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第64話 乱入 【自作小説】アオハル・イン・チェインズ 桜の朽木に虫の這うこと(二)
「いったい何を、さらしとんじゃあああああっ――!」
登場した星川皐月。
その顔面が、破裂したマグマのようにゆがんだ。
「このトカゲ野郎があっ! よくもわたしの、わたしのっ、雅ちゃんをおおおおおっ――!」
この世のものとは思えない形相に、ウツロと万城目日和は凍りついた。
ふわっ――
女医の白衣がめくれあがって、光る先端が角のように顔を出す。
それは巨大な対の柳葉刀だった。
大刀は導かれるように、彼女の両手へと収まっていく。
「この両面宿儺で、地獄へ送ってくれるわあっ!」
娘・雅の愛刀・二竪。
それと形状こそ似てはいるが、大きさは比べものにならないほどだった。
「お待ちください、伯母さん!」
ウツロがそう叫んだ瞬間――
「ぐふっ――!?」
隣にいた万城目日和が、うしろのほうへ吹き飛んだ。
その場所には、足を上げた星川皐月が立っている。
蹴りを放ったのだ。
「……」
見えなかった……
この俺が……
いや、近づく気配すら感じなかった。
相当な実力者であると、雅から聞いてはいた。
しかし、しかし……
これほどのものとは……
女医は横目でギロッと彼をにらんだ。
「ウツロお、なれなれしく伯母さんとか言ってんじゃあないわよ? あんたのことはあとでゆっくりと考える。まずはそのトカゲを八つ裂きにしてからだ」
「おっ、おやめください! 万城目日和は、すでに改心して――」
「うるせえなあ、んなこたあ関係ねえんだよっ!」
星川皐月は万城目日和のほうへと突進する。
「秘剣・纏旋風っ!」
「ぐあっ――!」
彼女は回転をしながら、トカゲの体を切り刻んでいく。
この技はかつて、星川雅が使用するところを目撃したことがある。
しかしウツロの目には、それとは比較にならないほど、研ぎ澄まされた絶技に映った。
「ぐっ、ふっ……」
気がつけばトカゲの全身は、ズタズタにされていた。
血がドバドバと流れ、その水たまりは、どんどんと大きくなる。
「ははっ、いいザマだなあ、万城目日和い? その出血量じゃあ、もう助かるのは難しいわなあ?」
万城目日和は地面に手をついて、苦しそうに体を震わせている。
「わたしの雅ちゃんを傷つけた報い、こんなもんで済むと思うなよ? ジワジワとなぶり殺しにして、たっぷりと思い知らせてやるんだから」
女医は両手の刀をひらひらとさせ、ケラケラと笑った。
「ウツロ、いいものを見せてあげる。これからこのトカゲ女をね、生きたまますり鉢にかけてやるのよ」
今度は悪魔じみた笑みを見せた。
「い、いったい、何を……」
ウツロは形容できない恐怖に駆られた。
「わたしの能力で、こいつを人形にしてね、肉も骨も、少しずつ、少しずつ、砕いていってやるのよお?」
「……」
星川皐月の背後から、緑とも紫ともつかない、毒々しい色合いの大きな「手」が出現した。
それは象の皮膚のように力強く、しかし老人のように枯れているようにも見えた。
「アルトラ、ワルプルギス……!」