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事業承継、また経営者を目指すことについて考える。(No.2)

前回の記事において、M&Aの中で最も重要なPMIについて経験したことを整理すると申し上げました。その内容を投稿します。

M&Aにおいては、成約までが重視されがちですが、成約・決済まではあくまでも経営者層で行われます。特に上場企業の場合はインサイダーも絡むため、現場のメンバーに情報が漏れないように、秘密裏に契約行為が進められていきます。実際には、契約、決済、プレスリリース後、現場でオペレーションを回す従業員を含めて、組織と組織を統合させていく作業である、PMIが最も重要で難易度の質が違う。そもそも共通語が違ったりしますから、その辺りもケアしながら、かつ経営陣にも気を配りながら、いわゆる「100日プラン」最初の3ヶ月の作業をガシガシと進めていきます。その辺りを公開できる範囲で共有していきます。では、まず何に取り組むか?

部員全員との1on1の実施

当たり前といえば当たり前ですが、部員全員へこちらからアポを入れて話を聞きます。こちらからが重要です。「空いてるところに打ち合わせを入れろ」などはダメです。1時間だと長い、30分程度がベター。地方の中小企業は日本の大企業より、転職者の割合が多い気がします。案外生え抜きが少ないなと思ったことが印象的でした。Uターン組が多いんでしょうね。子育てが絡んでくると、当然実家が近い方が良いですから。

中途の割合が高く、純粋培養された人材が少ないので、知識と経験の偏り(別の言い方をすると深さ)を踏まえて、

  • これまで何に取り組んで、どんな成果を上げてきたか

  • 顧客との関係性

  • 得意分野

  • 今後どんなキャリアパスを描いているか?

  • 会社に対して感じる課題

  • 仕事に悪影響を与えるほどの苦手な同僚はいるか?

これらをなど聞いていきます。地方企業なので重要なのは、警戒心を与えないこと。基本的に「アクティブ・リスニング」と「フィード・フォワード」前向きな話をしながら警戒心を解いていきます。

地方企業の問題は、そもそも会社の数が少なく「辞めてやる!」と勢いで言えない部分もあり(本人の努力不足もあるのですが)また、社長のリーダーシップが強く、悪い言い方をすると圧政を敷かれている状態でもあり、一度警戒されると正しい情報が出てこなくなります。

また、自分の意識の低さに気づいておらず、会話が全く成り立たない社員がいることにも遭遇しました。例えば、「得意な分野や、自分の付加価値を出せる部分はなんだと思いますか?」という問いに対して「自家製パンを作ることと、ガーデニング」と回答があり、白目を向いたことがあります。そういう人には与えるポジションがあるにはあるので。さておき、この段階で大きな課題だと感じたのは、

  • 営業と開発の分断(仲が悪い)

  • 案件管理の杜撰さ、当たり前にある筈のものがない。そして一人当たり生産性という概念が無い(※一人当たりの生産性にムラがある)

  • 行っている事業の仕分け、やりたいこととやるべきことと

  • 惰性で働く社員と自己肯定感の低さ

  • モンスター社員との対峙の仕方

この位かなと把握しました。一つ一つ対処していきます。

営業と開発の分断

これ、規模の大小はあれどもどこでも発生しがちかなと。要するに、仕事を取ってくることがミッションの営業と、それを正確にデリバリーすることが役割の開発。特に組織のアップデートが行われずに長年塩漬けになっている開発組織は彼ら曰く、リスクの高い(やったことがない)案件を取りたがらず、技術の土俵から降りて来ず、そこを説得仕切れない営業が負けて、フックした案件を提案、実現できず数字が上がって行かないケース。これに加えて、買収後に着任した社長が、開発側に寄り添ってしまう社長だとタチが悪い。永遠に問題が解決に向かいません。

原因は、営業と開発の利害関係が一致していないことであるため、どう利害関係を合わせるか?そこがポイントになります。開発部長との良好な関係を築くことは大前提のため、まずは開発部の求めるものを会話を通して把握します。そうすると、だいたい見えてくるんですけど、そもそもそのポジションに甘んじていて成長意欲に乏しいことが見えてくるんですよね。100人程度の会社でも、地方では「雄」とされることもあり、変に大企業化してしまう。そんなことを目にします。

一人当たりの生産性を見ていると、明らかに競合他社や大手よりも低く、ストレッチできる筈なのにそれを怠っている。数字が上がらなければ、営業のせいにしておけば良い。「失敗したら営業のせい、成功したら自分の手柄」そんな文化。その間にどんどんと技術が進化していき、お客様のニーズが変化し、他ベンダーにリプレースされて、収益が下がっていく。そんな構図です。

その心地よい、ポジションから出たく無い訳です。さて、どうするか?

短期的には、営業と開発の間に入る人、IT業界ではPre-salesと言います。このポジションの人を外部からアサインする。兼務でOK、ただし極めて優秀で営業に寄り添える人であり、本当に危険な案件は受けない。そんなタイプです。営業寄りのスタンスで技術視点で案件のリスクを正確に分析して、それを開発と議論し、やるべき案件に仕上げていく。

取締役との交渉において、予算を確保して、そのポジションの人をアサインしました。営業と開発の両方のリスペクトを勝ち取れる人です。

案件の情報が、正しく流れることになり提案の回数が増えていきました。その効果を上手く、引き合いに出しつつ、中期的には事業部制度を会社に対して提案していきます。事業部制にすることで、組織としてのベクトルを合わせて、事業部のMVVを浸透させて、一つの会社として機能させる。ま、ここまでは2年間では届きませんでしたが、一部採用されました。あんまり社長にガーガー正論を述べたので、嫌がられたのか、PMIはひと段落ついた。という形で、別の部署に出されました。その、立ち回りが未熟だったのは反省点です。

では次、案件管理の杜撰さ

驚いたことに、見積承認の仕組みがありませんでした。つまり、お客に言われるがままに、赤字で案件を受けていたケースが散見されたし、ストックビジネスでも赤字のまま進んでいたケースがある。

これは仕組みを導入すれば良いのですが、ここで高額なSaasを導入するとかになると本末転倒です。かといって、人力賞賛の組織もダサい。なので、既に経理業務で使用している安価なソフトウェアを応用して、見積決裁&承認の流れを作りました。副部長と連携して、案件の規模、それから利益率、バックオフィスへの配賦を鑑みて、決裁の流れを作っていきます。そして、部門に対して運用方法のアナウンス。オペレーションに乗せる。

システム自体はシンプルなものがベター。必ず不満が出るので。難しいものは。後は、案件管理のソフトウェア(既存)を活用して、各課長と連携の上、設定した一人当たり生産性(年間1,400万円)をクリアするためのKPIを設定して、それをクリアする責任&役割を与え、必要なリソース(開発リソース・出張費・)の調達は私の役割として引き取ります。

ここで一先ず、赤字で見積を出すなどの行為はシステム的に殲滅させることができました。後は、案件ごと、顧客ごとの収益性の評価と、そもそものサービスの強みや課題の評価と解決策の検討です。

行っている活動の仕分け、やりたいこととやるべきこと

このあたりにメスを入れることは、正直あまりやりたく無かったのですが、生産性を高めるために、必ず必要な作業です。地方企業であり、前社長の先見の名があり、あるサービスが地方自治体に大量に導入されて、ある特定領域に置いてプラットフォーマーの位置を狙える所にまで来ていました。従い、大量の地方自治体の顧客がいる訳です。

ご経験の有られる方、頷かれると思いますが、地方自治体への営業って独特の魔性があるんですよね。地方に行くと、人も優しいし、それこそ色んな異文化に触れてシンプルに楽しい。なので、無駄に通ってしまうんです。

そう、出張費がめちゃくちゃ嵩むんです。

そして、自治体から受託を受ける事業の特色として、非常にざっくりとした調達要件で受注せざるを得ず、基本的にリスクは事業者が被るため、リスクが高い。そして、単年度調達なので必ず1年間でデリバリーしないといけない。加えて、兵庫県の折田楓さんの件でも問題視されていましたが、いわゆるプロポーザルには色んな方面からの力が働きます。それこそ政治的な力ですね。大小はあれど。まぁ、基本的に地元の企業にどうお金を落とすか?という力学が働く訳です。

なので、XX地方という括りで親和性が低いエリアについては、自治体の訪問に合わせて必ず現地のパートナー開拓を行うことにしたことと、初アポと、クロージングはオフライン・ファースト。それ以外はオンライン。というルールを作りました。自治体なので接待費はかかりません。全て割り勘です。

地方への出張、これが楽しいのはマネジメント側も一緒です。ただし、私が奔放に経費を乱用してしまっては、本末転倒です。オーナー企業であればまだしも、上場企業Grの一部な訳ですから、経費は悪です。株価が下がります。

ただ、その代わり東京にはどんどん来てくれとお願いしました。会社も沢山あるし、何かの出会いが案件に繋がるかも知れない。そんな意味合いで。

細かな案件ごとの収益率の管理は課長に委ねましたが、一人当たり生産性1,400万円を達成するために、具体的なアカウント・プランを描かせます。ほぼ、開発部分の小間使いに成り下がっている奴もいて「事務処理が忙しくて無理です」とか平気で宣う訳ですが、知りません。

一人当たりの売上総利益を1,400万円稼ぐことがミッションです。

ルールとツールを与えてしまえば、後は進捗を週次でチェックしていくだけです。それ以外の日々起こる問題は処理しながら。

で、やりたいこととやるべきことの議論ですが、ここは比較的シンプルで
自治体の課題は大きく
・関係人口の創出による税収の拡大

に集約されると考えます。

例えば、少子高齢化も転出人口が多いことに起因するし、税収が減ることも関係人口の増減に依存します。(それなので、ふるさと納税は、良い面もあるソリューションなのですが・・)

なので、その課題にダイレクトにヒットするか?また、短期的な高収益が稼げる可能性があるか?その軸で検討しました。なので、やりたくはありませんでしたが「そうだ、マイナンバーカード作ろう」というTシャツを着て店頭にも立ちましたし、ローカルテレビにも出ました。

そして、ヘルステック系のソリューションは、取り組んではいたのですが、国民皆保険制度が崩れない限り大きく収益を生むことはない事業なので、いったん優先順位を下げました。

「熱が出た」と言って、まずはかかりつけ医の判断を仰ぎ、その上で専門医の診察の予約を取って、ようやく「良い食事を取って、よく寝なさい」と意味不明な診療をされる海外(イギリス)と違って、日本は近所の医者に行けば親切に対応してくれるし、すぐに薬の処方もされる。こんな国は他にないですよ。

だから、ヘルステックは相当その道に詳しいか(MEDLEYやMICINなど)、あるいは人材紹介(M3等)の方に寄せるかしないと勝ち筋はありません。

そんな形で、考え方を伝え浸透させていきます。

惰性で働く社員と自己肯定感の低さ

これも結構な衝撃だったのですが、先述の通り地方には絶対数としての会社が少ない。また、中小企業のオーナー社長にはリーダーシップの強いタイプ(悪く言えば圧政を敷く)が多いことも事実で、まぁ運用としては正しいのですが、争うものには容赦なく矢が飛んできます。例えば、朝の体操をボイコットなどすると、社長から注意を受けると。その注意の回数が3回に達すると解雇事由と見なされ、クビにされると。そんなイメージです。

故に、言いたいことが言えず、アイデアも否定されがちで自己肯定感が下がり卑屈になる。どうせ何を言ってもダメだ、と考えて惰性で働く。そして、チャレンジもせず、スキルも上がっていかない。お客様の所に出向かずに、事務処理屋に徹する。私が大手企業で経験したことのミニチュア版がそこにありました。

さてどうするか?どうすれば自己肯定感を高め、チャレンジを促せるか?

地方の企業とはいいながらも、そこは地元の雄とも言われる企業で、ITに業態変更をしたとはいえ、70年以上の歴史がある会社です。売上もそれなりです。それで考えたことが、売上と営業利益で同サイズの上場企業を比較対象として挙げることでした。

探してみると結構あって、東証グロース市場に同サイズの企業が50社程度あったと思います。その中で、タレントを使ってバンバンCMを売っている企業を選び、月次部会の際に、その企業のサービスや時価総額世の中にどんな価値を提供しているかを共有します「みんなのやっていることは、自分たちが思っているよりすごいことなんだ、これを改めて認識してください。なんなら、親子上場も目指せる仕事をしているんですよ」と。

どこまで心に訴えかけられたかは分かりませんが、何人かは共感を覚えてくれて、その後登録される案件数や、顧客とのアポの件数が順調に伸びていったことは如実に数値に現れました。もちろんアンチもいたと思いますが、部門長として、だんだんと認められていった感覚を覚えました。

気がつけば、もう5,300文字です。「モンスター社員への対峙の仕方」については、次のnoteで。

所々、あまり詳細には書きづらくぼんやりとした表現になったこと。ご容赦ください。

以上




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