うるさい爺さん
「コラボ」って言葉は「コラボレーション」の略だ。
本来は「共同作業」って意味ですね。たとえば10年ぐらい前だったら、二者が一緒になって作品を作るのを「コラボレーション」といい、単に一緒に演じたりしただけだったら「ゲスト参加」「タイアップ」ときちんと書き分けていたはず。
なのに、全国的な「コラボ」旋風が吹き荒れた後では、複数のものを一緒にすることをすべて「コラボ」と呼ぶようになってしまった。「ミクスチャー」も「タイアップ」もすべて「コラボ」である。たとえばA社の製品にB社のシールを貼るだけなら、とても共同作業とはいえないので、きちんと「タイアップ」と書くべきですが、なぜか「コラボ」ばっかりですよ。右も左も。
最近はグルメ雑誌で下記のような表記まで見るようになった。もはや本来の意味とは別のものである。
あずきとロールケーキをコラボした和スウィーツ
もうズタズタですわね。「あずき」君と「ロールケーキ」君が共同で作業したわけじゃないでしょ。これがたとえば「有名ブランド○○と、パティシェ△△がコラボしたロールケーキ」だったら問題はないんですけど・・。
だいたい「和スウィーツ」にしたって、言いたいニュアンスはわかるけれども、その新語がどういう意味で使われはじめたのかを理解しないで、「みんなが言ってるから使う」輪が広がりやすいわが国では、あっという間に希釈されてしまう。おそらく5年もしたら、饅頭や最中も「和スウィーツ」になってる気がするよ。
「コンフィチュール」という言葉を女性誌などで見かけだした。これは結局はフランス語の「ジャム」らしいのだが、今「コンフィチュール」と呼ばれて売られている製品は、今まで日本のジャムが甘いだけのペーストだったのに対して、「もっと自然でみずみずしいジャム」という対比的な意味で「コンフィチュール」と呼ばれているとお見受けする。
これもそのうち、その意図をよくわからないまま「もうジャムって言うのは古いんだー」と解釈する一般の人と、「コンフィチュール」と名づけて今までのジャムをイメージ挽回したいメーカーの人たちとが台頭し、どんどん広まって、5年後にはすべてのジャムはコンフィチュールと呼ばれてるんじゃないか?
新語が出来るのも否定しないし、今までのものと差別化するのに新語を使うのも否定しないけど、問題なのは、そのニュアンスを読み取らずに、表面だけ知ったふりして、どんどんと使う国民性にあるんだよねぇ。海外ではこういうことはないのかしら? 今や、どんな喫茶店もカフェと呼ぶようになったこととか、デザートとスウィーツ、シャコタンとローダウンの関係とか、事例を探すときりがないのだけれど。
そういうわけで、たとえばスーパーの店頭ポップを見ながら、あるいは書店で立ち読みしながら、「なんじゃこりゃ」とつぶやいている、一言多そうな(でも線の細そうな)中年男性がいたら、それはきっとぼくです(笑)。きっと老後は「あの、いちいち表現にうるさい爺さんが来るけぇ、言葉には気をつけんさいよ」などと言われることになるでしょう。いいもん、それで。
(この記事は過去に別のブログに書いた内容を修正したものです)