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【小説】或る妄想、闇に沈み眠れ(9)

この小説は、フィクションである。

注意喚起

新宿中央公園で、K/W先生 からもらった手紙。

誰もいない場所で一人で読みたい。

そう考えたが、都会には監視されていない場所を探すのが難しい。今となってはあちこちに監視カメラがあって、気軽にこの手紙を読むことができない。

それに自分の部屋ですらも、もしかしたら盗聴器や監視カメラのひとつやふたつすでに仕込まれているかもしれない……そんな異常な思いを巡らすほど、わたしは緊迫した状態だった。

「こういうとき信じられるのはアナログのチカラしかない」

K/W先生の言葉…ゲームや最先端のテクノロジーを題材に作品を書いてきた先生が、アナログな手法に縋るしかないほど追い詰められている。

わたしは住んでいる街に戻り、ひとけの少ない川のほとりで、もらった手紙を開封し、読み始めた。

突然、こんなことを頼んでしまい、本当にごめんなさい。

とある時期から、ぼくの存在を消そうとするもの…あるいはぼくになりかわってぼくになろうとしている存在が現れました。そしてきみもいま気づきはじめているだろうが、その謎めいた存在がぼくの生活を脅かし始めています。

相手には、ネット上に発信する情報、スマートフォンからの通話、すべて筒抜けの様で、SNSの発信やブログの更新自体はできるのだが、内容が書き換えられたり書き加えられたりする被害にあっている。Cafeの予定もぼくでないものが発信しているし、Cafeのカギもとりかえられてしまった。

かつてぼくが書いた作品のような展開に最初は苦笑いしていたが、だんだん怖くなってきた。一番ぼくがおそれていることは、ぼくではないぼくが、ぼくとして本意でない発言をし始めることだ。

それと、ぼくではないぼくが、出版社と話を付けて来年あたりなにか新しい小説を出そうとしている動きがあることを知った。

その小説が出版されると、かなりまずい。社会に影響が出る。それくらいやばい奴がでてしまう。それを食い止めたいと何とか頑張ってきたが、ひとりでたたかうのはもう限界だ。誰が味方で、誰が敵かわからない。もう味方はいないのかもしれない。

でも、ぼくはきみを味方と信じて、恥を忍んで頼んでみることにしたんだ。

もし、もし可能であれば
アシスタントだという嘘をついていいので
XX社の〇〇さんに連絡を取ってみてほしい。
そしてなんとか
「出版されるかもしれないやばい小説」について探ってもらいたい。

ただし、きみに危険が及ぶことは本意ではない。
きみの安全が第一優先だ。
とても矛盾しているが、きみが可能な範囲で探ってほしい。

このあと、ふたたび連絡がとりあえるかどうかはわからない。

また捨てアカウントを作るかもしれないが、それも作った瞬間に監視されているような気がしている。

もしまた、接触が必要な時には何らかの方法で連絡を取ります。

でも、きっときみはぼくだとわかってくれると信じています。

先生の手書きの文字を観たとたん、緊張の糸が切れて、涙がとめどなく零れ落ちた。K/W先生 がいま置かれている状況、想像しただけで辛い。そして自分も、これまで経験したことのない恐ろしい状況に巻き込まれていることを実感し、胸をえぐられるような思いだった。


こわい……本当にこわい!!だけどわたしはチカラになりたい。

ひとしきり自分の感情を吐き出し終えた後、わたしはすうっと深呼吸をして、できることを考えてみた。

まずは、出版社の編集者さん……XX社の〇〇さんに連絡をとってみようか。

そう思ったが、わたしは小心者なので嘘をついてコンタクトをとれるほどの度胸がない。かといって、正面突破できるほどの技量も持ち合わせていない。

しかし、幸いにもXX社には知り合いがいた。Tさんという、昔からのゲーム仲間が、いま派遣の出向でXX社におり、本の情報を管理する部署にいるのだった。

早速コンタクトをとってみよう……ここまでくるともう電話もメールも信用できない。わたしは、Tさんの住所に郵便物を送ることにした。レターパックをつかって、一通の手紙に経緯を書き、そして結果報告を返信してもらうための封筒を同封した。また、このミッションには危険が伴うので、放棄してもいいことも念のため書いた。レターパックは速達扱いなのですぐ相手に届く。だが、返事はすぐ来ないかもしれない。きっとTさんのことだ、ゲーム感覚でこのミッションをこなし、比較的早く返事が来るのではないかと思った。

(つづく)


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駆動トモミ/工藤友美
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