10年先を見据えるために
私の勤務先では年に一回自社の技術発表会のようなイベントが開催されるのですが、今回それに対して発表のネタを考えるよう先日指示がありました。
テーマは「10年先を見据えた自社の構想」とのことです。
構想?ビジョンなら管理職や経営層が考えるべき内容なのではないかという疑問はさておき、せっかく声がかかったのでこれを機会に、10年先を見据えるにあたってこれまでの10年でどのような変化があったかを振り返ることにしました。
今回はその振り返りの中からいくつか情報をまとめてご紹介しようと思います。
iPhoneの進化
まずはテクノロジーの変化に着目しました。私はiPhoneユーザーではないのですが、身近なテクノロジーの進化を振り返るにはちょうど良い存在かなと思い過去10年のiPhone進化を少し調べてみました。
10年前の2014年9月 iPhone6が発売されました。搭載されているCPUはAppleのA8チップ、カメラの画素数はメインカメラが800万画素、インカメラが120万画素の性能があり、指紋認証であるTouchIDが搭載された機種として世に送り出されました。Androidに比べてiPhoneは防水機能に対応するのが遅かったという記憶がありましたが、iPhone6は防水未対応だったようです。
変わって現在のiPhoneですが、9月に新機種が出るようですが現状の最新はiPhone15です。CPUはA17Proチップ、カメラの画素数はメインで4800万画素、インカメラで1200万画素、顔認証機能のFaceIDが搭載された機種になります。もちろん防水、完全防塵機能も実装しています。
メインカメラの画素数で比較すると6倍に拡大されています。2000年代コンパクトデジカメが流行りだした頃はメガピクセル(100万画素)の広告表現が高性能の象徴のように記憶していましたが、今ではさらにその数十倍上を行くことになります。
また処理能力としての比較ですが、スマホベンチマークツールで有名らしいAntutuベンチマークスコアをインターネットで検索してみると、以下のような結果が確認できました。
iPhone6 A8 スコア:80,655 (引用元:https://ja.wikipedia.org/wiki/Apple_A8)
iPhone15 A17Pro スコア:1,526,893 ※約19倍 (引用元:https://mobile.hamic.ai/a17-pro/#:~:text=A17 Proのベンチマークスコア,2%2C952、マルチコアで7%2C462です。)
このようにベンチマークのスコアからiPhoneの10年を見ると、処理性能は約19倍の進化を達成していることになります。
スパコン性能
次はもう少し高性能な世界の話題でスパコン(スーパーコンピュータ)の世界の性能変化を確認してみたいと思います。スパコンの性能は毎年発表されるTOP500というランキングでベンチマーク性能のスコアを確認することができます。
2014 中国の「天河2号(Tianhe-2)」 ベンチマーク性能 33.86P(ペタ)FLOPS (引用元:https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/1311/21/news058.html)
2024 米ORNL(米オークリッジ国立研究所)に設置されたエクサスパコン「Frontier」のベンチマーク性能は 1.206E(エクサ)FLOPSだそうです。(引用元:https://news.mynavi.jp/techplus/article/20240513-2944914/)
つまり、10年間でスパコンの性能が35.6倍まで拡大したということです。
ただし、このトップの「Frontier」のスコアは昨年の数値とあまり変わっていないようですので、この一年間だけを見ると性能の向上は微々たるものだったようです。
なお、FLOPS(FLoating-points Operations Per Second)は1秒間に計算できる浮動小数点演算数です。浮動小数点演算とはデジタルのコンピュータの世界で小数の計算を行うときに内部で行われる計算処理で、Wikipedia を見るとPlayStation5が10.3T(テラ)FLOPSだそうです。
単位はそれぞれ1000倍することでM(メガ:100万)→G(ギガ:10億)→T(テラ:1兆)→P(ペタ:1000兆)→E(エクサ:100京)と変化するため、PlayStation5と比較すると上記「Frontier」は11万7千倍の浮動小数点演算能力を持つということになります。
人的資本の観点
次は見方を変えて世の中の考え方の変化についてみてみましょう。10年前はちょうど診断士の勉強をしていたころですが、当時従業員と会社の関係を表す言葉として「従業員ロイヤリティ」という言葉が一般に語られていた記憶があります。
ロイヤリティというのは一般的に「忠誠心」を表す言葉であり、従業員は会社に従属する(もしくは従属に近い)存在であることを基本とした考えが一般的だったということがわかります。
現在では、自社の経営陣でも使うようになりましたが、契約、婚約を表す「エンゲージメント」という言葉で従業員と会社の関係を表すことが一般的になってきました。
従業員に対する考え方が変わってきており、従業員のモチベーションを高めて業務に対するコミットメントを確実にしてくことで組織が良好に機能していくことに期待しているのだと思います。
このような変化から見られるように、人手不足が叫ばれているなか優秀な人材の確保が各企業の課題であり、人的資本の観点で経営を見直す企業が増えてきております。
窓口業務の観点
最近JRが駅の窓口を減らしていることがニュースになりました。JRに限らず金融機関などを見ても有人支店を減らすなどこれら窓口業務のあり方が大きく変わってきているのが目立ってきています。窓口業務は対人業務なので、ユーザーの視点からは変化が良く見える部分であるためより目立って見えているのだと思います。
JRでは券売機、金融機関ではATMなどの機械が性能向上し、多機能化していることに加え、窓口をインターネットのオンライン処理にシフトすることによって業務の主体を人から機械に切り替えています。
またコールセンター業務などは、少し前は人件費の安い国や地域でのオフショア対応が増えていましたが、今はAIによるチャットボットでの対応が増えてきています。対応品質の良し悪しはまだ検討の余地があると思いますが、このような技術が一般的になってきているのは人手不足の中で効率的に窓口対応をこなすためのDXの結果だと思います。
これらの変化は社会の課題に対して技術の進化がどう対応したかの結果でもあります。
券売機やATMの多機能化には高速なデータ通信やデータベース処理能力が必要であり、端末やサーバー、およびネットワーク機器の計算処理性能の向上が必要になります。
チャットボットの対応品質が向上するためにはAIの学習制度を上げる必要があり、そのために高品質で大量の学習を行わせる必要があります。
まとめ
今後10年先を見据えるにあたってはまず自社や顧客の課題を正しくとらえたうえで、技術の進化をうまく融合させることで最適なソリューションが生まれてきます。
今回の振り返りを通して、自社の構想を検討する前にまずは自社や顧客の課題が適切にとらえられているのか確認することを提案してみようと思いました。