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最適な働く時間とは?ヘンリー・フォードvsイーロン・マスク

「週40時間労働で世界を変えた人はいない」
と世界一の大富豪イーロン・マスクはツイートしました。

有言実行。昨年Twitter買収で世界をざわつかせた彼は、買収したTwitter社員に「週80時間労働」を求めたといいます。

しかし残念ながら、彼は歴史の勉強は苦手なのかもしれません。

まさに週40時間労働で世界を変えた偉人が
たった100年前にいたのですから。

今日は、「労働と余暇」をテーマに、あれこれ書籍を参考にして考えをまとめていきたいと思います。

<週休5日、週8時間労働を広めた偉人>

1926年、ヘンリー・フォードは、それまで1日10時間、週6日勤務があたり前だった時代に、どこよりも先駆けて1日8時間、週5日間勤務を導入しました。

なんと従来の30%以上もの労働時間削減を行ったのです。

それだけではありません。標準的な1日の労働時間を8時間に短縮しただけではなく、労働者の賃金も2倍にしております。

その決定は全米に衝撃を与えました。今でいう大炎上です。多くの製造業者がフォードの決定を非難しました。

彼は、騒動をしずめるために「余暇が増えれば消費の時間が増え、経済が好循環する」と説明。実際その通りになったことは歴史が証明しています。

のちのち、フォードの判断をクレイジーだと非難した世界中の人々も、じきにフォードの後に続くことになりました。

休息を与えない会社こそ悪者になったのです。

この話の個人的な教訓:
数十年という長期的な視座で考えれば、利益のために行なっている「多少の不正義」は、やがて多くの人に「歴史上の愚かな過ち」と判断される。

<フォードは、倫理的だからそうしたのか?>

先ほどの話ですが、フォードの倫理性はすばらしい、という簡単な話では終わりません。

彼は歴史に名を残す切れ者経営者です。

「余暇が増えれば消費の時間が増え、経済が好循環する」と説明していたとき、本心は別にありました。

彼は12年に及ぶ実験の結果、労働時間を減らす(1日8時間、週40時間とする)ことで生産性が高まり、総生産量が増えることをはっきりと確認していたのです。

のちの様々な研究においても、週の労働時間が40時間を超え、50時間以上になると、生産性の伸びは鈍化し、むしろ下降していくことがわかっています。

おそらくフォードに言わせれば、長時間働くのは単に仕事中毒なだけで、家族や恋人、地域のコミュニティの中で過ごせた時間をドブに捨てているにすぎません。

プロゲーマーがゲーム中毒者ではないように(彼らは十分な休息をもうけ、ゲーム以外の余暇を楽しみ、体を鍛える)、質の高いアウトプットを生み出す者はよく学び、よく遊んで、よく寝ているもの。

一時的に労働時間を増やせば、業務の進捗を早めることはできます。しかしそれが長く続くと、次第に生産性は低下していくのです。

この話の個人的な教訓:
ただ倫理的なだけでは、世の中に変化を起こせない。倫理的なことを、公理主義者にも受け入れられる形を取らなくてはいけない。

<ほろ酔い気味の青い鳥>

医学的な観点からも考えてみましょう。

脳も身体と同じように、長時間使うことで疲労が蓄積されます。

働きすぎて睡眠が削られている人は、蓄積された疲労のために、深刻なダメージを受けているのです。

それがどれほどかというと。

毎日6時間睡眠以下の人は、徹夜明けや日本酒を1~2合飲んだのと同じくらい低いパフォーマンスで日々仕事をしています。

もし社員の睡眠不足を許容している会社があれば、きっと社内で酒を飲むことだってOKしていることでしょう。じゃなきゃ道理が通らない。

社員が、朝からほろ酔い気分で職場に出社すればクビになりそうなものです。ならば、もし会社が長時間労働により社員の睡眠不足を招いているのであれば、罰せられるべきは経営者の方かもしれません。

<高度成長と日本の8時間労働>

昭和の日本のサラリーマン、というと、「24時間戦えますか?」のフレーズが頭に浮かびます。

しかし、日本でも1965年4月17日に松下電器産業(現パナソニック)が週休2日制を導入していました。

フォードから遅れること40年ほど。
日本ではこれが最初の事例なんだそうです。

産経新聞の記事によれば、きっかけは創業者 松下幸之助氏の米国視察だったそうで、週休2日でかつ日本よりも高額の給料を支払いながら収益を上げている米国流のやり方に感心し、

「海外企業との競争に勝つには能率を飛躍的に向上させなくてはいけない。そのためには休日を週2日にし、十分な休養で心身の疲労を回復する一方、文化生活を楽しむことが必要だ」

と、週休2日制の導入を宣言したそうです。

松下電器は労働日を減らしても生産性を上げ、大きな成長を遂げました。しかし、週休2日制が日本全体に広がるのには、さらに30年程度かかっています。毎度のことながら、遅いですね。

結局、運の悪いことに、なのか、あまりに変化が遅かったからなのか、日本で週休2日制が広がったのは、ちょうど平成不況とダブっています。

おまけに、IT革命の初期の波に乗ったベンチャー企業は軒並み「死ぬほど働け!!!」でのし上がってきていると来た。

日本人が「働く時間と成功は比例する」と思っているのは致し方ないのかもしれませんね。

この話の個人的な教訓:
日本は社会全体の変化が遅いので、早めに手をつければ長いこと美味しい思いができる。かもしれない。

<現代において、週休2日、一日8時間は最適か?>

ヘンリー・フォードが自身の工場で週休2日とか、1日8時間労働を導入したのは、もう100年近くも前の話です。

そうなると、100年前の自動車工場での仕事より、ずいぶん創造性の比重が大きくなった現代においても、このやり方が適切と言えるのか?

ということが気になります。

人間の脳を効果的に働かせることを考えると、1日8時間や週休2日はもはや「働きすぎ」に当たるかもしれません。

大分県国東市にあるアキ工作社という会社は、2013年から週休3日制を正式に取り入れています。


その結果はどうだったか。

同地域でマネする企業が続出するほど成果を上げました。

丸1日休める日を増やすことで、社員のモチベーションの向上が生産性の向上へとつながり、残業および総労働時間が減っているとのことです。

とはいえ、残念なことに(?)、1日の労働時間は増えているそうで、それによって週40時間を維持しているようです。

一方の海外では、すでに1日の労働時間を5時間にする実験を試みている企業もごろごろ。導入したことで分かった弊害も踏まえ、非常に柔軟に最適な働き方を模索しています。


詳しくは上の記事を読んでいただきたいのですが、どうやら創造性を必要とする仕事では、「週2日間は1日5時間の時短勤務、3日間は8時間の通常勤務」くらいがちょうどいいのではないかというのが今のところ有力な仮説となっています。

<次回予告>

「労働と余暇」というテーマでもう少し書きたいので、次回はこれの続きの話になります。

「労働と余暇」について100年前の学者はどう考えていたのか。なぜ短時間労働を実現できなかったか、などについて心理学などの面から考えてみようと思います。

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