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東京のつらい場所 Part8 渋谷

もりたが恋愛絡み・男絡みで手痛い思いをした場所を実際に巡りながら、つらい思い出を振り返っていく企画「東京のつらい場所」。今回の渋谷編では、飯田橋の彼とのデートでよく来ていたという東急ハンズを巡った後、彼から別れを告げられた場所へと向かいます。
(2018年9月15日収録)

東急ハンズは激アツデートスポット

もりた(以下M):さぁ、今回は渋谷です。渋谷は会社のセミナーとかで今でもたまに来る場所なんですが、そういうときはヒカリエ側にしか用事がなくて。

Ryota(以下R):トラウマチックな場所はセンター街方面にあるわけだ。

M:そうそう、当時はまだまだ若かったんで、センター街とか行っちゃうわけですよ。さぁ、えっさほっさとトラウマに向かっていきましょう。

R:ははは(笑)。まずは東急ハンズに行くんだっけ。

M:そうそう、激アツのデートスポットだったからね。無印良品もそうだけど、東急ハンズって「とりあえず行こう」って言って、まんべんなく回っていくのが楽しいスポットなんだよ。ほら、2人のうち片方だけが詳しいジャンルの場所だと、知識をひけらかしちゃって相手をイラっとさせてしまう、みたいな事態が起こり得るじゃないですか。東急ハンズは2人とも詳しくないものがたくさんあるから、お互い同じテンションで「これ何!?」って盛り上がれるんだよね。

R:なるほど、あえて知らないものを見にいくわけだ。2人で木材売り場によく行ってたんでしょ?

M:上の階から順番に回っていくんだけど、その中でも滞在時間が一番長いのが木材売り場。使い道がわからない木材を見ながら「こういう風に使うんじゃない?」って盛り上がるのが楽しいわけです。

ハンズに突入!

R:東急ハンズに到着しましたよ。とりあえず上の階から見ていこうか。

M:ううっ、ちょっと動悸がしてきた…。

R:大丈夫か(笑)。ここのハンズ、ほとんど来たことないからもりたに着いていくよ。

M:マジで渋谷のハンズは迷路なんだよ。もうね、ここに関しては落ち着いてほしい。

R:落ち着いてほしいって何?

M:まずフロアの案内板を見てほしいんですけど。

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R:あー、めちゃくちゃ複雑だ。

M:行きたい場所があったとしても、たどり着くまでにものすごい時間がかかるわけですよ。

R:果たして普通に木材コーナーにたどり着けるのか…。さて、一番上のフロアに着いたよ。

M:ここ、どこだ…?

R:もうすでに迷子フラグが(笑)。

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M:最近は渋谷より池袋のハンズに行くことが多かったから…。あーっ、「人体模型、家に欲しいよね」って2人で話した! 「コートかけたいよね」って。

R:人体模型の肩に羽織らせる感じね。

M:そう、あと透明の人体模型とか飾りたいとか、フラスコ欲しいとか。

R:なんでそんなのが欲しいの(笑)?

M:2人とも中二病を患ってたから(笑)、こういうのいいよねって話してたんだ~。

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R:こっちはクラフトのコーナーだって。

M:あー、裁ちバサミ、欲しいよね。

R:え、なんで?

M:未練を裁ってくれるハサミが欲しい…。

R:(笑)。

M:クラフトコーナーはそんなに盛り上がらないんですよねー、私が手芸できちゃうタイプの人だから。

R:もりた、手芸が得意なの?

M:できるよ! なにしろ、もりた家の家訓は「自分で作れるものはなんでも作ろう」だから。ほら、もりた、消しゴムはんこが特技じゃん?

R:初耳だよ! そんなナンシー関的な趣味があるの(笑)?

M:嘘でしょ、知らないのー? もりたの消しゴムは有名ですよ。

R:どこで有名なんだよ(笑)。

M:大学の友達はみんな知ってるよー?

R:じゃあ俺が知ってるはずないじゃん(笑)。

M:だって私、大学の学祭、消しゴムはんこで10万円を売り上げた女やで。

R:すげぇ!

M:要らないもりたの知識がまた一つ増えたね。

R:今回、全然つらい場所感がないけど大丈夫かな(笑)?

M:まだまだ序の口だからね。あ、こういうミニチュアとか好きなの。小学生の自由工作でミニチュアハウスを作ってたくらいだからね。うわー、あのタバコ屋ほしい!

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R:確かにめっちゃよくできてるな!

M:タバコのパッケージ、「HOPE」じゃなくて「HOLE」になってる! 「わかば」じゃなくて「わかさ」になってたりとか、うまく作ってるなぁ! ほしい!

R:目的が変わってきたな(笑)。

M:まぁ、普通に今でも好きな場所だからね、「いいな!」って思うものはたくさんあるんですよねー。

お互いの価値観を確かめる場所

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R:ステーショナリーコーナーにも行く?

M:ステーショナリーも、これまた盛り上がるんですよ。あっ、ちょうど手帳シーズンだ。手帳は何がいいかで一回彼と揉めたなぁ。

R:なんで揉めるの?

M:お互いに推しの手帳があるから。その当時、私は割とコンパクト派だったんですよ。鞄にスッと入れられるような手帳が好きだったの。なんなら自分で足せるから、リフィルでもいいやって感じ。やつは字が汚いから大きめの手帳が推しで、A5サイズくらいのものを使ってた。だからお互いに「リフィルはよくない! 真ん中にリングが来るから使いづらいでしょ」「リフィルを一旦外して、書いてからまたつければいいだけやん! それを言うならA5サイズの手帳なんて、持ち運びにくいだろ!」とか、そういう話をひたすらしてた。

R:ある意味、お互いの価値観を確かめる場にもなっていたわけだ。

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M:あとは、こういう絵の具を見て「どの色が好きかなぁ」とか話したね。やつはブリリアントとかセルリアンとか、ブルー系が好きだった。紙もね、カードサイズの商品を見ながら、自分の名刺を作るならどの紙がいいかなとか、そういう話をして…、楽しかったなぁ、あの頃。なんか心にじわっとダメージ負った(笑)。

R:ははは(笑)、めちゃくちゃ楽しかったのは伝わってきたよ。

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M:お次はボールペンコーナー! ボールペンも、どれがいいか論争が勃発しますよね。

R:もりたは何派?

M:私はサラサ。インクがドバドバ出るのが好きだから。

R:わかる! ゲルインク系は俺も好き。

M:でもやつはジェットストリーム派なの。「サラサがいいのもわかるけど、これだけは譲れねぇ」って言ってた。こうやって色々話せるんだから、いいデートスポットだと思わない?

R:思うよ。あと、無印良品の時より、もりたがワナワナしてない。

M:無印良品はあいつの生活の中心にあるブランドだったから記憶に強く紐付いてるけど、ハンズはそうじゃないからそんなにワナワナしない。と言いつつも、やっぱり心はジクジクと痛むねぇ。

R:次はどっちに行く?

M:インテリアコーナーだな。時計のところだけで無限に居られる。「どの時計が欲しい?」って話したなぁ。

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R:もりた的にはどの時計がいいの。

M:うーん、悩ましいところだな。ぱっと見はこのセイコーのやつがいいなと思ったんだけど…。ガラスがある時計は反射で映りこむのが嫌なんだよね。

R:俺はね、秒針がスムーズに回るやつが好きじゃないんですよ。

M:えー、スムーズに回る方がいいじゃん!

R:俺はカチカチ動くタイプの方が好き。スムーズに秒針が回るタイプは拒まれてる感じがするというか(笑)、可愛げがないと思っちゃう。

M:時計だとデジタルかアナログかも迷うよね。「目覚ましにするなら見やすいからデジタルがいいよね」とか。あっ、砂時計も好きだったな。あいつの家にも3分計と5分計があったわ…。次はアニバーサリーコーナー。バースデーカードとか見ながら、「どういうのなら喜ぶかなー」って考えちゃうんだよなー。…あれ、今日って何日?

R:9月15日。

M:ここで重要なお知らせ。明日、彼の誕生日です。

R:おぉ! なんか買ってく(笑)?

M:いや、送れないから! …あーあ、彼は何してるんだろうなぁ。

R:ははは、切なさがぶり返している(笑)。

M:だって明日誕生日だよ? 誕生日に指輪買ったんだけどさ、違う、誕生日に付き合ったのか? 違う、その一週間前だよな、うん?

R:混乱するなよ(笑)。彼は明日で何歳になるんですか。

M:えーっと、32歳です。ねぇ、26歳と32歳ならやり直せるんじゃね? ねぇねぇ、ダメかな!? もりたも大人になったよ? ねぇねぇ!

R:まぁ…、もしかしたら可能性はあるかもしれない。

M:いや、無いけどな。分かってるって、そんなことは。

R:可能性はあるかもしれない。

M:…うん、調子乗ってごめん。

R:可能性はあるかもしれない。

M:あの…、真顔やめて…。

R:可能性は、あるかもしれない。

M:ごめんって! もう謝ってるじゃん! 許してよ(笑)!

R:ははは(笑)、ごめんごめん、なんか急に調子乗り出したから面白くなっちゃって。でも、人生何があるかわからないから、もしかしたらそういうこともあり得るかもとは本当に思うよ。

M:あったら良いけどねぇ。

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木材コーナーに到着

R:おっ、いよいよ木材売り場ですよ。

M:何に使うかよくわかんないこの感じがいいんだよ、木の匂いもいいよね。

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R:確かにいい匂い! そして「お買い得です」って書いてあっても全然ピンとこないのがいいわけでしょ?

M:そうそう。木材コーナーって、他のお客さんは明確な目的を持ってここへ来てるわけですよ。そんな中で、「何これ!?」とか「何に使うのが一番賢いかな」とか話すのが楽しいの。

R:なるほどね。…これは何に使うんだろう?

M:ほら、わかんないじゃん。「これとあれの差は何なんだろう」とか、そんな話で盛り上がる。

R:こういうのを見ながらワーキャーしてたんだ。

M:そうそう…。

R:なんか露骨にテンション落ちてきてない(笑)?

M:やっぱりだんだんつらい場所っぽくなって来たから。

R:あんなにはしゃいでたのに。

M:前半のはしゃぎはフリだったわけですよ…。

R:しみじみしてるなぁ(笑)。

M:とりあえずこんなに楽しいデートをしてたというのは伝わった?

R:確かに、色々と見るものがあって楽しかった!

M:ただこのデートプランには欠点があって、こういうものを「よくわからないけど楽しい!」って言ってくれる人とじゃないとつらいんだけどね。

R:彼は「楽しい!」って言ってくれる人だったんだね。そして、2人で会える機会が少なかったからこそ、些細なことでもとても楽しかった。

M:そういうこと! よし、東急ハンズはここまでにして次に行こう。

R:次はパルコ?

M:パルコの跡地に立ち寄って、ポムの樹かな。

R:じゃあ、ここから2人が破局した日のデートコースをたどるわけだな。

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観たかった舞台のはずなのに

M:最後の日の話はどこまでしたんだっけ。

R:ポムの樹で「君とは惰性で付き合ってたんだよ」って言われた話しかしてないと思う。その日にどういうルートでどういうデートをして、どんなやり取りがあったのかは聞いてない。

M:なるほどね。えーっと、あの頃はもう終末感が漂っていてですね…。

R:出だしからしんどい(笑)。会う頻度がひと月に1回からふた月に1回とかになってた頃でしょ? もりた的にはもう終わりだなって思ってたの?

M:別れたくはなかったけど、2人の間に「終わりかな…」っていうムードは漂ってた。渋谷のパルコに行ったのは演劇を観に行くためだったの。その半年ぐらい前にチケットを取ってて。

R:そうか、チケットを取った頃はまだ仲が良かったんだな。お互い忙しい中、前もって予定を決めておかないと会えない状況だったから、チケットを取って「この日は絶対に会う日だよね」って決めて、当日までの数ヶ月間でどんどん関係が冷めてしまったわけだ。

M:そうそう。維新派の「レミング」っていう作品で、2人ともとっても観たかったはずなのに、まぁ最初からお通夜ムードですよ。

R:全く盛り上がらず(笑)。

M:開場とともに劇場に入って、開演まで30分くらいあるわけじゃないですか。普通ならさ、2人で並んで座ってたら、「楽しみだね」とか喋るでしょ? そんなこともなく、2人ともひたすらフライヤーを読み続けるだけ。

R:えー、マジで!? 楽しみにしてた舞台なんでしょ?

M:ちょっとは話してみるんだけど、気まずくて…。

R:東急ハンズで楽しいデートをしていた頃もあったのに。

M:それが終末期の我々ですよ。

R:舞台はどうだったの?

M:超面白かった。

R:舞台が始まれば、彼氏のことは一旦置いといて、観賞に集中するわけでしょ?

M:そりゃそうよ。

R:で、舞台が終わるじゃん。会場が明るくなって、隣に彼がいるわけだ。その後はどんな感じになるの?

M:舞台がとても良かったからちょっとテンションが上がって、パッと隣見て、彼の顔を見てサッと冷める感じ。

R:あー、現実に戻った。

M:仲睦まじい頃だったら、「すごい! めっちゃよかったね!」ってワーワー言ってたと思うの。一応、「面白かったね」「よかったね」とは話すんだけど、その前のお通夜ムードを引きずってる感じ。「チケット取っといてよかった」とか言われたんだけどね。昔だったら「君と観られてよかった」って言ってくれたのになぁ…って思ったりして。

R:そういうところが心に引っかかるのか。

M:だって、観るだけだったらさ、一人でもいいし、別に誰と来てもいいわけじゃん。「あそこのシーンが良くてさー」みたいな話もしてみるけど、そんなに広がるわけでもなし、しぼむわけでもなし。

R:観終わった直後だから、ある程度の感動や高揚感はあるんだけど、そこまで深い話をする気にならない?

M:うーん、深い話をする空気じゃないって感じ。気に障るようなことは言いたくないしね。

R:あんまり踏み込んだことは言えないよな。

M:当たり障りのない会話という言葉がとてもよく似合う感じの状態だったな…。あー、もうパルコがない。

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R:建て替え工事の真っ最中だ。

M:パルコは展示もよく観に来たんだけどなぁ。こうやって私の思い出の地はひとつずつ無くなっていくんですね…。

最後のプレゼント

R:ここのパルコで舞台を見て、会話も弾まず、とぼとぼ立ち去って。

M:その後の予定も元々なかったので、「このまま駅に行って、解散でいいよね」って聞いたら、彼が「いや、ご飯食べてこうよ」。

R: 気まずいからこのまま解散かと思いきや…。

M:「終末感あったのに、ご飯に誘われたということは…これは盛り返したのでは?」と思った。「もしかしたら私たち、まだ大丈夫なのでは? 一時的だったとしても、別れる展開は回避できたのでは?」って。

R:彼の中で「もうちょっと付き合っていいかも」という気持ちになったんじゃないかと、希望が見えたんだ。

M:「じゃあご飯食べよっか、まだ時間大丈夫だし。何食べる?」「どうしようか、とりあえず歩きながら考えよっか」「そうだね」って言いながら歩いて…ヤバい吐き気してきた(笑)。

R:大丈夫かよ(笑)。

M:悪しき記憶だからね、あんまり強く思いだすと「うわー頭が!」って発狂して、そのままダッシュで逃げ去ってしまうかも。

R:それだけはやめてくれ(笑)。あ、ポムの樹ってあそこ?

M:うわー! ヤバい、来ちゃった!

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R:もりたの好きな食品サンプルがあるよ!

M:食品サンプルは好きだけどさ、それとこれとは話が別じゃん! うわー、来ちゃった…!

R:取り乱してる(笑)。

M:ぶらぶら歩いているうちに通りがかって、「オムライスにしよっか」って来たのがここです。

R:よし、メニュー見よう。はい、思い出して。もりたが食べてたやつと、彼氏が食べてたやつ思い出して。

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M:あいつはダブルソースだった気がするんだよな。

R:じゃあ俺はそれを注文する。

M:私、何食べたんだっけなー。あー、普通にフライドポテト食べたいなっていう感情にかられてる(笑)。

R:フライドポテトも食べてもいいけど(笑)、どのオムライス食べたかは思い出して。

M:そんなに凝ったものは食べなかった気がする。ハヤシソースだった気がするな、私。

R:それにしてみる?

M:(店員に)チーズインハヤシソースオムライスと、ハヤシソース&ベーコンクリームソースオムライス。それと、フライドポテトひとつ。

R:注文して、待ってる間は何を話すの?

M:うーん、何か話したかな…。あっ! その日のちょっと前に私の誕生日があったから、一応プレゼントをもらったんだ!

R:おっ、さっきのお通夜ムードと違って、いい感じじゃん!

M:彼に「おめでとうって直接言えてなかったから、これ、誕生日プレゼント」って言われて。

R:おぉ!

M:あいつのお下がりの「書を捨てよ町へ出よう」のDVDをもらった。

R:…ん? お下がり? 新品じゃなくてパッケージ開いたやつ? それ、もりたはどういう心境になるの?

M:あの人の一番好きな映画のひとつだったし、DVDは欲しかったから、嬉しくはあったけど…「付き合う前に、一緒に観たことあったよなぁ」とは思った。

R:もう観たやつなんだ(笑)。開封済みで、しかももう一緒に観たDVDが最後のバースデープレゼント。

M:そうだよ、まぁ嬉しかったけど、今思うと「大切にされてないな」とは思う。だって開封済みっていうかさ、自分の持ち物をあげてるだけじゃん。別にわざわざ買ってほしいとは言わないけど、ないがしろにはされてるよね? ラッピングされてた記憶もない。普通の袋に入ってた気がする。ビニール袋に…。手切れ金代わりだったのかな。もしくはあいつ、私との記憶があるものを手放したかっただけなのでは?

R:家を出る前に「あっ…あいつ、誕生日だ」って気づいて、手持ちから喜びそうなものを適当に持ってきた可能性もあるよな。

M:うわ、涙が出てくるわ…。

R:付き合って1週間で指輪を買ってくれた彼氏とは思えないプレゼントだもんな。

M:私、今までに指輪をいっぱいもらってきたけど…。いっぱいもらってきたというのもイヤな言い方だけどさ…。

R:いや、いっぱいもらってきたでしょ。付き合った男全員くれるんだから(笑)。

M:まぁな。けど、指輪を失くさなかったの、飯田橋の彼にもらったものだけなんだよね。

R:他は全部失くしたのか(笑)、そっちの方がイヤな感じ出ちゃうぞ…。

M:それくらい飯田橋の彼からもらった指輪は大切にしてたってことなんだよ(笑)! お風呂に入る時と食器を洗う時以外はずっと指輪つけてた。

R:そんなに大切な指輪をくれた彼からの最後のプレゼントが、もう観た開封済みDVDだった…。

M:渡された時、「あれ、なんか貸してたっけな?」って思っちゃったくらい、プレゼント感が無かったなぁ。

R:でもまぁ、一応プレゼントをもらって、他には何を話したの?

M:「ゴールデンウィークはどこ行くの?」って聞かれた。「どうせ塾のバイトが入るだろうから、まだ決めてない」って答えたはず。でも大学はお休みだし、遊ぼうと思えば遊べるわけじゃないですか。そういう話も出てこなかった。

R:「忙しいなら会えないよね~」でおしまい、という感じか。

M:会話が途切れないように、「一応お聞きしますが…」っていうニュアンスだったんじゃないかな。

R:でもさぁ、関係が冷めているとはいえ、一応プレゼントを渡して、今後の予定の話もしてるわけでしょ。この直後に別れ話になるとも思えないんだけど…?

M:でしょ? だから私としてはちょっと安心したんだよ。

R:話を聞いてる限り、別れるという選択をするほど決定的にダメな状態だとは思えないんだよなぁ。彼も関係を続けようとしている感じはするし。

M:「別れよう」って言うかどうか、考えてたのかな。

R:もりたの感触を探ってた?

M:もしかして私の回答がとどめをさしたのか…? いや、わかんないなそれは。

R:まぁ、どう答えたら彼が思いとどまるか、正解がわかんないもんね。

もりた、食中に振られる

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R:どういうタイミングで、別れを切り出されたの?

M:彼がオムライスを食べ終わってから。私のはまだ3分の1ぐらい残ってた。

R:うわー、それは最低だ(笑)! せめてこっちも食べ終わってからにしてほしいよね。

M:あいつの言いたいタイミングで言われましたよ。私が「最近は大学でこういうことがあってね」とか、いつもの調子でペラペラ喋ってたら「あのさ…」って彼に言われて。「何?」「あのさ…、君とは惰性で付き合ってたと思うんだよね」「…え?」「だからさぁ、申し訳ないんだけど、友達に戻りたいなと思って」。いきなりすぎて理解が追いつかない。こっちは今までオムライスに集中してたわけですから。

R:食前食後ではなく、食中に振られたのね(笑)。

M:「他に好きな人ができたとか、そういうのじゃないんだ。俺が今、恋人のこととかちゃんと考えられる状況じゃないから、友達に戻りたい」だってさ。まぁ次の日、ヤツのFacebookのステータスが「交際中」に変わるんですけどねー!

R:面白いけど、その件は後で話そう(笑)。別れを切り出された時のもりたは、どういうリアクションだったの。

M:「そっか…、わかった」って。

R:受け入れたんだ。

M:そんなふうに言うってことは、こっちが何を言ってももう無理なんだなと思って。すがったところで惨めになるだけだからね。泣きそうで視界がにじむんですけど、堪えて、「わかった、じゃあ別れよう。今までありがとう。指輪、返すね。あと鍵も返す」。

R:その場で返したの?

M:そう。指輪もスッと外して、「ありがとう」って言いながら返した。「俺の部屋に荷物が残ってるけどどうする? 取りに来る?」って言われたけど、会ったらまた言いたくないことを言っちゃいそうだから、「あなたの家に置いてある私物は、もう全部捨ててください」って。

R:そっか。…オムライス美味しい?

M:…美味しい。

R:当時食べたのもこれだった?

M:この味だった気がする。美味しいけど…、つらいなぁ。普通さぁ、別れ話をオムライス食べてる途中にします? 帰り道でいいじゃん! …一刻も早く別れたかったのかなぁ。もう、ゴメンとしか言えないですよ。私が悪かった。

R:もりたは自分で、どこが悪かったと思ってるの?

M:メンヘラなところ。

R:ははは(笑)。

M: 最初は「お互いやりたいことをやりながら付き合える関係がいいよね」って許していたはずなのに、それを今更、付き合って何年も経ってから「やっぱり嫌だ」って言われるのは、彼からしたら縛られる感じがするでしょ? 自由にやりたい彼に対して両手放しで喜べなくなった時点で、ダメだったんだよ。

R:うまく距離を保ちながら付き合っていこうと言ってたのに、もりたがその境界線を越えちゃったわけだ。

M:自由で構わないんだけど、「こんなにないがしろにされるんだったら付き合ってる意味ないな」って思っちゃったんだよね。

決定的なすれ違い

M:…あ。

R:どうした?

M:いま思い出したんだけど、彼が別れたいって思った決め手、もしかしたらあれだったのかな…。

R:何?

M:その当時、彼は大学3年になる直前だったんだけど「実は休学しようと思ってる」って言いだしたんだよね。「別に何か目的があるわけじゃないけど、今のまま大学に通っててもあんまり意味ないから、学業を一旦ストップして考えたいんだよね」って。

R:今後の身の振り方を見直したいと。

M:私、「ちょっと待って」って言っちゃったんだよね。ほら、彼って一度社会人をやってから大学に入り直した人でしょ? それで特に目的もなく休学するっていうことに、私はあんまり必要性を感じられなかった。お金もそれなりにかかるわけだしね。「そういう意味の見出せないことに対して、私はあんまり手放しでは賛成できない」って話をした。

R:彼が人生の選択をしようとしているところに、もりたは待ったをかけちゃったんだな。それで「お互い好きなようにやっていこうって言ってたのに…」と、彼が思ったかもしれない。

M:「こいつとは決定的に合わないな」と思われた可能性はあるね。

R:その話をしたのもポムの樹?

M:そう。店に来る道すがらで「休学したい」って言われて、ポムの樹に着いてから「さっきの話なんだけどさ…、私は賛成できないな」って伝えた。

R:それを聞いて「こいつとは合わない」と思った彼は、別れを決断した…。

M:うわ、そういう流れだったのか…?

R:あくまで可能性だけど、あり得る話だよな。惰性で付き合ってても、一緒にいて居心地がいいならまだよかった。でも、こいつは俺の身の振り方に今後も口出ししてくるかもしれない…、それなら、これ以上一緒にいる意味ないなって考えるのは自然かも。

M:その前からサークルの件であれこれ文句も言ってたしね…。えー、じゃあもりたも悪いんじゃん…。

R:どっちが悪いっていう話でもないんだよな…。すごく合ってるつもりでいたんだけど、実は決定的に合ってないポイントがあって、それがとうとう露呈しちゃった。

M:そうやって我々は別れを告げたのです…。別れちゃったんだなー、悲しいことに。

R:別れちゃったねー、悲しいことにね。

M:ずっとさ、「どうしてあんなことになっちゃったんだろう?」と思っていたけど、今日ちょっと絵解きができて、ほんの少しわかった気がした。自分の反省点が見えるのは素晴らしいことだね。でも…、もしもさぁ…、彼の休学に賛成してたら、私たちってまだ付き合ってたのかな。

R:うーん、休学してからの彼の行動によるけど、我慢しても我慢しても、どこかのタイミングでもりたは彼の判断に口出ししちゃったんじゃないかな。

M:そうだよね…。あそこで別れなかったとしても、遅かれ早かれダメになってたんだろうなとは思う。

R:もりたはこの企画の最初からずっと、飯田橋の彼に対して「ちゃんと言いたいけど言えなかった」「はっきり怒れなかった」って悔やんでたじゃん? でも逆にいえば、彼はうるさく言わないもりただからこそ付き合ってたんじゃないかな。そして、もりたが自分の気持ちをちゃんと伝えられなかったのは、言えば言うほど、彼の気持ちが離れていくということがわかってたから…?

M:…うん、たぶんそういう感じだったんだと思う。

R:いろんなことを言えないままで別れたから、今のもりたとしてはスッキリしてないんだけど、そうしないと彼と一緒にいれなかったんだよね、きっと。

M:やっぱり、彼が「さっぱりしてる君が好き」って言ってくれた、そういう私でいたかったんだよ。

R:自分の気持ちをはっきりぶつけてたら、飯田橋の彼とはもっと早く別れてたのかな。

M:そうかもしれないし、逆にぶつかり合ったことでお互いのことがもっと理解できたかもしれない。もしもの話をしてもよくないと思うから、そういうことは考えないようにしてるけどね。最後くらいはガツンと言ってやればよかったとも思うけど、その反面、彼が好きって言ってくれてた私のままで別れたかったんだよなぁ。

R:その結果、物分かりよく別れを受け入れたと。

M:そう。だってもう、二度と会えないかもしれないんだよ。その最後の記憶が「嫌な女だった」っていうのはつらい。どうせ記憶に残るなら、いい記憶でありたいじゃん。その結果、自分で自分に傷を作ったりするんだけどね。悲しいな。どっちが悪いとかじゃないから。

R:うん、2人とも譲れない部分が合わなかっただけで、どっちが悪者って話じゃない。どっちも悪くないからこそ、引きずってしまうのかもな。

M:彼には幸せでいて欲しいけどね…。詩人の最果タヒさんが「わたしをすきなひとが、わたしに関係のないところで、わたしのことをすきなまんまで、わたし以外のだれかにしあわせにしてもらえたらいいのに。わたしのことをすきなまんまで」っていう詩を書いてるんだけど、そういう心境。…さて、オムライスも食べ終わったし、色めき立つセンター街を抜けて帰りますか。

最後のデートの終わり

R:帰り道はどうだったの?

M:「今までいろいろありがとね」と言った気もするけど、あんまり記憶がない。「気まずいな…」とは思ってたかな。気まずい。どうしたらいいかわからない。でも、もう終わりだってことも、ここで別れてしまったら最後なんだろうなってこともわかってるわけです。

R:このまま、会うことも無くなるんだろうな、と。

M:そうそう。「部屋に置いてる荷物は捨てていい」って言っちゃったから、次に会うための口実もない。思い出話はしたと思うけど淡々とした感じだったな。もう手をつなぐわけでもなく、何をするわけでもなく。最後くらいは、ちゃんとあんまり迷惑かけないように過ごしたかったから。

R:いい思い出で終わりたかったんだもんね。

M:「少しでもいい思い出のままで別れて、最初の頃のようにとはいかなくても、ちゃんと友達に戻りたいな」って思ってた。

R:でも友達には戻れなかった。

M:だって、連絡しても返してくれないし。

R:で、別れた翌日、彼のFacebookのステータスが「交際中」になってたんでしょ?

M:まぁ。それは何年か後に知ったんですけどね…。それ聞いて「いやいや、お前やっぱり他に女がいたんやないかーい!」って心の中で盛大につっこんだ(笑)。「別れた次の日から『交際中』になるってことは、二股やないかーい!」って。

R:まぁ、確実に付き合ってる時期は被ってるよな。

M:しかも「いつから交際してるの?」って聞いてるコメントに、彼が「実は結構前からですよ」って返してて、「はーっ!? なにが『他に好きな人ができたとか、そういうのじゃない』だよ! なにが『俺が今、恋人のこととかちゃんと考えられる状況じゃない』だよ! 私と付き合ってた時はステータス『独身』にしてたやんけ!」とは思った。

R:後ほどそんなにブチギレするとは知る由も無く(笑)、もりたは「友達のままでいたいな」と思いながら、渋谷駅に向かったわけだ。

M:彼は地下鉄で、私は京王線で帰るから、ハチ公のところで「もういいよ、ここで」って言ったの。でも彼が「改札まで送らせてよ、最後だしさ」って言うから、上りのエスカレーターに乗って、彼の後ろに立って「もうこの背中を見ることもないんだろうなー」とか考えてたら、京王線の改札にすんなり到着しちゃって。

R:別れ間際、最後にどんな話をしたか覚えてる?

M:「今まで本当に楽しかったし、友達に戻れるなら戻りたいし…。だからさぁ…、最後にわがまま言っていい? 抱きしめて欲しい」。そう言って、ハグしてもらった。「もう大丈夫。ありがとう。じゃあね」って言って、改札の前で別れたんだけど、そのあと満員電車でつり革につかまってたら、堪えてた涙がポロポロ出てきて、目の前の席に座ってたおじさんがビビったのか、席を譲ってくれて…。そのままワンワン泣き続けて、途中でビール買って、飲みながらまたワンワン泣いて、家に帰ったというのが、最後のデートの結末…。

R:…えーっと、ハグしようか(笑)?

M:嫌だ! ハグするならイケメンがいい!!!

R:わかった、やめとこう(笑)! さて今回で全部聞ききったから、次回はいよいよ最終章だよ。飯田橋行けそう?

M:いや、もちろん行きますよ。行きますけど、体調不良のため当日ドタキャンする可能性はある!

R:ダメだよ(笑)、その時はすぐリスケするからな!

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インタビュイー
もりた(Twitter:@minic410)
逆流性胃腸炎気味なのにビールと煙草中毒なOL。
クーチェキでは「情事の後は、必ず金マル。」を連載中。
短期集中演劇創作イベント『第一回DramaJam』では、「短歌病」で脚本賞を受賞。
インディーズ小説「あなたは砂場でマルボロを」「許してよ、ダーリン」がKindleをはじめ各種電子書店にて発売中です。

インタビュアー・記事構成
Ryota(Twitter:@Funatoku_ryota)
クーチェキの企画・運営・編集をやっています。

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