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噛まれた本
谷川俊太郎さんのことをニュースの記事で知った。
本棚から谷川俊太郎さんの本を取り出した。
2冊ある。
「二十億光年の孤独」と「ひとり暮らし」。
「ひとり暮らし」の本にはエピソードがある。
7〜8年前、うちにはもう一匹犬がいた。ちっちゃくてやんちゃで。
ある日私は「ひとり暮らし」を畳に置いたまま出かけた。帰ってみると本がボロボロになっていた。背表紙は歯形がついて天と地がガタガタに欠けていた。驚いた。本がこんな形になるなんて。本を持ったまま呆然と座り込んでいる私のそばにやんちゃ犬が来た。当時まだ生後数ヶ月で、ちょうど乳歯から大人の歯に生え変わる時期だった。むず痒かったんだね。少し申し訳なさそうに上目遣いで私を見ている。
やられました…と思ったけど、読めないほどの状態ではないしお気に入りでもあるから、またそのまま本棚に戻した。
それから数ヶ月後、やんちゃくんを成犬にしてあげることはできなかった。生まれた時から病気がちで入退院を繰り返していた。
本はその後何年もずっと手元にあった。
読み返したくなり何度か手に取ったのだけど、破れて読めない部分もあって、新しく同じ本を買った。
今となってはボロボロになつた本をいつ処分したかわからないけど、少し後悔している。
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もう一冊の「二十億光年の孤独」をパラパラとめくっていると栞がでてきた。手作りである。
すっかり忘れていた。ハギレで縫ったのだ。
これからも何度もゆっくり味わおう。