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繰り返されてきた過ちを、新しい名前で呼ばないように。

「また、誰も、新しいぶどう酒を古い革袋に入れたりはしない。そんなことをすれば、ぶどう酒は革袋を破り、ぶどう酒も革袋も駄目になる。新しいぶどう酒は、新しい革袋に入れるものだ。」

新約聖書 マルコによる福音書 2章22節 (新共同訳)

こんにちは、くどちんです。キリスト教学校の聖書科教員をしている、牧師です。

最近「新しい言葉」がいっぱい出て来ています。一番気になっている、引っかかっているのが、「コロナ禍」「ウィズコロナ」辺りです。私は使いたくない言葉だなぁ、と感じています。

「ステイホーム」とか「咳エチケット」なんかもあんまり好きではないのですが、今必要とされる行為を短く表現する上では、まあ分かりやすいんやろうな……と納得できるので、時々使います。一方「コロナ禍」などには、「敢えてこの言葉を使う必要性」を感じません。これは私にとって「災厄」であり、「天災」であり「人災」であって、新しい言葉を当てて新しく居場所を作ってやるべきものではない、というような反骨精神がむくむく湧いてきてしまうからです。我ながら、めんどくさいやっちゃな、とは思うのですが。

「名前がつく」というのは、結構大きなことです。名前がついたところから「それ」は存在を認められ、「すでにそこにある」という認識を共有させられることになります。名前がつくことで、「それ」はこれまでにあった他のもの、他の出来事から区別されて、良くも悪くも固有の価値(と言ったらやや大げさかもしれませんが)を持つものになります。

この度の災厄は、確かに未曽有の出来事で、私たちにとって「新しい経験」と思われる部分がありました。だからこの事象に何かしら名前をつけたくなる思いは十分共感できます。でもそれが「コロナ禍」なんていうちょっとポップな響きを持つ言葉に回収されていくことについては、何だか無性に悔しいような、腹立たしいような思いが否めないのです。「いや、これそんなカジュアルに受け入れられる事態と違うやろ」と思ってしまうのです。

「新型」の名の通り、ウィルス自体は新しいものなのでしょう。また、これほどまでに世界規模で拡散されていったことも、グローバルといわれる新しい世の中のありようゆえだと分かります。ですが、この感染症から「引き起こされていった」混乱の数々——ウィルスに対する「乗数」とでも呼ぶべきものは、今までに何度も見てきたものだったように思います。お金の問題との天秤。他者評価を優先するがゆえの判断の誤り。専門家やデータに対する軽視。弱くされたところへの配慮の無さ。などなど。

別に国家レベルの話というわけではなく、私個人においても、私の属するいくつかの組織でも、このようなことは相似形で何度も見かけてきたような気がします。「付け焼き刃ではなくて、もっと根本的な解決を目指して話し合おうよ」「お金の問題も大事だけど、それなら『どこを削れるか』も合わせて考えようよ」「私たちには見えていない部分が絶対にあるから、さらにいろんな人の話を聞こうよ」。そういうやり取りが蔑ろにされ、「スピード感」や「結果を出す」といった「分かりやすいアピールポイント」の方が重視され、そして一層混乱した状況を招く。そういうことはもう何度も経験してきたと思うのです。

だから、今ある困難を、何か新しい軽やかな響きを持つ言葉で言い換えられたくない。そんなことをしてしまったら、きっとまた私たちは深く反省することなく同じことを繰り返す。そんな気がしています。

簡単に、分かったような顔をして、この事態を受け入れてはならない。「ウィズコロナ」なんて言って、納得させられたくないのです。実際、私自身は「ウィズコロナ」と言いつつ「自粛した、ややおとなしい生活」を送ることができます。できてしまっています。ありがたいことに。でも、「そうでない人」もいっぱいいるという現実から目を背けたくはないのです。「こんなの受け入れられない!」という痛みや歯痒さを、ちゃんと感じ続けていたいのです。

冒頭の聖句は、「新しいぶどう酒は新しい革袋に」という有名な言葉。本当に新しい事態が出来した時には、私たちはそれを受け止めるべき新しい言葉を生み出し、新しい認識を持たなければなりません。でも、「これまでにも何度も経験してきた過ち」にその都度新しい名前をつけて、まるで「これまでには無かったもの」のように目くらまししてしまっては、自らを省みる機会を失ってしまいます。自分の至らなさを見詰めることは痛みを伴うことですが、そのような反省抜きにして誠実な成長は望めません。

○○アラート、○○モデル、ソーシャルディスタンス、「Go To」……。次々に出てくるキャッチ—な言葉に惑わされずに、そこで起こっていること、本当に必要とされていること、それなのにできていないことを真摯に見詰めていきたいと思っています。

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