決意はふと、真夜中に。vol.7


『お願いしたいことがある』
深妙な面持ちで真琴が言うから、くだけて聞くわけにもいかない
『僕にできることなら』
彼は今動けない、ならば僕がやるしかない、と思っていた
『次の被害者を止めて欲しい』
聞こえてきたのは少し、意外な話だった
『まだ終わらないと思うんだ、多分、次に僕みたいな奴が現れる』
そこから真琴は続ける
彼自身、その前の飛び込み事故の時に、見ているらしい。飛び込んで、赤い星になっていったその人の顔を
その顔が忘れられず、遂には自分が覆われてしまうような感覚
今思えば恐ろしい
そう、弾けるような笑顔
そしてそれがきっと次に続いている
今夜にも同じような、耐えられない様な惨劇を起こそうとする奴がいる、と
そんなものは続けさせてなるものか
真剣に語る真琴は真っ直ぐに浩太朗を見つける
この目だ
普段は、大して気を張ったりもしない真琴だが、時々全てを見通すかのような視線を配り続ける

その眼に僕らはついて行きたくなる


雨が土砂降りの上、警報レベルが上がっている
僕らは連絡し合って、真琴のいう事を阻止するために暗い街中で見張りをする
こんな時に現れる奴が居るのだろうか
誰かが誰かを殺そうとしているのじゃない
それぞれの中の、ほんの少しの過激な承認欲求そして自分は稀少だと思いたい価値観
渦巻く火の粉はすぐに全身を燃やして突拍子のなき奇行にはしる

認められたい?そんなの近くの人で充分じゃないか
知らない誰かに認められても、いつも触れ合える仲間たちに疎外されてしまうと結局振り出しだ
自分は特別なんかじゃないんだからみんなで生きていけるのが楽しいんだ

真琴は真っ直ぐだ
だからこそ間違いもあるのだろう
そんな真琴に、、、
僕は

認められているのだろうか

僕は真琴を尊敬している
自分にない素敵な魅力を兼ね揃えている
だが僕は?
真琴のなんなんだ?

心の火はスピードが速い
燃え上がるのに少しの発火材があればいい
ふつふつと湧き上がるものは一体どうすれば止められるのか想像もつかない

誰とでも代替可能なスキルしかない僕なんて所詮、自分に刺さらないうちは使える歯ブラシみたいなものか
使い方さえ間違えなければ、という曰く付きの僕なのか

わからないわからないわからない
彼にとって代われない人でいなきゃいけない
そう思うと頭に浮かぶ事は1つだった
彼にとって代わらないもの
今、この瞬間に思い出になる事
もう随分前から辺りが見えない雨のカーテンで囲われていた
すると、浩太朗は振り払うかのように一目散に走り出す
聞き馴染みのある音が聞こえる
カンカンカン
もう気にする必要はない
ここで終わって
そこから僕は始まるのだ
笑いがこみ上げてくる
世界よどうぞこんにちは
こんな景色が欲しかったのでしょう
浩太朗は立ち止まる
ここが居場所か
忌まわしき鉄のぶつかる音が聞こえる
惹かれるように身体が動く
電車は何事も無いように通過する

続く

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