【小説】或る妄想、闇に沈み眠れ(11)
わたしが、いま K/W先生 として存在している誰かを、『偽物』だとファンのみんなに知らしめて追放する方法……わたしは、以前ぼんやりと思いついた、『K/W先生 とわたしだけが知る、ほかの人が知りえないこと』を尋ね、どんな反応を示すか確認する作戦について考えていた。
わたしはインターネットをやり始めの頃、 数回 K/W先生 とチャットを介して話をしたことがある。ファンのあつまるチャットに K/W先生 が時折顔を出してくれて、いろんな話をした。
その時、手違いで、一度だけ、わたしと K/W先生 が二人きりになったことがあった。
わたしは、その時かなり悩んでいた。
ここでは具体的な話は避けるが……自分のなかに蠢く、折り合いのつけられないネガティブな感情との向き合い方についてとても悩んでいた。
その悩みを K/W先生 はじっと聞いてくれて(文字チャットだから”見てくれて”かな)いくつかの解決策を提示してくださった。わたしはその言葉にとても救われた。
その言葉がいまのわたしを生かしているといってもいいかもしれない。
その言葉は、ほかの誰にも教えず、胸にしまって宝物にしている。そしてその言葉は、1993年に未完となった作品の中の言葉だった。
その時に使っていたチャットサービスは、現在存在していない。チャットログも消滅している(魚拓や個人で保管しているログがあれば別だが……)つまり、『答え』はあの時チャットにいた K/W先生 とわたしだけが知っているのである。
得体のしれない存在が何かのツールを使って現在インターネット上にある K/W先生 の情報を手あたり次第吸収し、K/W先生 に成りすましていたとしても、この『答え』だけは『正解』できないと思う。
わたしは、K/W先生 に思い切って「直にリプライ」を飛ばす。
思わせぶりなポストをするのは得意だ。
これで引っかかってほしい。
そう祈っていると、リプライの通知が飛んできた。
すぐさま確認する。
DMします…!!?
普段DMなどでいちファンとやり取りしないはずの K/W先生 が…!?
しかもみんなに見えるじゃん!!このリプライ!!
K/W先生 ファンの女の子たちから叱られる!!
いや、この発言をしているのはK/W先生 のふりをしているひとで……
もしかしてワザと……?
ワザとみんなに見えるようにしているのか?
わたしをみんなの監視下に置くために?
疑心暗鬼。マズイ予感がしてきた。
数分おいて、通知がきた。
わたしのスマートフォンに、 K/W先生 からのDM通知。
こんなに K/W先生 の名前をみてワクワクしないのははじめてだ。
恐る恐る開封してみる。
「Cafe」への呼び出し……!?
やられた。そう来たか。
この K/W先生 のふりをしているモノは、やはり一枚上手だった。そう簡単にはボロをださないようだ。おそらく、完璧に K/W先生 に成り代わるためにインターネット上に存在していない情報には簡単に触れられない。
しかし、それであれば「そんなこともあったかな」くらいの返事で乗り切ってもよさそうなものだが……もしかして、相手はわたしが「古参のファン」ということで警戒している?
どうする…?
K/W先生 のふりをしているモノと、どう戦えばいい?
勝機はあるのか?
こんなとき、 K/W先生 がいてくれたらどんなにいいだろう。
K/W先生 、もう会えないのですか……!?
(つづく)
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