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東京のつらい場所 Part1 喫茶店にて

もりたが恋愛絡み・男絡みで手痛い思いをした場所を実際に巡りながら、つらい思い出を振り返っていく企画「東京のつらい場所」。まずは最初のつらい街・新宿へ出かける前に、某喫茶店で企画の打ち合わせをしました。
(2017年11月23日収録)

諸悪の根源は飯田橋

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Ryota(以下R):東京につらい場所が多いのは東京出身だからなのかな?

もりた(以下M):東京出身っていっても、八王子だからね。新宿まで出るのに1時間半くらいかかるから、なんだか東京に住んでるけど東京じゃないって感じなんだよ。実家から駅に出るにも自転車で30分、徒歩だと1時間くらいかかるし、周りに何もなくて、サイゼリヤがあるだけで「やべぇ、このへん栄えてる!」っていうノリだったし。だから都心へのコンプレックスは強かったんだろうね。

R:大学の時も実家暮らし?

M:そうそう。実家から出してもらえなくて。大学は2時間かけて通ってた。

R:大学の頃には、つらい場所はまだ無かったの?

M:(食い気味で)いや、あるよ。

R:ははは(笑)。一番最初のつらい場所はどこ? 大学何年?

M:たぶん、飯田橋が一番つらい。大学1年から3年になるぐらいの間の出来事が積み重なってる。

R:じゃあそこに根源があるんだ。

M:そこが全部の根源。今日のもりたを作っている根源でもある。

R:飯田橋、しょっちゅう乗り換えで使うけど、そんなところだと思わなかったなー(笑)。

M:そこが元カレの家の最寄り駅だったんだよ。その頃はまだ実家暮らしで、外泊もあまり許されてなかったけど、たまに元カレの家に泊まったりもした。学祭の委員会をやってたんだけど、学祭期間中って泊まり込みがあるのよ。で、本当は学校に泊まらなきゃいけないんだけど、「私は帰ります」って言って、実家に帰らずに元カレの家に泊まってて。だから毎年、1週間ぐらいは同棲してたかな。

R:飯田橋っていう場所がつらく感じられるっていうのは、当時は楽しかったのに、別れたことによって、つらい思い出に感じられるってことなのかな? 

M:違う違う、当時から普通につらかった(笑)。飯田橋の駅はいい思い出もあるけど、悪い思い出もあって、普通につらい場所。今は、彼は飯田橋に住んでないから会うことはないはずなんだけど。

R:彼に会っちゃう可能性があるから避けているわけではなくて、自分の中で、元カレとのつらい思い出が全て飯田橋に紐づけされちゃってるから、行きたくないんだね。

M:うん。一時期は飯田橋駅で全く降りられないというか、飯田橋を通るたびに吐き気がするっていう症状も出てた。

R:今も?

M:今もちょっと吐き気はする。

R:でも職場と飯田橋、近いでしょ?

M:近い。普段は市ヶ谷を通るから、飯田橋までは行かないけど。でも、たまにJRに乗ると、市ヶ谷くらいから動悸がし始めるんだよ。で、飯田橋に近づく前に、イヤホンをそっと取り出して、普段はそんなに聴かないのに音楽流して、何も見ないように下を見つめて過ごし…。

R:無になろうとしてるんだ。

M:そう。音楽も何でもいいからその場でパッと再生できるもの。他には、Youtubeで流れてくる動画を面白くもないのにとりあえず流して、無になって吊革につかまって、ただただ屍のような顔してる。「飯田橋を通り過ぎた」っていうのもあんまり考えたくないから、目をつぶり、ひたすら耐えしのぐ。「2駅くらい通り過ぎたかな」というところで、パッと目を開けてイヤホンも外して…。

R:それは毎回?

M:誰かと一緒じゃないときはやるかも。

R:今日は平気だなっていうときは無いの?

M:あんまりない。1回やめてみたんだけど、吐き気がすごすぎて「これは死ぬ」って思ったから。

R:飯田橋駅で降りられるようになったのはいつぐらいから?

M:社会人になってからかな。大学生の頃は1回も降りたことはなかった。就活の説明会とか面接が飯田橋であっても行きたくないから、毎回、市ヶ谷駅で降りて行ってた。それでも、極力そういう場所に近づきたくないから、他の会場で説明会があるならちょっと遠くてもそっちに行ってたし。

R:大学4年間は全く行かなかったんだ。

M:社会人1年目でも全然行かなくて。去年、会社の帰りに電車が振り替え輸送になっちゃって、ルートを見たらどうしても飯田橋で乗り換えないと帰れないってなっちゃったから、そのときにマジで吐きそうになりながら降りた。

R:平気になったわけじゃなくて、偶然かぁ。それが無かったら今も降りることはできてないかも。

M:そうだと思う。降りてみて、「吐き気はするけどまだ歩けるな、泣いてないし」と思った。そのあと、大学の先輩たちと、印刷博物館に行くことになったんだけど、それも吐き気をしながら歩き…。印刷博物館もまあまぁ思い出がありすぎてつらい場所だから。

R:そうなんだ(笑)。

M:そのときに強制的に克服させられた。

R:じゃあ、それで大丈夫にはなったんだ。

M:いや、大丈夫にはなってない。行きたくはないね。印刷博物館は展示も面白いから本当は行きたいんだけど、行く勇気がないよね。

R:じゃあ、企画的には後々行かないといけないね。新宿からどんどん、もりたのトラウマレベルの高いところに近づいて行って、最終的に「東京のつらい場所を平気にする」っていうのを目指そう。

M:飯田橋をニコニコしながら歩けるってことでしょ?

R:そうそう。つらい場所を無くそう。

つらい場所をリストアップする

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R:ちょっと今後行きたい場所をリストアップしてみようよ。第1回は新宿でしょ。最終回は飯田橋でしょ。印刷博物館も入るわけでしょ。

M:飯田橋の彼との話でいうと、渋谷の道玄坂の「ポムの樹」でオムライスを食べるっていうのもある。彼に「君とは惰性で付き合ってたんだよね」って言われて振られた「ポムの樹」で食べたオムライス。

R:渋谷の「ポムの樹」は現状行けない?

M:一回も行ってない。「ポムの樹」は4年くらい行ってないね。

R:じゃあオムライス食べないと。

M:あとはどこだろうな…。東京ドームシティはね、トラウマレベルは低いんだけどいい思い出が無い。

R:いい思い出ゼロ(笑)。

M:そうそう。あとは神楽坂も結構つらいよね。

R:神楽坂~飯田橋エリアがヤバいな。

M:あそこは闇スポットだから(笑)。あとは、久々のデートで3時間すっぽかされた東京駅でしょ…。いい別れ方をしなかった彼氏全員と行ってる東京タワーでしょ…。

R:東京タワーに行くとダメになるんだ(笑)。

M:「呪いかな?」って思うよ。

R:じゃあこれは登らなきゃね。

M:あと、元カレと「10年後に登ろうね」って約束して、ずっと登らないままに別れちゃった上に、「じゃあその呪いを解きに行こうよ」って言って一緒に登ってくれたお兄さんとも結局うまくいかなかったスカイツリーでしょ。

R:タワー2つか。俺両方とも登ったことないから楽しみだなー(笑)。

M:ちょっとした東京観光だよね。あとはどこだろう。行けない場所を少しずつ減らそうとはしているんだけど、通りがかったときに思い出して「ヤバイ!」ってなることもあるから…。

R:じゃあ、「ぶらり途中下車の旅」感覚で移動中に思い出すかも。

M:八王子まで戻ってしまえばもっとあると思うよ、遠いけど。

R:俺、八王子まで行くの?

M:元カレに殺されかけた事案の場所があるから。

R:それは行くしかねぇな(笑)。

M:そこはね、相手にトラウマを植え付けて、贖罪を背負ってしまった場所。ガストで別れ話したんだけど、そのとき、相手はインフルエンザにかかってたらしくてさ。鼻水も涙も止まらない状態の相手を振って、おごってもらって帰るっていう。今となっては反省してるよ。でも、最終的に、何年か後に私のことを殺しにかかってきたからお互いの罪はトントンになったかなって……、あ、なってないね、これは。

R:じゃあそのガストも行こう(笑)。

M:あとは上野。飯田橋の元カレとのハイパー・デートスポットだったから。

R:今行くと吐く?

M:思い出したら吐くかも(笑)。あとは、六本木のラフォーレミュージアム。飯田橋の彼に、東京駅で3時間すっぽかされた事件の後に、クリスマスプレゼントでATG(日本アート・シアター・ギルド)の作品集みたいな本をもらって。うれしくてパラパラめくってたら、間に汚い字のメッセージカードが挟まってて、「これからもずっと一緒にいようね」って書いてあった。その3ヵ月後に振られるっていう、いわくつきの本をもらった場所だね。

R:いいプレゼントをもらっても、結果的に別れちゃったら台無しだもんね。

M:本だけだったらよかったと思うんだよ。いまだに実家から持ってきてるし。ただあのメッセージカードがね…。あと、渋谷のロフトと、東急ハンズ。そこでデートするのが2人とも好きで、用もないのに最上階まで行って、木材コーナーとかで何に使うでもない木材をしげしげと眺めて、4時間ぐらいかけて1階まで降りてくるんだよ。全部のフロアを見て。それで最後におそろいのグラタン皿とか買って、彼氏の家に置いてたとか、何ともいえない思い出がある。

R:いやー、いい思い出にならなかったね。

M:ならなかった(笑)。

R:その時は楽しかったのに、いい思い出にならなかったものたちがいっぱいいるんだなぁ、東京には。

自分で選んだものへの執着と後悔

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R:つらい場所と言っても、全部つらかったわけじゃないんだね。そのときは良かったことが、後々つらくなってしまう。別れがあるっていう時点で、世の中の出来事は最終的につらくなるってことだと考えると、しんどいなぁ。

M:そうそう。大人になって、なんでこんなにつらくなるんだろうって考えたら、昔より物に執着するようになったからだと思うんだよね。昔は割と、何か手放しても「別の物があるからいいや」って思ってた。友達と喧嘩別れしてそのまま会わなくなっても、「まぁいいや」みたいな。何かあれば縁があるだろうし、また別の人とも仲良くなるからと思ってたけど、この年齢になると、友達とか、仲良くなるような関係ってめったに増えないじゃん。どっちかっていうと減っていく一方なわけで。でも、自分の自由にできる範疇は広くて、いろんなことに対して選択肢が増えてはいる。その中から自分が選んだものには、それなりに選んだ理由っていうのがあるじゃん。そうすると、それに対して執着心が出てくるわけだよね。これからどんどん失っていくだけの人生の中、そうやって選んだものが自分の意図しないところで壊れちゃったり無くなっちゃったりすると「あ、ここで無くなっちゃうんだ。本当はこんな風にしたかったわけじゃないのに」って悲しくなる。そういう悲しみが増えて、つらくなるんじゃないかな。

R:選んだなりの執着かぁ、なるほどな。

M:選べるからこそ、惜しくなるよね。昔は選べないからAっていうものしか知らなくて、「まぁAが無くても世の中にはBっていうものもあるらしいからそっちの方がいいかも」って思ったりしてた。だけど、BもCも知ってるうえでAを選んでるからね。それがダメになっちゃったら、多少「やっぱりBのほうがよかったね」って言いつつも、「Aの良さってここだったじゃん」って、無くなってからその良さに気付くこともあるし。

R:「あっちを選べばよかった」っていう後悔より「こっちが無くなっちゃった」という悲しい気持ちの方が強い?

M:強い気がする。元々が割と人に合わせちゃう性格で、こっちが折れたほうが楽かなって思うことも多かったんだよね。でもそれだと、不満が溜まるわけですよ。「自分はこうじゃないって思ってたのに」って後々考えちゃうのがすごく嫌で、社会人になってからは「選ばないで後悔するよりは選んで後悔しましょう」っていう気持ちになったの。やらなくて後悔したら「あの時ああしておけばよかった」って言えるけど、結局は選ばなかった自分の責任じゃん。選んだら、「それによってこういうことは得られたよね」みたいに自分が納得できる理由は増える。

R:そうやって自分の全責任として選び、それが全責任として潰えた結果、全責任としてつらさを負っているわけね。

M:うん。つらさも、自分の責任として負ってるところがある。「ここは譲りたくないからもう無理、会わない」とか言いつつ、「でもやっぱり会いたかったな」って思うのは自分の責任によるつらさだから。でも最近は貰い事故みたいな、自分の責任外のつらいことも増えてきたんだよね。自分の予期せぬ起因で起きることは、自分の範疇ではコントロールできないじゃん。そのときの痛みがびっくりするくらい痛い(笑)。

R:自分が選んだものの後悔もあるし、自分起因じゃないことも増えてるのか。

M:だから、この世はつらさしかない!

R:(笑)。俺、そんなにつらかったことないなー。みんな、そんなにつらいのかな。

M:いやー、私が考えすぎなんだろうなぁ。

R:もりたの周りに同じようにつらそうな人っている?

M:いないんじゃないかなぁ。みんな、「そこまで考えてない」って言うよね。

R:結構みんな、なんとなくで生きてる?

M:うーん、「つらいなって思うことはあるけど、お前ほど難しく考えて生きてないよ」って言われる。「自分で自分を苦しめてるね」って。まぁ、その通りだと思うし(笑)。

R:でも、もりたとしては納得できないと嫌なんだよね。自分で選んだなりの理由や直感があって納得したいんだけど、それがなくなったらちゃんと選んだ分だけ傷ついちゃう。

M:例えば、書ければ何でもいいって買ったボールペンと、書きやすさを考えて選んだボールペンがあったときに、どっちが壊れた時のほうがショックですかっていったら後者だよね。全部に対してそういう生き方をし過ぎなんだと思う。

R:そうやって選んだ分、うまくいかなかった後悔が重くなってくるんだ。

M:そうだね。せっかく自分で選んだんだからうまくいくように、その時点ではベストを尽くしているつもりなんだけど、そうならなかったことの方が多いよ。自分のできない範疇のことはあるにせよ、もっとうまくいくように精度を高めるためにできたことはあったんじゃないかって、考えればいろいろ出てくるよね。あの時、ああしておけばよかったっていう後悔はあるかもしれない。考えすぎなんだろうね…。

付き合う=終わりの始まり

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M:あとさ、つらくなると詩が書けるじゃんって思っちゃうんだよね。詩を書きたいから傷つきに行くこともあるし。

R:ネタになるからって、自らつらくなりにいくってしんどくない?

M:しんどいよ。こういう生き方してたらさ、そろそろ女に刺されて死にそうな気がするから、ちょっと危ないよね。男に刺されて死ぬ分には自分の責任だからいいけどさ。

R:そこは責任として腹くくってるのがスゴい(笑)。

M:一回殺されかけた時に思ったもん。殺されることもあるんだって。ニュースとかでたまに痴情のもつれとかってあるじゃん。ストーカーが一方的にっていうパターンもあるけど、そうじゃなかったら、もしかしたら本人が意識していないどこかで何かしらあったのかもしれないなって思うよ。もちろん、そういうことをする相手が一番悪いけど。私は少なくとも何か起きてもおかしくないことをしてるから、「責任は負わなきゃいけないな!」と思って。 

R:そういう時にさ、相手の責任のことは考えないの? 相手も悪いとは思わない?

M:思うよ、思うけどそれを防ぐための術もあったはずだから…。

R:そこは、自分にも責任があると。

M:痴漢とか、明らかに一方的なやつは向こうの責任だけど、そうじゃなければ、気を持たせるようなことを自分がなんかしてたんだろうなとか、考えるよね。

R:しんどいなぁ。

M:なんで自分でもこんなしんどい生き方をしてるんだろうって思うけど、もうそれで25年間生きてきちゃったからさ。なんでそんなに、つらい生き方しかできないんだろうね。

R:つらい生き方っていうか、考え方? 多分同じような経験をしていてもつらくない人もいると思う。

M:全然いるでしょ。そっちの方が圧倒的多数でしょ。

R:きっと思考回路がそうなってるんだろうから、結構大変だよね。考えてない人が考えるようになるというのは起こりえるけど、考えている人が考えないようになるのは、基本的にないじゃないですか。でも、もりたは考えちゃう人だから、ここから考え方を変えるのは無理だよね。

M:無理(笑)!

R:たぶんすごく幸せな時期でも、気分が落ち込むとき、あるでしょ?

M:うん、だってさ、「恋愛なんて付き合った瞬間が終わりでしょ」って思っちゃうんだよね。その瞬間がすごくハッピーでも、あとは別れるだけだろうなって。もちろんそうじゃないこともあるかもだけど。

R:付き合った時点で、終わりの始まりなんだ。

M:そうそう、「結婚がゴールじゃない」ってよく言うじゃん。「そこからの人生も続いていくわけで」って。そういうのと一緒だよね。付き合うのが終わりでしょ。あとは時が流れていって、いつか別れて終わりだよって。

R:でも長く続く努力はするわけでしょ?

M:もちろん。

R:でも、「この人とは別れるだろうなぁ」と思ってるの?

M:大体思わない? 割とすぐ思っちゃうんだけど。

R:今25歳で、周りに結婚してる人もいるかもしれないけど、結婚するかもっていう想定は無いの?

M:今まで付き合った人では無かったなー。ひとりだけいたけど。それは飯田橋の彼なんだけど。

R:あー、そこがピークで一番よかったんだ。

M:あいつでこじれた可能性は高い。

R:そこが元凶なんだ。やっぱり飯田橋行かないとダメだな。飯田橋を平気にする。

M:飯田橋は絶対行きますよ。飯田橋のサーティーワンでアイス食べよう。


インタビュイー
もりた(Twitter:@minic410)
逆流性胃腸炎気味なのにビールと煙草中毒なOL。
クーチェキでは「情事の後は、必ず金マル。」を連載中。
インディーズ小説「あなたは砂場でマルボロを」「許してよ、ダーリン」がKindleをはじめ各種電子書店にて発売中です。

インタビュアー・記事構成
Ryota(Twitter:@Funatoku_ryota)
クーチェキの企画・運営・編集をやっています。

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