため、占有の意思も認められないと思える。しかし、甲が本件ケースを拾い上げたのは、Aが本件ケースを落としてからわずか約1分後であり、Aは甲が本件ケースを拾い上げた時点で上記交差点方向に約20メートルという短い距離を戻れば、本件ケースを落とした第1現場を見通すことができた地点にいた。そのため、Aには本件ケースの占有の事実が認められる。また、Aは本件ケースを落としてからわずか10分後の午後6時55分頃、第1現場から道のり約700メートルという短距離にあるX駅に到着したときに本件ケースを落としたことに気付いており、勤務先からX駅までの道中で落としたのではないかと本件ケースを落としたことを意識的に考えているため、 Aに本件ケースの占有の意思が認められる。
⑷よって、 Aには本件ケースの占有が認められ、同行為は Aの意思に反してAの占有する本件ケースを甲に占有移転させる行為であり「窃取」にあたる。
4 甲は本件ケースが自己の好みのものであったため、それを自己のものにしようと考え同行為に及んでおり、甲に故意(38条1項)及び不法領得の意思は認められる。
5したがって、同行為には窃盗罪が成立する。
第2 甲が本件自転車を持ち去った行為
1同行為に窃盗罪が成立しないか。
2本件自転車の所有権はBにあるため、それが「他人の財物」にあたるのは明らかである。
3⑴「窃取」は上記のとおりであるところ、Bに本件自転車の占有が認められるか。
⑵たしかに、本件自転車のあった第2現場は、本件店舗を含む付近店舗利用客の自転車置場として使用されており、本件自転車は新品に近い状態であり高価なものであると考えられ、ある程度大きさのあるものであると考えられるため、Bの占有の事実は認められるとも思える。また、Bは本件自転車を意識的に第2現場駐輪しており、午後8時頃にはそれを取りに戻るつもりであった。そのため、Bに占有の意思は認められるとも思える。しかし、上記の自転車置場は事実上そのように使用されていたにすぎない。また、Bは甲が本件自転車を持ち去った時点では第2現場から道のり約500メートルも離れた書店におり、Bが本件自転車を第2現場に駐輪してから約2時間も経過している。さらに
、Bは本件自転車の施錠を失念しており、本件自転車は無施錠であったのであり、本件自転車はB以外でも容易に持ち去ることが可能であった。そのため、Bに本件自転車の占有の事実は認められない。
⑶よって、Bに本件自転車の占有は認められず、同行為は「窃取」にあたらないため、同行為には占有離脱物横領罪(254条)が成立し得る。
4⑴ 甲は、本件自転車が本件店舗を含む付近店舗の利用客が駐輪したものであると考え同行為に及んでいるため、甲には故意が認められる。
⑵そして、甲は本件自転車を足代わりにして乗り捨てようと考え、同行為に及んでいるが、甲には本件自転車を居酒屋までの足代わりにするという利用処分意思があり、本件自動車の乗り捨てという所有者Bが許容しないBの本件自転車の使用を不可能にする権利者排除意思があるため、甲には不法領得の意思が認められる。
5したがって、同行為には占有離脱物横領罪が成立する。
第3 甲がCの顔面を拳で数回殴ってCに顔面打撲の傷害を負わせた行為及び乙がCの頭部を拳で 数回殴ってCに頭部打撲の傷害を負った行為にはそれぞれ傷害罪(204条)が成立する。
第4甲と乙がCの腹部を足で数回蹴ってCに肋骨骨折の傷害を負わせた行為
1同行為について甲と乙にCに対する傷害罪の共同正犯(60条)が成立しないか。
2 共同正犯の利用補充関係に基づく共同犯行の一体性という性質から、共謀前の他の共犯者の行為を利用することで、結果に因果性を有する場合には共同正犯が成立すると解する。
3 乙は、共謀前の甲がCの腹部を数回蹴った行為によってCが逃げたり抵抗したりする様子がなかったことから、この状況を積極的に利用してCに暴行を加え、自己のストレスを解消したいと考え、甲に対し「分かった。やってやる。」と言ってCの腹部を足で数回蹴る行為に及んでいる。もっとも、Cの肋骨骨折の傷害は、甲がCの腹部を蹴った 暴行から生じたのか、乙がCの腹部を蹴った暴行から生じたのかは不明であり上記の因果性の有無は不明である。
4 しかし、207条は共犯関係が全くない場合でさえ適用されるため、共犯関係がある場合にも適用されるところ、その適用があるのは、後行者の暴行が傷害を生じる危険性を有するときに限定される。
5 甲の上記暴行及び乙の上記暴行はいずれも上記傷害を生じさせ得る危険性があったため、207条の適用が認められ、甲と乙にCに対する傷害罪の共同正犯(60条)が成立する。
第5 罪数
甲の第3及び第4の行為は保護法益と主体の同一性が認められるため、包括一罪となる。これと第1及び第2の行為は別個の行為であるため、併合罪(45条前段)となり甲はその罪責を負う。また、乙の第3及び第4の行為も甲の行為と同じく包括一罪となり、乙はその罪責を負う。
                以上

【刑事訴訟法】

第1設問1
1  甲が事件1の犯人であることを事件2の犯人が甲であることを推認させる間接事実として用いることができるためには、事件1の犯人が甲であるという事実が、事件2の甲の犯人性に関する事実との関係で、自然的関連性及び法律的関連性を有している必要がある。
2 事件1と事件2はともに、自動車を衝突させ被害者を路上に転倒させる強盗事件であり、事件1は事件2との関係では前の同種の事件といえ、前の同種事件は犯罪事実に対して様々な立証価値を有しているため、上記の自然的関連性は認められる。
3 もっとも、前の同種事件は被告人の犯罪性向といった実証的根拠の乏しい人格評価につながりやすく、事実認定を誤らせるおそれがある 。
そこで、 前の同種事件の犯罪事実が顕著な特徴を有し、それが起訴にかかる犯罪事実と相当程度類似しており、両者の犯人が同一であると合理的に推認できる場合には、法律的関連性が認められると解する。
4 事件1の特徴として、背後から黒色の軽自動車に衝突し被害者を路上に転倒させる点と、その後すぐに同車から降り「大丈夫ですか。」などと被害者を心配するような声を掛けながら歩み寄り、被害者に強盗行為を働くという点が挙げられる。前者の点は、黒色の軽自動車が誰にでも購入可能で入手が容易なものであり、背後から自動車が衝突するという行為態様が特異的で無いことに照らすと、顕著な特徴を有するとは言い難い。しかし、後者の点は、被害者を心配するような声を掛けながら歩み寄ることと被害者に強盗を働くことが矛盾行為であり、強盗の犯行態様としては一般的なものとはいえないことに照らすと、顕著な特徴を有するといえる。
そして、甲が起訴された事件2にかかる犯罪事実は、背後から自動車に衝突された被害者がその自動車から降りてきた人にその衝突直後に、「怪我はありませんか。」と被害者を心配することを言われて、バックを強盗されるというものである。そのため、事件1の顕著な特徴は、事件2の犯罪事実と、背後から自動車に衝突された被害者がその自動車から降りてきた人にその衝突直後に、被害者を心配することを言われてバックを強盗されるという点において相当程度類似しているといえる。また、事件1と事件2は、起きたのが夜間であることと、衝突したのが黒色の軽自動車であることについて共通性があり、そのそれぞれの現場は、一戸建ての民家が建ち並ぶ住宅街で夜間は交通量及び人通りが少ない場所であったのだから、犯人が同一である可能性が高いといえる。よって、両者の犯人が同一であると合理的に推認できるといえ、法律的関連性が認められる。
5 したがって、甲が事件1の犯人であることを事件2の犯人が甲であることを推認させる間接事実として用いることができる。
第2設問2
1 事件1で甲が金品奪取の目的を有していたことを、事件2で甲が同目的を有していたことを推認させる間接事実として用いることができるためには、事件1で金品奪取という強盗罪の故意を甲が有していたという事実が、事件2で甲がそれを有していたという事実との関係で、自然的関連性及び法律的関連性を有している必要がある。
2 第1の設問1の2で述べたように、事件1は事件2との関係で前の同種の事件にあたるため、上記の自然的関連性は認められる。
3もっとも、故意は犯人の主観にかかわる犯罪の主観的構成要件であり、犯人性と同じく、被告人の犯罪性向といった実証的根拠の乏しい人格評価につながりやすく、事実認定を誤らせるおそれがある。そこで、前の同種事件と後の起訴に関わる事件の犯人の行為態様が、密接的に共通すると認められる場合のみ、上記の法律的関連性が認められると解する。
4前の同種事件である事件1で甲は、背後から軽自動車で被害者に衝突し、被害者が路上に転倒するとすぐに同車降りて、「大丈夫ですか。」と被害者を心配する声を掛けながら被害者に歩み寄り、立ち上がろうとした被害者の顔面を拳で1 回殴り、その手に持っていたハンドバッグを奪い取り、直ちに同車に乗り込んでその場から 逃走している。たしかに、事件1は強盗既遂で事件2は強盗未遂であるが、強盗罪の重要な構成要件である「暴行又は脅迫」(刑法236条1項)があることには変わらず、事件2も背後から軽自動車で被害者に衝突し、被害者が路上に転倒するとすぐに同車降りて、被害者を心配する声を掛けながら被害者に歩み寄り、被害者が手に持っていたバッグに掛けて奪おうとして、その後自動車で逃走するという点で密接的に共通している。よって、法律的関連性が認められるといえる。
5 したがって、事件1で甲が金品奪取の目的を有していたことを、事件2で甲が同目的を有していたことを推認させる間接事実として用いることができる。
                以上
【労働法】

第1設問2
1 戒告処分は、労契法15条の懲戒権の濫用にあたり、無効とならないか。
2「懲戒することができる場合」にあたるか。
⑴ 使用者と労働者の権利義務は労働契約で決定されるため、就業規則等の契約上の根拠規定において、懲戒の種別と事由の定めが必要である。本件では、Yの就業規則の39条柱書きに懲戒の種別の定めがあり、5号にも懲戒の事由の定めがある。
⑵もっとも、懲戒の企業秩序違反行為に対する制裁罰という刑罰類似の性格から、懲戒事由該当性は、実質的にみて労働者の行為によって企業秩序が乱されたかで判断されるところ、「正当」性(労組法7条)が認められる争議行為には懲戒事由該当性が認められず、そして争議行為の「正当」性は行為の主体.目的.態様から判断されると解する。
⑶ア Zのビラ配布は、X組合に所属していない教職員にも理解と協力を求めていく必要があるとして、部活動の顧問を担当する教諭の待遇改善の必要性を訴えるものであり、 X組合員の経済的地位の向上を目的としているものであるため、目的の「正当」性が認められる。また、ビラ配布は A組合員の1人であるZが行ったにすぎないが、上記の目的から、主体の「正当」性も認められる。
イ ビラ配布に使われたビラは、上記の待遇改善の必要性を訴えることのみが内容としており、片面のみにその内容が印刷されており、そのサイズは A4にとどまり、枚数も1枚のみにとどまっている。また、ビラは配布されたにすぎず、壁などに継続的に掲示されるような形で表示されたのではなく、これを見たに対する影響は比較的小さいといえる。そして、ビラ配布は昼休みの時間帯(教職員の休憩時間)に行われており、職員室内において、職員室を訪れている生徒等がいないことを確認した上で行われており、教職員だけでなく生徒への配慮もなされている。さらに、ビラ配布は、在席している教職員には、「よろしくお願いします。」と丁寧に言いながら、手渡しという穏当な方法で行われている。また、離席している教職員には、机上にビラを裏返して置くという方法により、ビラの配布を行っており、ビラの内容が他者に見られないように配慮している。そして、ビラの配布に要した時間はわずか約10分間であり、職務専念義務が無い昼休みの終了までに、配布が完了している。そのため、ビラ配布行為の態様の「正当」性は認められる。
⑷ビラ配布行為には「正当」性が認められるため、懲戒事由該当性が認められず、「懲戒することができる場合」にあたらない。
3仮に、「懲戒することができる場合」にあたるとしても、ビラ配布行為には「正当」性が認められるため悪質性が低く、本件戒告がもっとも軽い懲戒処分で、Y学園がZからの弁明の聴取等の就業規則所定の手続を経ていたことを考慮しても、本件戒告が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」といえる。
4したがって、戒告処分は、労契法15条の懲戒権の濫用にあたり、無効となる。
第2設問1
1 X組合は労働委員会に対して、Yの会議室の使用拒否の撤回命令、支配介入行為禁止命令、及びポストノーティスの不当労働行為救済の申立て(労組法27条1項)をすることが考えられる。
2まず、上記の申立てが認められるためには、上記使用拒否が「不利益な取扱い」(同法7条1号)に当たり、支配介入(同条3号)に当たる必要がある。
3使用者は企業施設の管理権を有し、その利用の許可は原則として使用者の自由な判断に委ねられている一方、企業施設は組合の組合活動にとって必要不可欠なものである。そこで、使用拒否が組合の組合活動を妨害するなどの不当な目的を有し、使用者の運営に具体的な支障が生じない特段の事情がある場合には、「不利益な取扱い」に当たると解する。
4 Yは、X組合が校舎内にある会議室を使用する場合、その直前に管理職である教頭に口頭でその旨を告知すれば、学校運営上の具体的な支障が生じない限り、その使用を認める取扱いを 事実上行っているが、Aは、X組合についても会議室の使用につき本件規程に従った取扱いをするように指示しており、この取扱いの変更が、組合がYとの間で部活動の顧問を担当する教諭の待遇改善を議題とする団体交渉を行っており、Y学園と主張が激しく対立する状況で行われたことを考慮すると、使用拒否はX組合の組合員の組合活動を妨害する不当な目的で行われたといえる。また、Zの申し出は、1時間程度という短時間会議室を組合活動に使用したいと申し出であり、上記の事実上の取扱いから、Xに会議室の使用をさせたとしてもYの運営には具体的な支障が生じなかったといえる。そのため、上記特段の事情が認められ、使用拒否は「不利益な取り扱い」にあたる。
5そして、その使用拒否は上記の不当な目的を有するため、X組合に対する反組合意思があり、支配介入意思があり、Xの組合活動を萎縮させるものであるため、支配介入にあたる。
6したがって、X組合の上記申立ては認められる。
               以上

【民事実務基礎】
第1設問1
1小問⑴
所有権に基づく返還請求権としての建物収去土地明渡請求権
2小問⑵
被告は、原告に対して、本件建物を収去して本件土地を明渡せ。
3小問⑶
(あ)Xは、本件土地を所有している。
(い)Yは、本件土地上に本件建物を所有して、本件土地を占有している。
4小問⑷
(う)Xは、令和2年7月1日、Aに対して、本件土地を、賃料月額10万円、毎月末日に翌月分払い、期間30年間の約定で賃貸した。
(え)Xは、同日、Aに対して、(う)の契約に基づいて本件土地を引き渡した。
(お) Aは、令和5年3月17日、Yに対して、本件土地を、賃貸期間の定めなく、賃料月額10万円の約定で賃貸した。
(か) Aは、同日、Yに対して、(お)の契約に基づいて本件土地を引き渡した。
(き) Y社は、Aが全額出資によって設立をして、自らが代表取締役に就任している会社である。Y社には、A以外に役員や従業員は存在しない。本件建物は引き続きY社の目的と同じ腕時計販売店として使用され、Aが一人でその営業に当たっていた。(う)と(お)の契約の月額の賃料は同額である。
第2設問2
1小問⑴
ア  (ⅰ)の言い分は再抗弁として主張すべきである。
(く)Xは、 Aに対して、令和6年3月7日、本件延滞賃料の支払を2 週間以内にするように求めた。
(け)令和6年3月21日は、経過した。
(こ) Xは、Aに対して、令和6年3月31日到達の内容証明郵便をもって本件賃貸借契約を解除するとの意思表示をした。
イ (ⅱ)の言い分は再抗弁として主張すべきでない。この言い分は、民法612条2項に基づく解除を根拠としているところ、その解除権が発生するためには、賃貸借契約が当事者の信頼を基礎とする継続的法律関係であることに鑑み、賃借人であるAの本件土地の転貸が、賃貸人Xに対する背信的行為でないと認められる特段の事情が無いことが必要となる。そのため、(き)の事実はAの転貸の非背信性を基礎付ける評価根拠事実であるが、Yはそれを基礎付ける評価障害事実を再抗弁事実として主張立証する必要がある。しかし、Y社はAが全額出資によって設立をして自らが代表取締役に就任している会社であり、また、Y社にはA以外に役員や従業員は存在しないため、Y社とAは実質的に同視できる。そして、この同視できることと、本件建物は引き続きY社の目的と同じ腕時計販売店として使用され、Aが一人でその営業に当たっていたのであるから、本件建物と本件土地の利用形態はAの転貸の前後で変わらなかったといえる。さらに、(う)と(お)の契約の月額の賃料は同額であったのであるから、Aの転貸は自分のみが利益を上げてXの利益を害するなどの不当な目的をゆうするものではないといえる。そのため、Aの転貸はXに対する背信的行為でないと認められる特段の事情があるため、Xは上記評価障害事実を主張立証するのはほぼ不可能であると考えられ、Xに上記の解除権は発生しない。よって、上記を理由に(ⅱ)の言い分は再抗弁として主張すべきでないといえる。
2小問⑵
(イ)には、[Aは、Xに対し、同日、アンティーク腕時計を(ア)の契約に基づいて引き渡した。]という事実が入る。なぜなら、(ア)の事実は相殺の抗弁の要件事実となる自働債権の発生原因事実であるところ、この債権は売買契約に基づく代金支払請求権であるため、同時履行の抗弁権が付着していることが基礎付けられ、同債権による相殺は民法505条1項ただし書により制限され、Aはその同時履行の抗弁権を除去するために(イ)の事実が必要となるからである。
第3 設問3
1小問⑴
(う)には、[本件和解の合意は、本件合意書という書面でなされた]という事実が入る。なぜなら、民法696条は和解契約の法律効果が生じるには、Xが「争いの目的である権利」を「有していた旨の確証」が得られる必要があり、本件和解の合意が本件合意書という書面でなされることにより上記の「確証」が得られることになるからである。
2小問⑵
ア(ⅰ)について
①裁判所は、A作成部分の署名はAの意思に基づくものであることを認めるかをQに確認すべきである。なぜなら、そのことが認められると民事訴訟法228条4項により本件合意書の成立の真成が事実上推定され、また、その推定をQが争うのかがわかり、争点が明確になるからである。
イ(ⅱ)について
Qが上記のことを認めた場合、本件合意書は事実上成立の真成が推定され、これは処分証書でもあるため、特段の事情がない限り本件事実の存在が認定されることとなる。そのため、Pはこのことについて、何ら訴訟活動をすることはないと考えられる。一方、Qが認めなかった場合、上記の推定はなされなくなるので、この推定を働かせるために、Pは裁判所に対してAの筆跡鑑定を求める申立て(民訴法229条3項)をすることが考えられる。
第4設問4
Zへの本件建物の所有権の移転は、本件訴訟の口頭弁論終結前になされており、Zは「口頭弁論終結後の承継人」(民訴法115条1項3号)にはあたらず、本件訴訟の確定判決の既判力(同法114条1項)はZに及ばない。そのため、XはZの訴訟引受け(同法50条1項)の申立てをしない限り、本件訴訟の確定判決の債務名義によって、Zの所有する本件建物に強制執行できないという不都合が生じる。よって、Xはあらかじめ、本件建物収去本件土地明渡請求権を被保全権利として、本件建物の処分をYに禁止する仮処分(民事保全法55条)の申立て(同法2条1項)をすべきであった。
                 以上

【刑事実務基礎】

第1設問1
1小問⑴
Kらの写真撮影は、Aの本件車両に対するプライバシーという重要な権利利益を制約し、Aの黙示の意思にも反するものであると考えられ、「強制の処分」(刑事訴訟法(以下、法令名省略。)197条1項ただし書き)にあたり、令状の発布を受けずに行うことは許されないとも思える。しかし、この写真撮影は、本件車両というAの被疑事実を証明する重要な証拠を保全する目的で行われたのであるから「必要な処分」(222条1項前段、111条1項)として、令状の発布を受けずに行うことができる。そして、各半券は、Aが本件車両を放置してその場から逃げ去ったのであるから、Aは自己の意思により各半券の占有を放棄したといえ、「遺留した物」(221条)にたる。そのため、各半券の押収は領置(同条)として、令状の発布を受けずに行うことができる。
2小問⑵
採血は健康状態に障害を及ぼすおそれがあるため、「強制の処分」にあたり、これを行うには令状が必要になる。そして、血液は医師等が専門的方法を用いて取り出すため、鑑定処分許可状(225条3項)が必要となる。もっとも、捜査機関の鑑定処分では直接強制できない(225条4項.172参照)ため、身体検査令状(218 1項後段)も併用すべきである。よって、KがAの②の採血を行うには、上記2つの令状が必要となる。
第2設問2
1小問⑴
各半券の購入日時・場所が判明すれば、Vからの電話に対して、A が「今、丙島にいる。もう少しで営業所に着く。」などと言っていた発言が虚偽であったことが客観的に判明する。なぜなら、チケットの各半券を購入した者は、その各半券に記載された行き先・日時の便に搭乗するのが通常であり、Aが上記の発言をした時点で、Aは丙島から離れて乙市にいることが認められるからである。そのため、Pは③のような指示をした。
2小問⑵
アAはVにお願いをしてレンタカーの料金を後払いにしてもらっているが、前払いが原則なのにわざわざ後払いを懇願するのは非常に不自然であり、この事実はレンタカーを借りる時点でAに支払意思がなかったことを示す詐欺罪の成立に積極方向に働く事実である。また、Vの電話に対しA は「今、丙島にいる。もう少しで営業所に着く。」などと言って一方的に電話を切り、その後の電話にもAは一切出なかったというレンタカーを借りた者として極めて不誠実な対応を取っており、これはレンタカーを借りた時点から料金を支払う意思が無かったことを示す事実であり、詐欺罪の成立に積極方向に働く事実である。
イしかし、AはXに「丙島のレンタカー屋で借りた。もう期限過ぎてるけどね。」と言っており、この発言は、AがVに対して詐欺行為を働いたことを内容とするものではなく、本件車両を借りる時点では、まだこれをVに返還する意図がAにあったことを推認させる発言といえる。よって、この事実は、Aに詐欺罪の故意がなかったことをうかがわせるものであり、同罪の成立に消極方向に働く。また、レンタカーの料金は3万円であるところ、逮捕時のAの所持金は5万円であり、Aには十分な支払能力があったといえ、レンタカーを借りた後に代金を支払うことが惜しくなってレンタカーを横領したことが推認される。そのため、この事実はAに詐欺罪の故意がなかったことをうかがわせ、同罪の成立に消極方向に働く。
ウよって、Pは単純横領の罪でAを公判請求した。
3小問⑶
ア  単純横領が成立する時点は、Aが本件車両を「横領」(刑法252条1項)した時点である。そして「横領」とは不法領得の意思が発現することをいう。
イ4日午後5時頃の時点は、本件車両の返還時期であり、本件車両はいまだ丙島内にありVの支配領域内にあるといえ、Aの返還が期待できないとはいえない。また、同日午後6時頃の時点は、返還時期を1時間過ぎているが、午後5時頃の時点と同じく、本件車両はいまだ丙島内にありAの返還が期待できないとはいえない。しかし、同日午後6時45分頃の時点では、Aは、本件車両とともに乙市行きの本件フェリーに乗 り込んでおり、本件車両は丙島内にあるとはいえず、Vの支配領域内にはあらず、Aの返還はほぼ期待できなくなる。そのため、Aが本件フェリーに乗り込んだ行為は、本件車両の所有者であるVでしかできないような処分をする意思の発現行為といえ「横領」にあたる。
ウよって、Pは単純横領の成立時期について、4日の午後6時45分頃の時点と結論付けた。
第3設問3
1 ⑴「死亡」(321条1項2号前段)等の列挙事由は例示的なものにすぎないため、これと同程度に供述をXから得ることが困難である場合には、「供述することができないとき」にあたる。
⑵Pは、Xの記憶喚起を試みたがXの証言内容は変わらなかったのであるから、Xが翻意して証言を変える可能性はかなり低く、「死亡」等と同程度にXの供述を得ることが困難といえる。
⑶よって「供述することができないとき」にあたる。
2そして、Xの検察官面前調書は、XがAから遊びに行くという電話があったことやAがX方に来たことを前提とするものである一方、Xは、Aから電話があったかAが私の家に来たかどうか覚えていないと証言しており、「実質的に異なつた供述」(同号後段)をしている。
3⑴また、相対的特信情況(同号ただし書き)の有無は、供述の際の外部的付随的状況を基準に、これを推知する一資料として供述内容を補完的に考慮して判断すべきである。
⑵Xの検察官面前調書は、XとAとの具体的なやりとりを詳細に述べたXの供述を内容としたもので、Xは本件車両の正確なナンバーまで覚えていたのであるから、信用性がかなり高いといえる。一方、Xの証言は、法廷の傍聴席にAと同年代のAの仲間である怖い先輩である可能性が高い男性が約10名もおり、Aと目配せをしたりXの証言中に咳払いをしたりして、XにAの不利にならないように証言するようにアピールしていた状況でなされたものであり、上記の信用性よりも高くないといえる。
⑶よって、相対的特信情況があるといえる。
第4設問4
1小問⑴
Bは真実義務(規定5条)を負っているが、これは裁判所と検察官の真実発見を積極的に妨害しないという消極的真実義務にすぎない。よって、単に無罪主張をすることは同義務に反しないので何ら問題はない。
2小問⑵
Bが、虚偽の証言をするYの証人尋問を請求することは、規定75条に反し許されない。
                以上

【民法】

第1設問1⑴
1 Cの請求が認められるためには、乙土地の所有権(206条)がCにあり、乙土地をDが占有している必要がある。後者については、問題文から認められることが明らかなため以下、Cに乙土地の所有権があるか検討する。
2 ⑴Aが機関長として搭乗する甲は、太平洋上で消息を絶っており、甲の船体の一部が洋上を漂流しているところを発見され、調査の結果、甲は令和3年4月1日未明に発生した船舶火災によって沈没したことが明らかになっているため、Aの失踪宣告は危難失踪(30条2項)にあたり、それによりAは同日の時点でに死亡したとみなされる(31条後段)。そのため、乙土地の所有権はAの死亡(882条)によりBとCが2分の1ずつAから承継し得る(896条本文、898条1項、900条4号)。
⑵もっとも、遺言は遺言者の意思に沿って解釈すべきであり、当該遺産を当該相続人に単独で相続させるのが遺言者の合理的意思解釈である。そのため、「相続させる」旨の遺言は遺産分割方法の指定であり、遺産分割を待たずに被相続人の死亡と同時に当該遺産は当該相続人に帰属すると解する。
⑶本件では本件遺言書に「乙土地をCに相続させる。」との記載があるため、令和3年4月1日時点で乙土地の所有権が、Aに帰属する。
⑷よって、Cの請求は認められ得る。
3  ⑴Dはこれに対して、自己が「第三者」(177)に当たるため、乙土地の登記の有しないCは自己に乙土地の所有権を対抗できないとの反論が考えられる。
⑵「第三者」とは当事者及び包括承継人以外の者で、登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する者をいう。持分を越える譲渡は無権利者による譲渡であり、譲受人はその部分を取得できない。そのため、共同相続人から持分を超える譲渡を受けた譲受人は、その部分について無権利であり登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する「第三者」当たらない。
⑶乙土地の持分は全てCに帰属するため、BからDへの乙土地の譲渡は無権利者による譲渡であり、Dは「第三者」にあたらない。
⑷そのため、CはDに対して、乙土地の所有権を対抗することができるため、Dの反論は認められない。
4したがって、Cの上記請求は認められる。
第2設問1⑵
1  乙土地を占有するFに対するAの請求が認められるには、Aが乙土地の所有権を有している必要がある。
2  上述のとおりAには危難失踪がなされているが、その失踪宣告は取り消された(32条1項前段)ため、Aには乙土地の所有権が認められ、Aの請求は認められ得る。
3⑴これに対してFからは、自己はAの生存について「善意」(同項後段)であるため、Aの請求は認められないとの反論が考えられる。
⑵失踪宣告はそれを受けた者の権利利益を喪失させる制度ではなく、その者の権利利益の保護を図る必要性が高い。そこで、「善意」は厳格に解すべきであり、契約当事者双方がAの生存について善意である必要があると解する。
⑶たしかにEはAの生存について善意であるが、Fは Aから電話でAが生存していることを聞いており、Aの生存について悪意だったといえる。
⑷よって、「善意」の要件は満たされていないため、Fの反論は認められない。
4したがって、Aの上記請求は認められる。
第3設問2⑴
1 GはJに対して、703条及び704条に基づいて500万円の不当利得の返還を求めることが考えられる。
2 本件誤振込みによってJ名義口座には500万円が振り込まれたので、Jには500万円の「利益」があり、H名義口座には振り込まれなかったのであるから、Gには500万円の「損失」がある。そして、上記の「利益」と「損失」の間には因果関係がある。
3⑴そして、「法律上の原因」の有無は、不当利得の趣旨は正義公平であるため、形式的一般的には正当視される財産的価値の移動が実質的相対的に正当視されるかで判断すべきである。
⑵たしかに、JはK銀行に対して本件誤振込みに関わる500万円の債権を民事上有効に取得している。しかし、JはG及びHとは何ら関係のない人物であり、GにはJとの間に振込みの原因となる関係はない。そして、銀行実務では組戻しという手続が執られているため、Jは K銀行との関係でも上記500万円をJ名義口座に保有する理由が無いといえる。そのため、本件誤振込みによるJ名義口座への500万円の振込みは実質的相対的に正当視されない。
⑶よって、Jには上記500万円を口座に保有することについて「法律上の原因」はないといえる。
4したがって、Gの上記請求は認められる。
第4設問2⑵
1 GはLに対して、703条及び704条に基づいて500万円の不当利得の返還を求めることが考えられる。
2 LはJから500万円の弁済を受けており500万円の「利益」がある。また、Jの口座の残高は0円となっており、数年間残高は0円であって本件振込み及びその払戻しを除き、入出金は行われていなかったため、今後も0円である可能性が高く、Gが500万円の返還を受けることはほぼ不可能でありGには500万円の「損失」がある。
3たしかに、Lの利得はJの一般財産からの弁済であるが、令和6年3月8日午後1時にJは、自己の口座から現金500万円の払戻しを受けており、そのわずか7時間後にJは同額の500万円をLに弁済している。そのため、この払戻しと弁済には社会通念上の連結性があるといえ、「利益」と「損失」の間には社会通念上因果関係があるといえる。
4⑴「法律上の原因」の有無は上記の基準で判断すべきところ、弁済を受けた者が悪意・重過失である場合は実質的相対的に正当視されないといえる。
 ⑵ Lが弁済金の出所を尋ねたところ、Jは自分の銀行口座に誤って振り込まれた金銭である旨を説明しており、その上でLは500万円の弁済を受けているため、Lはその500万円がJが誤振込みによって得たものであることについて悪意であったといえる。そのため、Lが弁済を受けたことは実質的相対的に正当視されない。
 ⑶よって、Lの保有する500万円には「法律上の原因」が無いといえる。
5したがって、Gの上記請求は認められる。
                以上

【商法】

第1設問1⑴
1本件株式の買取りは、会社法(以下、法令名省略)461条1項8号及び同条2項に反し、無効とならないか。
2 令和6年3月31日の「分配可能額」は800万円であるところ、本件株式は甲社に1000万円で買い取られているため、本件株式の買取りは同条1項8号及び2項という財源規制に反する自己株式の取得である。
3 財源規制違反の自己株式の取得を決定した株主総会決議は、決議内容の法令違反(830条2項)があり無効であり、それに基づいて行われた自己株式の取得も無効である。そのため、財源規制違反の自己株式の取得は無効であると解する。
4したがって、本件株式の買取りは有効でなく無効である。
第2設問1⑵
1 Aの責任について
⑴Aは462条1項に基づく責任を負わないか。
⑵本件株式の買取りは461条1項8号に反していたのであるから、 「前条第一項の規定に違反して株式会社が同項各号に掲げる行為をした場合」にあたる。そして、Aは、甲社が本件株式を買い取ることとし、同月開催予定の甲社の定時株主総会においてそのことを取り上げるとDに約束し、甲社による本件株式の取得の承認を受けたのであるから、「当該行為に関する職務を行った業務執行者」にあたり、「総会議案提案取締役」(462条1項6号、会社計算規則160条1号)にあたる。そのため、Aは462条1項に基づく責任を負い得る。
⑶もっとも、同条2項によりAは免責されないか。たしかに、会計帳簿の過誤はBが偶然にしか発見できなかった過誤である。しかし、甲社の代表取締役の地位を有するAは、本件株式の買取りや計算書類の作成と分配可能額の計算も自分で行っており、会計帳簿の作成については直属の部下であるGに任せきりにして関与して おらず、Gによる一部の取引についての会計帳簿への記載の失念に気付かなかったのである。そのため、当該過誤が甲社において会計帳簿をほぼ単独で作成していたGが一部の取引について会計帳簿への記載を失念したために発生したものであったとしても、Aの上記の失念は代表取締役の地位に照らして著しく不適当であるといえる。よって、Aは同項の証明をすることは不可能であり、同項による免責は認められない。
⑷したがって、Aは462条1項に基づいて甲社に対して、本件株式の買取り価格である1000万円の限度で責任を負う。
2 Dの責任について
⑴DもAと同じく462条1項に基づく責任を負わないか。
⑵Dは、461条1項に反する本件株式の買取りにより1000万円を甲社から受け取っているため、「当該行為により金銭等の交付を受けた者」
(462条1項)にあたる。
⑶よって、Dは462条1項に基づいて、Aと連帯して上記1000万円の限度で、甲社に対して責任を負う。
3 Fの責任について
⑴Fは423条1項に基づく責任を負わないか。
⑵まず、Fは甲社の監査役であるから「役員等」にあたる。
⑶ 当該過誤はGが一部の取引について会計帳簿への記載を失念したために発生したものであり、 Fの会計監査は例年、会計帳簿が適正に作成されたことを前提として計算書類と会計帳簿の内容の照合を行うのみであり、会計監査では当該過誤が発見されなかったため、Fが当該過誤を発見して定時株主総会において疑義を述べることはほぼ不可能である。そのため、Fに忠実義務(355条)及び善管注意義務(民法644条.330条)違反は認められず、Fは「任務を怠った」とはいえない。
⑷よって、Fは何ら責任を負わない。
第3設問2
1 Eは、Aに対して、179条の7第1項に基づいて本件売渡請求の差止請求をすることが考えられる。
2 本件売渡請求によって、長年にわたり甲社の株主であったEは、何ら理由もなく甲社の株主の地位を失うことになるため、「不利益を受けるおそれがある」(同項本文)といえる。
3 1株当たり6万円から10万円までの範囲が甲社の株式の適正な評価額であったところ、Eを除くB、C及びDは保有する甲社の株式をその範囲の最大の価格である1株当たり10万円で甲社に取得してもらっている一方、Eだけはその範囲の最低価格である6万円で、何ら正当な理由なく保有する甲社株式を、本件売渡請求により甲社に取得されようとしている。そうだとすると、本件売渡請求は、「売渡株主」であるE「に対する」(179条の2第1項3号)「対価として交付する金銭」(同項2号)の「割当てに関する事項」(同項3号)が「著しく不当である」(179条の7第1項3号)といえる。よって、「次に掲げる場合」(同項本文)にあたる。
4したがって、Eの上記請求は認められる。
                  以上

【民事訴訟法】

第1設問1
1 裁判所は、157条1項により相殺の抗弁を却下すべきではないか。
2 相殺の抗弁はこれが認められると、自動債権の不存在の判断に既判力(114条2項)が生じ、被告の実質的敗訴を意味する抗弁であるため、相殺の抗弁の157条1項の適用については慎重に判断すべきである。
3 ⑴ 「故意又は重大な過失」の有無は、抗弁の種類・性質、審理の経過、当事者の法的知識の有無等を考慮して判断される。
⑵たしかに、上述のとおり相殺の抗弁はYの実質的敗訴を意味する性質の抗弁であり、Yの提出は期待できないといえる。しかし、それが提出されたのは弁論準備手続終結後であり、結審が予定されていたその後の口頭弁論期日である。また、Yには174条及び167条により弁論準備手続の終了前に相殺の抗弁を提出できなかった理由をXに説明する義務が課されるが、Xの代理人であるL1がYの代理人であるL2に対して、その理由について説明を求めたが、L2は相殺の抗弁の性質と相殺の抗弁が許されるとする判例を挙げるのみで具体的な説明はしていない。さらに、L1は本件訴訟の開始前から相殺適状になっており、仮定的抗弁として主張することができたにもかかわらず、それをしなかった理由について更に説明を求めたが、L2は前記の説明以上の具体的な説明をしないという不誠実な態度を取っている。そして、Yの代理人であるL2は、法的知識の十分にある弁護士という専門性の高い職業についており、相殺の抗弁のより早い提出が期待できたといえる。
⑶よって、Yには「故意又は重大な過失」があるといえる。
4⑴ 「時機に後れ」たかは、より早期の提出を期待できる客観的事情の有無で判断すべきである。
⑵たしかに、上述した相殺の抗弁の性質から上記事情は無いとも思える。しかし、相殺の抗弁にかかわる債権は、本件訴訟の開始前から相殺適状になっており仮定的抗弁 として主張することができた。また、L2は弁護士という法的知識の十分にある者である。そのため、Yにはより早期に相殺の抗弁の提出を期待できたといえ、上記の客観的事情が認められる。
⑶よって、「時機に後れ」たといえる。
5⑴ 「訴訟の完結を遅延させる」とは時機に後れた提出を許容した場合、それを却下するよりも手続期間が長くなることをいう。
⑵ 本件訴訟では本件契約における代理権の授与の有無及び表見代理の成否が主要な争点となっており、弁論準備手続終結後の人証調べはその争点について行われた。そのため、結審が予定されていたその後の口頭弁論期日において、Yの相殺の抗弁の提出を認めると、必ずしも書面のみによる審理がなされるとは限らない相殺の抗弁の自動債権の存否について、審理に大幅な時間を要することになる可能性が高く、Yの相殺の抗弁の提出を許容した場合、それを却下するよりも手続期間が長くなるといえる。
⑶よって、「訴訟の完結を遅延させる」といえる。
6したがって、157条1項の要件を満たすため、裁判所は相殺の抗弁を却下すべきである。
第2 設問2
1 Aの主張は訴訟告知の効果である前訴判決の参加的効力(53条4項、46条)によって排斥されるべきであるとの主張である。
2 参加人は理由中の判断を争うのが通常であるため、参加的効力は理由中の判断にも及ぶと考える。そして、参加的効力が及ぶ理由中の判断とは、判決主文を導くために必要な主要事実に係る認定及び法律判断をいうと解する。
3前訴判決でのXのYに対する請求は、Yを本人とするAの代理権を理由として工芸品の売買代金の支払いを求めるものであるため、その主要事実はXA間の売買契約締結の事実、Aの顕名及びXがAに上記売買契約締結の代理権をその締結前に授与した事実である。そして、前訴判決はYがAに代理権を授与していないことを理由に請求を棄却しているため、上記の授与した事実が存在しないことに参加的効力が生ずる。また、XのAに対する後訴の請求の主要事実は上記の売買契約締結の事実及び Aの顕名であるところ、Aの主張はAはYから代理権を授与されていたとするものであり、参加的効力が生ずる上記の授与した事実と矛盾するものである。
4したがって、Aの主張は前訴判決の参加的効力によって排斥される。
                 以上

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